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第四十二話

 ある日ダンジョンができた。


 若者がそのファンタジックな世界へ踏み出すのもやむを得ないだろう。

 だが、自分で選ぶならともかく、選ばざるを得ないのは悲しいことだ。


 せめて俺が苦難を乗り越える手助けをしてやろう。


 俺は先頭で歩く。ゆっくりのつもりが、すぐ後ろで、かなたがはあはあと息を切らしている。


 その後ろにでかいのが続く。その横を歩くうららは初心者向けのダンジョン装備を身につけている。

 さすがに制服は厳しいと判断し、レンタルして着せた。


 ダンジョンに入ると、さすがに東条に叱られ、大人しくキョロキョロしながらついてくる。


「か、梶様、少し早いです。昨日ほとんど寝てないんです。もうダメです」


「安心しろ、着いたぞ」


 いつもの検証エリアだ。大岩の影である。


「ここでモンスターと戦うの?」


 うららが聞いてくる。


「いや、その準備だ。俺の魔法を使う」


「え? 梶様、魔法使えるんですか? 公式ではそこは使えないことになってますよ?」


「公式? なんだそれは」


「公式なのに知らないんですか? 公式アカウントですよ?」


 ますます分からんが、まあいい。


「東条、お前も手伝えよ」


「例のアレか」


「さゆりから聞いていると思うが、殺気を込めてやるんだぞ」


「分かった」


 俺はそっと荒塩を渡す。


「し、塩!」


「もうBB弾では効率が悪すぎる。これこそが今のトレンドだ。

 お前がうらら、俺がかなただ」


「わ、分かった。

 しかし、今さらだが、そちらの女性は素人なんだな。勝手に警戒リストに名前があったぞ」


「へぇ」


 コイツのヤバいのは中身だ。お前もコイツの毒牙にかかる日も近い。見た目はどこかのモデルのような華やかさなのだが。

 東条像の販売も近い。


 かなたとうららを並ばせ、ゴーグルを渡してかけさせる。


「今からお前たちに俺たちが攻撃する。

 ただ、安心して欲しいのは、攻撃はあくまで雰囲気で、この塩を当てるだけだ。

 できるだけ防ぎたいという思いで身を守るように」


 二人は釈然としない顔をしながらも、一応頷いた。


 俺と東条が塩をぶつける。


「いたっ、梶様、ちょっと痛いですよ。しょっぱいし」


「うるさい。しっかり受け止めろ!」


 それぞれ二袋投げ切ったあたりで、変な顔をしだす。


「その感覚が物理耐性だ。もうタンスの角は怖くないぞ。

 さあ、次の段階だ。次々とかけられる塩を避けるんだ。よく塩を見極めろよ?」


 なんとなくの見よう見まねで、塩を避けようとしたり、かわそうとする。うららは目をつむってしまっていた。


「しっかりと見ろ、目を離すな」


 うららに語りかける。


 東条にも袋を次々に渡していく。


「どこにしまってるんだ」


「聞くな。本当に危ないんだ」


 人間関係にヒビが入るほどにな。


 やがて、かなたとうららはなんとなく避けられてきている。もちろんほぼ避けきれず塩が当たるが、むしろそれは安全保障上は良いことだ。


「さて、第一段階はクリアだ」


 俺は麺棒を四本出す。


「え? 麺棒? なんで」


「これで俺たちを叩くんだ。強く叩く必要はない。どっちかというと、ドラムみたいな感じで、とにかく多く叩け。ちょっとしんどいぞ」


 二人に渡す。


「す、すいません、梶様。わたしできません。梶様に攻撃だなんて。死んでしまいます。

 ぶつけてもらえるだけでヤバいのに、棒で叩くなんてっ、ああ!」


「やかましい。分かった。東条さん、交代だ」


 東条と交代し、俺はうららに叩かれている。


 心情的には痛いが、もちろんノーダメージだ。

 ただ女子高生に叩かれている。


「もっと細かくていい。大ぶりするな」


「ウチもちょっと嫌なんだけど」


 叩きながら文句をつけられる。


 横を見ると、かなたは嬉々として叩いている。


「なんであいつはぐちぐちぐちぐち文句ばっかり言って! なんなのよ、なんなのよ!」


 ちょうどいいストレス解消くらいの気持ちだろう。


 こっちはこっちで乗ってきたのか、太鼓の達人みたいにリズムが乗ってきている。


 俺は叩かれながらも、細かく小麦粉を散らしている。これが一番効く。


 小麦粉ごと叩けば、とんでもない効率だ。


 悪化した効率もなんのその。

 この化かし合いはいつまで続くのか。


 やがて、うららの打撃もドシンドシンと音を立てるようになる。


 向こうのかなたもだ。

 そろそろ潮時だろう。


「ここまでくれば、後はモンスターを倒せばいいだけだ」


 俺はまずかなたを招く。


「もう少ししたらモンスターが来る。

 お前がその麺棒でぶん殴れ。

 お姉さんファーストだ」


「は、はい。梶様」


 やがて大岩を回り込むように牛が迫る。


「ひぇー」


「大丈夫、俺を信じろ」


 かなたはへっぴり腰のまま前に進み、牛にぶつかってしまう。

 元の状態なら吹っ飛んでいくところ、大した衝撃はないようで、たたらを踏んだ程度だ。


「こんにゃろー」


 かなたの麺棒が何度も打ち付けられ、爆音と共に牛が光に包まれる。


「よくやった。えらいぞ」


「は、はい、ありがとうございます」


「よし、次はうらら、お前だ。

 東条さん、サポートよろしく」


 うららを招く。


「う、うちも頑張る」


「ああ、そうだ。そのためにみんな協力してくれたんだ。どんどんいくぞ」


「はい! 先生!」


「!」


 広義では先生で合っているような、いないような。


 本人は気付いていないようなので、そのままスルーだ。


 しばらくするとまた牛がやってくる。


 うららは勇ましく、麺棒を二刀流で構える。


「いっくぞー!」


 迫り来る牛にカウンター気味に麺棒を繰り出す。牛の頭にヒットし、勢いが収まった。


 うららは歯を食いしばり、再び麺棒を繰り出す。

 こちらもまた爆音が響き、光に包まれる。


「よし。もう少し進むと、モンスターの頻度が上がる。二人ともある程度まではガンガンいって、ガンガン儲けよう」


「「はい! 先生!」」


「お前はちゃうやろ」


 かなたへツッコむ。


 ニタリと笑うかなたは満足そうだ。


 奥に進んでいくと、牛が二匹突進してくる。

 それぞれと戦うよう指示をする。


 なんとか二人とも奮闘し倒す。

 いいペースだ。


「やはり、異常だ。今日初めてという探索者が、ここまでできてしまう」


 東条がつぶやいた。つい慰めてしまう。


「あんた方はもともと鍛錬していた上に変なスキルが乗っている。

 こんな鍛え方をした素人では太刀打ちできないだろ?」


「それでも最も鍛えた素人探索者のほうが驚異的なんだ。どうすればいいか決めかねているんだ」


「その素人探索者を見ていてもどうしようもないぞ。自分で言っても信憑性はないだろうけど、俺は別に街を破壊して歩いたりしないし、犯罪に手を染めたりもしない。ただの小市民だ」


「まあ、お前に関しては俺たちも怖いもの見たさで面白半分でやってるから、あまり気にしてくれるな」


「まあそうだろうよ」


 その後も牛が続けてやってくるので、二人には戦わせ続ける。


 俺が副業でやっている探索業だが、機構という組織、むしろ自衛隊などのガチ組織として、この一般人の危険性が高まる時代に、どうしていくべきかに困惑しているのだろう。


 俺に彼らへできることはあるのか。

 煽ったり、嫌がらせをしたりではなく、ある種の社会貢献だ。探索者を抑えるのではなく、弱体化する方法はある。

 俺は練馬ダンジョンを踏破した時、主の階層への落下前に、体を拘束されたのを思い出した。


「まあ、今度機構にアイデアでも持ち込むよ。

 俺だってこのままがいいとは思わないからな」


「そうか、感謝する」


 ⸻


 今回のリザルト


 かなた、うらら

 「物理耐性」「素早さ」「打撃」「棒術」

 モンスター討伐による身体能力アップ


 東条

 「投擲アップ」


 魔石の報酬はうららに渡した。

 俺たちは機構からの依頼で新人のトレーニングを行ったわけで、報酬は機構からもらうべきだからだ。


 大量の魔石に、うららは満面の笑みを浮かべた。当面の生活ができるほどの金額に逆に引いていたが、安心したのか座り込んでしまう。


 仲間意識が生まれたのか、かなたがうららを支えながら、一緒に帰っていく。


「梶様。うららちゃんはわたしが送っていきますね」


「ああ、ありがとう。助かったよ」


「にへへ、神からのありがとう頂きました。今日も捗りそうだ・・・」


 なんかぶつぶつ言いながら帰っていった。

 後々コイツを巻き込んだことを後悔するのは言うまでもない。


 さらっと東条は去っていく。


「あ、写真・・・」


「内藤よ。俺への報酬は、例の通達の撤回だからな。頑張れよ」


「!」


 血の気の引いた内藤があわあわしてしていた。


 とりあえず、東条氏女子高生とイチャイチャ、犯罪者予備軍あ、ら、わ、るっと。写真付きでさゆりにチャットしたのは言うまでもない。

お読みいただきありがとうございます。

ここまで一気に投稿してきましたが、これからは不定期となります。

引き続き宜しくお願いします。

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