表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/47

第四十一話

 ある日ダンジョンができた。


 ダンジョンの謎はとりあえず放っておくことにした。


 そして秘匿していたスキルも解放した。


 いつもなら仕事に集中といきたいところだったが、やはり雰囲気的にも定時上がりだ。


 今日は目的があるわけではなかったが、快適な豊洲ダンジョンセンターへ暇つぶしに向かっていた。


 受付に顔だけ出す。


「こんにちは。軽く潜ってきますね」


「あっ! すいません、梶さん。少しお時間よろしいですか?」


 珍しく若手の受付嬢だ。

 基本はお姉さん方が担当だが、何かあったのか。


「はい。どうしました?」


「実は、今日デビュー希望の方がいるんですが、一人で入るって聞かなくて。その上、装備もきちんとしてないんです・・・」


 受付嬢は話しながら、俺のスタイルを見て口をつぐむ。


 俺は普通にスーツを着ているからな。ネクタイは外している。


「えーっと、世界の梶さんに説得されたら、ちゃんとするかな、と。で、でも、その格好で潜るんですよね・・・。わたしの説得プランが」


 受付嬢は少し取り乱してしまった。


 まるでベテラン探索者を捕まえて説得してもらおうとしたが、まさかの一番ひどい人に当たってしまったかのようだった。


「その新人さんはどこかで待ってるんですか?」


「はい、会議室で待ってもらってます。信頼できるベテランの方をアテンドする約束で、一人で行くのはなんとか思いとどまってもらったんです」


「なるほど。いいでしょう。世のため、人のため、一肌脱ぎましょう」


 受付嬢は何とも言えない顔をしている。


 頼むべき相手としては最上だが、新人との食い合わせは最悪なのではないか、と。


「跳ねっ返りには慣れてますよ。ダンジョンの怖さとは何ぞやを仕込んでやりますよ」


 受付嬢が小声でぶつぶつ言い出した。


「梶さんは世界一だから、お任せしよう。大丈夫。私の判断は正しい。なんでこんな時に限って先輩がいないの・・・」


「きみきみ、頼んどいて急に不安になるの、なんでなの」


 つい、おじさんみたいな聞き方をしてしまった。


「よく考えたら、新人の方は女性なんで、梶さんは最悪かもと、ふと思い当たりまして」


「へ?」


「春風のどかさんから、梶さんは女の敵なので気をつけるように通達が」


「すぐ取り消しなさい」


「でも、さらに変態でサイコだって、先日情報がアップデートされたばかりで」


「き、きみ、それはどのあたりまで広がってるのかな」


 おじさんキャラが崩せない。


「あ、機構の女性全員と、男性でも統括くらいまでです」


「なんつー通達やねん」


「あ、梶さん、すいません。これ、梶さんが知ってることになると、私クビ間違いなしです」


「その上、人質まで」


「あ、私、内藤ゆりな、独身です」


「こら、自己紹介するな。身動き取れんくなるやろ!」


「バレたら責任取ってくれるんですよね?」


「アホ! そんときゃ機構ごと更地にしたるわ」


「そんな! やっぱりひどい人!」


「・・・どっから対応マニュアル?」


「いえいえ、マニュアルなんて、そんな」


「・・・」


「というわけで、色んな意味で慎重にお願いします」


「ほんとは何かを俺に依頼するマニュアル、あるんじゃねぇの?」


 ゆりなはにっこり微笑んだ。



 別室に連れて行かれると、そこには一人の女子高生がいた。


 茶髪の巻き髪を高めの位置で後ろに結んでいる。

 目元はぱっちりメイク。


 ありていに言えばギャルだ。


 足元はローファーではなく、幸いスニーカーだ。

 ソックスは短い。スカート丈も短い。


 学校帰りそのままだ。


 何やら携帯へメッセージを打ち込んでいる。


 俺は受付嬢を振り返った。


「呼ぶべきは生活指導の先生なんじゃねぇの?」


「彼女は十八歳で、通っている高校はダンジョン探索を禁止していません。すでに学校に問い合わせ済みです」


 あらら。話を聞くしかないか。


「宇賀神うららさんです。宇賀神さん。探索者の方をお呼びしました」


 うららは弾かれたようにこちらを見て、少し肩を落としたような仕草をする。


「内藤ちゃん、イケメンのプロ探索者に頼むって言ってたじゃん。話が違くない? ただのおじさんじゃん」


 見るからにスーツ姿の俺にガッカリしたようだ。


 スーツ姿の人はただのおじさんに見えてしまうのが、女子高生らしい。


 スーツしか見ていないはずだ。目は悪いようだ。


「宇賀神さん! おじさんじゃないです。よく見てください。ギリお兄さんでしょ?」


「オイ、内藤」


「うーん、そうなのかな? でもスーツ着てるよ?」


「この人はちょっといろいろおかしいんです。でも超絶おかしいスーパーベテランです」


「その紹介だと、すごいおかしい人にならんか?」


 失礼な受付嬢だ。


「おじさん、あのさ」


「おじさんじゃありません。梶さんです」


 内藤がカットインする。冷や汗がたらりと垂れている。


 俺の眼光に気が付いたようだ。


 俺は内藤を睨んでいるだけで、失礼な若者のことはこの際大目に見ている。


「初めまして。探索者の梶です。続きをどうぞ」


「おじ・・・か、梶さん、あのさ。ウチ急に稼がないといけなくなったんだ。だけど、ちょっとダンジョン入ろうとしたら内藤さんに止められちゃって。クラスの男子とかは余裕で入ってるって言うから、ウチもいけるかなって」


「それは家族に相談しているのか?」


「ママには言ったけど、クラスの友達と行くから大丈夫って説得したんだ」


「クラスの友達は?」


「さっきから連絡ない。チャットも未読。バックレた」


 俺は言い返そうとしたが、直感がささやき、思い留まった。


「うららだったか? お前、そんな軽めに言ってるけど、実は無茶苦茶深刻だろ。事情を話せ」


「うん。今月のお小遣い使い切ってさ、明日ギガ買わないと携帯止まっちゃう。超ヤバい」


「低速で頑張りなさい。あとはどっかの店のWi-Fiとか」


 なんだ? たいしたことないのか?


 でも直感がビービーきてるぞ。


 うららの表情には悲愴感はない。


 だが何故か真剣そのものだ。


「他は?」


「他? えっと、お母さん入院しちゃってるから、学費も稼ぎたいな、と」


「他は?」


「妹の塾の支払いとか、受験とかあるし」


「お前は?」


「え?」


「お前の気持ちだ」


「ウチは・・・」


 さっきまでツンとしていたが、顔をくしゃっとして、詰まりながらも話し出した。


「ウチはバイトも続かないし、大学も行きたい。でも生活ギリギリだから、すぐにでも働かなきゃって。ママがこの間、電話で誰かと話してるの聞いて、どうすればいいかわからなくって。ママ倒れたの初めてじゃないし・・・」


「なるほどな」


 まあ、落ち着いて考えると普通のことだな。


 だけど学生からしたら、ファンタジーだもんな。


「うらら、お前、ダンジョンで稼げればいいのであって、探索者になりたいわけじゃないんだな?」


「え? う、うん。春風さんとか橘兄妹とかかっこいいから、憧れるけど。別に単なるファンなだけだし。最近バズってるせりかちゃんも可愛いから好きなだけだし」


「ん? せりかって、バズってるの?」


「せりかちゃんは、動画の歌を聴くだけで病気が治るって評判なの。ママにも聞いてもらってるんだ」


「・・・」


 自重してくれよ、頼むから。


 まあいい。こいつをどうしたものか。


 俺はうらら改造計画を考えていた。


 とはいえ俺だけで連れて行くのは、ちょっと問題だろう。


「オイ内藤。俺一人で連れて行くのは、いくらなんでもアレだろ。女子高生だぞ。風評被害で社会的に俺死んじゃうだろ」


「あ、やっぱりですか? うーん、どうしましょう」


「誰か適当なカカシでもいないのか」


「え! で、デクですか? バイオレンスですね」


「なんじゃそりゃ。なんでもいいからあと一人は確保したい。ちょっと待ってろ」


 今日この時間から行けるフリーの探索者なんかいるのだろうか。


 先日の件があり、パーティーメンバーには声をかけにくい。


 俺はロビーに取って返し、隅の方をじーっと見る。


 なんだ、いるじゃないか。


「おい、仕事だぞ」


 そのまま見つめているとスキルを解き、都市迷彩を着た男が現れた。


 ロビーに他の客はいなかったので、出てきたのだろう。


 見たことのある大男、東条だった。


「げ、東条さんじゃんか。もっと下っ端にしてくれよ。本気すぎんか?」


「・・・危険物の自覚はあるんだな。今日は単独でダンジョンに向かっていると通報があったんで、俺が来た。よからぬことを企んでいるに違いない、と」


 俺の中の煽り魂に火がついたが、ここは堪え時だ。


「お前も知ってるかもしれんが、機構では俺には適当な女子を仕掛けとくと、思い通りに事が運ぶと通達されているらしいぞ。まあ、俺もそう思うわ」


「なんで話しかけてきた?」


「実は助けてほしいんだ。さすがの俺でも、風評被害からは逃げきれん。社会的正義側の力が必要だ」


「奥の女子高生の話か? あんまり表沙汰になるのは俺もよくないんだが」


「まあ聞いてくれよ」


 女子高生側の事情をちょっと悲劇度を上げて説明する。


「ギャルっぽいけどいい子なんだ。力を借りれんか?」


 いい子かどうか全く知らんが。


「・・・確認する」


 東条は一度外へ出て行った。


 別に東条じゃなくても、その辺を通りかかる知らない人でも別にいいが・・・。


 東条と入れ替わるように、危険な思想を振り撒く魔石グッズ販売会社の極東高分子研究所、東かなたが入ってきた。


「あれ? 梶様、どうしたんですか?」


「いやいや、俺は探索者だから、ここにいてもおかしくないだろ」


「でも爆炎様から、コソコソ逃げ回ってるって聞きましたよ。あの方、普段ほんわかしてるのに、梶様に対しては悪態すごいんですよね。なんかしたんですか?」


「いや、なんかしてんのはお前だろ。まあいい。かなた、お前ダンジョン入れたっけ?」


「え? 入れますけど、秒で死にますよ? わたし生粋の生産職ですから」


「ああ、カカシでも構わんのだ。お前このあと時間あるか?」


「はい、キーホルダーの納品だけなんで、すぐ終わります」


 よし、一名確保だ。


 あと東条がいれば、体裁は整うだろう。


 程なく東条が戻ってきた。


「もともとが機構からの依頼なのであれば、手助けは業務範囲内との判断だ。手伝おう」


「やった! ありがとう。助かるよ」


「お、おう」


 あまりに俺が素直に喜んだため、逆に東条は敵愾心が挫かれているようだ。


「さっそくだ。こっちに来てくれ」


 かなたを残し、東条を連れて部屋に戻る。


「うらら、こちらのおじさんも手伝ってくれるそうだ」


「うわー、お兄さん、大きい! 装備もおしゃれでかっこいい!」


 あれ? なんかすごい反応がいいぞ。


 俺、梶さんだぞ?


 横目で内藤を見ると、目を見張っている。


「と、特戦隊、東条さん! すごい」


 いや、こいつ、俺のストーカーなんだけど、と思ったが、発言は堪える。


「・・・内藤、もう一人女子を捕まえた。社会的には大丈夫だろう。そいつは紙装甲らしいが。ああそうか、そもそも事務所に用があるらしいから、そっちに行ってくれんか?」


「えぇ〜、また東条さんと写真撮ってもらいたいんですけど・・・行きます」


 俺の睨みに、さすがに耐えられなかったようで、すごすご事務所へ戻って行く。


「わたし宇賀神うららです。うららちゃんって呼んでください」


 嬉しそうに東条に絡み、そのゴツい体をぺたぺた触っている。


 一緒に写真も撮っている。


 全然羨ましくなんかない。


 しかも東条とはたいして歳も変わらん気もする。


 やはりスーツしか見ていないんだろうか。


 ノックの後、内藤がかなたを連れて戻ってきた。


「お待たせしましたー。梶さん、東さんをお連れしましたよ」


「ありがとう。これでパーティーは四名だ。充分だろ。風評被害もあるまい」


「ありがとうございます。宇賀神さん、東条さん達が手伝ってくれるとのことです。よく話を聞いて、頑張ってください」


「はい! よろしくお願いします!」


「ぶすー」


「梶様、梶様、なんかあの小娘、梶様のことを軽んじてませんか?」


「お前はお前でキモいが、釈然としていないのは事実だ。だが頼まれたことを全力でこなすのが俺のポリシーだ」


「さすが梶様。ですが、わたしガチで死にますから、小娘はともかく、わたしを大事にしてくださいね」


「ああ。でも何故お前への負荷の方が高いのだろうか。まあ、もはや訳分からんが、ついでにお前の安全保障も行ってやろう」


 酷いごちゃつき具合ながら、俺の暇つぶしにみんな付き合ってくれるようなので、楽しむとしよう。


 つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ