第三十八話
ある日ダンジョンができた。
俺たちは、ダンジョンの意思を、営業的にはダンジョンのニーズを探りに、島根県の石見銀山ダンジョンへ来ていた。
そこで倒れていた、ベトナムで活動する探索者、レ・ホアン・イエンを救出した。
最奥までは程近く、俺たちはそのままイエンを連れて主を目指すのだった。
「おんぶでね」
俺たちはスニーク状態を継続し、奥へ向かう。
イエンを背負っているので、強くスニークを意識している。
時折、のどかとさゆりを繋ぐロープが張る。
気配を見失いそうになったのだろう。
俺たちは自己紹介をしておいた。
俺たちの名前を聞いて、イエンは驚きと共に、ほっとしたのか脱力していた。
まあ、世界の梶さんだからな。
『モンスターがこっちを見ていない。どうなってるの?』
おそらく母国語でイエンが呟いている。
「イッツスニークスキル」
一応言っておく。
「ス、スニークスキル。アインカジハスゴイ、ネ」
「アインってなんだ?」
「オニイサン」
「オーケー。あいつらは?」
女子達を指す。
「チー。オネエサン」
なるほど。異文化コミュニケーション。
ゴーレムの合間を抜けながら、のんびりとした会話をする。
ゴーレムの数は流石に増えてきた。
距離を置きながら進む。
「ん? そろそろ気付かれたか?」
なんとなくゴーレムがこちらを探るような仕草を見せ出す。
コイツらの強さは変わらないが、何かの感度が高まるのか。
前も途中で気付かれたな。そういえば。
「のどか、さゆり。
ここからは全力で走る。
こっちに来い。
舌を噛むなよ」
『イエン、梶にしっかり捕まって。私たちも梶が運ぶ。スピードをあげるから、声を上げないで』
『はい』
イエンには抱きつくに任せ、二人を担ぐ。
「結局このスタイルなのね」
「うるさい、合理的だろうが」
そうして、全力のスニークと共に、全力疾走を始める。
最初はワーキャー言っていたが、女子どもは会話を始める。
「イエン、大丈夫? 捕まっていられる?」
「ダイジョウブ。アインカジ、スゴイ」
「ほんとにね。頭がどうにかなってるわよね」
体の話だろうが。敢えてシェイクするように運んでやった。ぎゃーぎゃー言っていたがやがておさまる。
俺はコイツらを無視し、最奥へ進む。
そして歩みを止めた。
目の前にホールがある。
踏み入れる手前で三人を降ろす。
「そこが主のエリアだ。目的を忘れるなよ。
俺はダンジョンの意思を感じたいんだ。
襲われるまで手を出すなよ。
あと、さゆり、カメラのチェック」
「はい、問題ないわ」
「イエンに今の話を説明してくれ」
さゆりは頷くと、イエンに説明を始める。
『これからダンジョンの主の間に入る。私たちは、ダンジョンが何者で、何を求めているのか、あるいは何を侵略しているのかを知りたいの。梶は主との対話を求めてる。梶がいいというまで反撃は禁止。梶にどんな事をされても我慢するのよ』
イエンは少し頬を赤らめながら頷く。
「なんか最後の方おかしくないか?」
「おかしいのはあんたでしょ。知らない子をこんなとこまで連れて来て」
女子に口喧嘩で勝てるわけがない。
俺は肩をすくめた。
「俺のカンだと主は最初何もしてこない。
話は通じないだろうが、アピールはしたい」
「なんの?」
「わからん。コインを人差し指と親指の二本で曲げたり、クルミを割ったりだろうか」
「万歳ポーズで、お前の顔に泥を塗ってやろうか? とか」
異文化の齟齬かぁ。
俺は二人に聞く。
「何か良い方法ないかな?」
さゆりが答える。
「今聞くの? 思念波を送ると良いんじゃないですか?」
のどかが乗っかる。
「アレシボ・メッセージってやつね」
「なんだそれ?」
「ボイジャーに載せてたやつの電波版的なの」
いずれにせよ今用意できるものではない。
「イエン?」
何故かイエンが考え事をしている。
『イエン? どうかしたの?』
さゆりが尋ねる。
『わたし、何故ここに来たのかを考えていました。出雲大社もだけど、そもそも日本に来ようと思ったわけを』
『お友達と決めたんでしょ?』
『いえ。実はテレビで梶さんとのどかさんを見て、会わないといけないように思ったんです。厳密には、会わないといけないよ、と誰かに誘導されたように思うんです』
『え?』
『多分スキルの導きです。わたしはベトナムではタイン・ドン、ええとシャーマンなんです』
『シャーマンスキル? なのかしら』
『出雲大社についてからは、現実と夢の狭間というか。何かの導きにより、苦難を乗り切れるようなスキルなんです』
さゆりから説明を受ける。
なんとなく俺のスキルに似ている。
「ふぅ」
俺は息をついた。
イエンに何かさせるべきと直感してしまった。
「イエンにダンジョンの意思を感じるように言ってみてくれ。
そして俺たちとダンジョンの意思を繋ぐんだ、と」
「えー、まあやってみます・・・よし!」
さゆりは気合いを入れて、イエンに向き合う。
『イエン、これはダンジョンの、ダンジョンを司る何かの意思よ。梶さんとの出会い、最奥へのソロアタック、全部意味があるの。あなたに与えられた使命に違いないわ。
梶さんはダンジョンの意思とのコミュニケーションにより、世界を救いたいと思っている。
あなたの力はそれを成し遂げる可能性がある。無心になり、ダンジョンの意思を受け入れて』
言い切ると、ちょっとガッツポーズをとる。
『使命、世界を救う・・・』
「思い切った誘導ね」
「いろいろはっきりさせたかったから」
俺たちはホールの際に進む。
割と大きく育ったストーンゴーレムが佇んでいる。
俺は皆より前に立つ。
「よう、来たぜ」
ゴーレムは無言だ。
だが、こちらを見ている。
殺意は相変わらずない。
どちらかというと観察している。
お前達は何がしたい?
俺たちに何を求めているんだ?
ダンジョンはなんなんだ?
俺たちは強くなってどうするんだ?
なんのために?
答えろ!
その時、ドサッと音がして、後ろで倒れる気配がした。
「イエンっ」
さゆりが助け起こした。
イエンは薄く目を開いている。
意識があるのかどうか。
『ここにたどり着いていることに、喜びを感じているようです』
イエンがつぶやく。
『どうやら感謝しているようです』
イエンが今度ははっきり言う。
『このままでいいみたいです!』
イエンが力強く言う。
『ダンジョンは私たちに何をして欲しいの?』
さゆりが聞く。
『よくわからないです。でも、このまま頑張って欲しそうなんです』
イエンは息も絶え絶えだ。
『でもこのままでいいそうです!!』
『何故地球にダンジョンを?』
『よくわからないです。でも、なんとなくこのまま・・・』
「うるせぇー! 中身がねーんだよ!!
おんなじ事言うな!!」
思わずキレてしまった。
『ああっ、繋がりが切れてしまった!』
「そっちも切れるんかーい」
のどかが思わずツッコんでしまう。
「せ、せっかくの人類初のコンタクトが・・・」
さゆりは頭を抱える。
「いや、内容ふんわりしすぎだろ」
「翻訳者の問題だったりして」
⸻
今回のリザルト
のどか、さゆり、イエン
「酔い耐性」
イエン
「身体強化」
他三人
さらなる強化
・ダンジョンは喜んでいるらしい
・そして、このままでいいらしい。
その後、思い出したように襲いかかってくるストーンゴーレムをみんなでタコ殴りしたことは言うまでもない。
崇高なるチャレンジが、ずっこけるような終わり方をしてしまった。
わざわざベトナムくんだりから呼ばれたイエンは、ゴーレムを倒した後、いじけてしまったのは言うまでもない。




