第三十九話
ある日ダンジョンができた。
ダンジョンとのコンタクトに成功した。
誰がなんと言おうと成功した。
俺たちは凱旋した。出雲大社に参拝し、もっと一緒にいたいと駄々をこねるイエンに付き合い、伊勢神宮も参拝した。
気持ちの悪いルートに辟易した。
成功を祝う前向きなテンションのまま、俺たちは帰りしな、仲良くなったイエンの友達二人、ランとフォンも引き連れ、勢いで三重の桑名ダンジョンに突入し、そのまま踏破してしまった。
桑名ダンジョンはユニコーンのダンジョンだった。モンスターは希少っぽい雰囲気だったが、当然取れるのは魔石だった。ユニコーンは強すぎるのか不人気らしく過疎っていたので、軽くクリアしてしまえたのだ。
最奥でイエンがフガフガ言っていたが、大して意味のない内容だったので、さっさと踏破してしまった。
ついでにさゆりとイエンには、追加開発していたスーパーブタ○ントンで、風属性魔法も習得させた。
イエンが伊勢で食べた赤福が美味しかったからと、桑名駅でまた赤福を買っていた。
どうやらベトナムに土産で持って帰ろうとしていたが、翌日が賞味期限と気付き、みんなで無理やり食べたのもいい思い出だ。
うまいがシェアしにくいのと、日持ちがしないのが難点だ。
その後、富山に行くと言い出したイエン達とは名古屋で別れた。バスで行くようだ。
使えるようで使えない、もどかしいスキル保有者だった。
かくして大成功ダンジョン探索行は幕を閉じた。
数日後、教授に呼び出され、研究局に向かった。
非の打ちどころのない結果のはずだが、俺の足取りは不思議と重かった。
「何してくれてんだ? お前」
「何がだよ」
「何回動画を見ても、なんの中身もない会話じゃないか。あのベトナムの女の子も一生懸命伝えようとしていたけど、毎回お前がブチ切れて終わってるじゃないか」
「俺的にはイエンをそもそもコンタクト先に選んだ、ダンジョンのセンスの無さにがっかりだわ」
「はあ、過ぎたことだ。良くはないが、まあ良い。幸い今回もニュートリノの発光現象の検証ができた」
「それはよかった」
呑気に相槌を打った俺を、教授は睨みつける。
「一応、会話内容から現在類推できたのは、ダンジョンとしては攻略したり、魔石を持ち出すことやスキルを身につけたり、強くなることは歓迎されているらしい」
「まあ、それしか言ってねえからな」
ギロリと再び睨みつけられる。
「俺はもう、ダンジョンはパリピの脳筋ダンジョン人が運営してると定義付けた。真面目に相手するだけ無駄だ。こっち側も適当にやらねぇと損するわ」
「脳筋ダンジョン人・・・」
「教授と会えるのは嬉しいけどさ、当面ダンジョンの謎に迫るのコーナーはお休みだわ。
呑気な主を見かけたら、即討伐しちまう気がする」
「そうか。でもまた相談はしても良いのか?」
教授が上目遣いに聞いてくる。
「なんだ、かわいく聞くなよ。言うこと聞いちゃうだろうが」
「ば、バカなこと言うなよ。でも、ありがとう」
そう可愛く微笑んだ。
大成功な探索に、やさぐれていた心が和んだ気がした。
◆
「お前、何日か休んでなかった?」
会議室から自席に戻る途中、結城に呼び止められた。
「そうなんだよ。三泊四日で出雲行って伊勢行って帰ってきたわ」
「お、それは羨ましいな。俺も死ぬまでには行きたいな。まあ、まずは日光だけどな」
「日光を見ずして結構と言うな、だっけかな」
「なんだそれ。徒然草じゃないのか?」
「出典はわからんな」
適当な会話をしていると、山田女史が通りかかる。
「あんた達が揃ってると、昔を思い出すわね」
「そういえば未来は革新したんすか?」
結城が問う。
「あなた方の未来は革新しないわ。退化予定。まずは結城くんはパソコンをワープロに変更するわ」
「おお、あんまり困らんかもしれん」
「梶くんは鉛筆ね」
「鉛筆? ボールペンを?」
「パソコンをよ」
「困る・・・かな?
あんまり変わらんかもしれん」
そこで結城がまぜっ返す。
「じゃあ山田さんはバナナっすね」
「何をよ!」
「ボールペンを?」
「書けるか!」
「まあまあ、そんなにドラミングしないで」
「してないわ!」
山田女史いじりに白熱してしまった。
俺達の間だけであれば通じるが、聞いている他の人から不快に思われたら、もうハラスメントだ。おそろしい。
「山田さん、そういえば、水谷さんはどうなったんです? 本社にはいないようだけど」
「ああ、あの子は真似は得意だけど、別に芸人になりたいわけでもなかったから、新しく始まったプロジェクトに配属されたわ」
「そうなんですね。もうちょい使い道あるような」
「大丈夫。そこはレガシー化したお客様のシステムを読み取って、問い合わせ対応とかを巻き取ったり、システムを見直したりするの。
一番大変なのが、顧客のベテランからの巻き取り結果を可視化するところだから、物凄い活躍してるの」
「それは凄そうだ」
「もうすでに水谷サービスとか、チームMとかって呼ばれて引っ張りだこよ。
今度社長賞って言ってたわ」
「俺もそういう仕事がいいなぁ」
「いやいや、梶や山田女史は、上野とかのが大活躍でしょ」
「「動物園かい!」」
◆
俺は週末、上野に来ていた。
結城の発言につられたわけではないが、ふと上野恩賜公園に行ってみたくなったのだ。
桜の季節でもないが、それなりに人混みがある。動物園へと並ぶ列だ。
もうパンダはいない。俺が行くと檻に入れられそうだ。
俺は噴水を横目に東京都美術館に向かう。
今日は印象派の美術展が組まれている。
「よう」
「よー」
のどかが、けだるげに手を上げる。
今日は金髪を後ろに縛り、キャップをかぶっている。
ボーイッシュなパンツスタイルだ。
モデルが撮影か何かをしているのかと、通りゆく美術館への来客も、チラチラ眺めながら通り過ぎていく。
「お前、その美しさが神から与えられた祝福なのか、罪なのか、良くわからんな。
俺のような、ザ・普通の人にはうかがい知れん」
「つまり?」
「お前、俺をドキドキで殺す気か」
「変な言い方。いこー」
のどかは笑いながら、美術館へ向かう。
「でも今日はどうしたの?珍しいじゃん、美術館。
絵画の造詣が深いなんて、梶からは考えられないんだけど」
「そらそうだ。今日のモネだとか、メジャーなのしか見たことも聞いたこともない」
「ふうん」
「人間らしい感性が俺にあるのか、変態的な強さになっても、この美術が人間にとって必要なのかって感じられるのか」
「心配になっちゃったのね。でもあたしを見て美は感じられたでしょ?」
「ああ、だがお前はダンジョンと共にあって、その魅力はさらに磨きがかかってしまっている。
困ったことに、もはや人の範疇にない。
神の美しさだ」
「こわ。なんか変なこと言い出した」
「まあだから、一般的な芸術ってやつで、気分転換さ」
俺は照れ隠しに笑いながら言った。
こいつがおかしいのは間違いないが、俺もおかしいのだから、良くわからないな。
ゆっくりと絵画を見て歩く。
幸いなことに感性は普通だ。
いわゆる睡蓮の絵を見れば、繊細なタッチで描かれた風景に、美しいな、と思えるのだ。
同時に極端にすごいとも、すごくないともならない。
芸術に造詣が深くない、ごく普通の感覚だろう。
「あたしはこーゆうのは好きだな」
なになに、『サン=ドニ街 1878年6月30日の祝日』とある。
ともすると、青みのあるぼんやりとした絵が中心なのかなと思ってしまうが、この絵は、赤い旗がまるで炎が立ち上っている姿を描いているような、躍動的な絵だ。確かに魅力的だ。
「なるほど」
「何がなるほどよ」
クスクスと笑い合ってしまう。
「お前は心ものびやかで、素敵だな、と感じたってこと」
「それはどうも」
「ちょっと覚悟ができた」
「なんの?」
「お前達に俺の悩みの一部を曝け出すってことを」
「悩み?」
「そうだ。全人類、いや全厨二の心をくすぐる、超絶スキルの伝授だ」
⸻
今回のリザルト
二回目の主接触も大成功
イエン、さゆり
「風属性魔法」
俺、のどか、さゆり、イエン、ラン、フォン
主討伐による強化
俺のドヤ顔にパンチを入れた後、たぎってきたのどかに連れられ、すぐにダンジョンへ連れて行かれそうになったのは言うまでもない。
なんとか宥め、後日ダンジョンでレクチャーする約束をした。
美術館の後、上野、御徒町とひやかした。
俺は頑丈でたっぷり入るカバンを一つ買うように指示した。
終始楽しみにしていそうで、いつも以上にグイグイくるのどかに、ドキドキで殺されそうになったのも言うまでもない。




