第三十五話
ある日ダンジョンができた。
都内のとある大学の中にもダンジョンがあった。
学生自身でダンジョン攻略を目指していたが、彼らもマンネリと戦っていた。
ダンジョンの攻略は、頑張れば頑張るほど遠のく仕様のため、無限に続く作業に学生は情熱を向けられないのだ。
そんな学生の葛藤や懊悩を解消すべく、俺はスキル開発に打って出ることにした。
説明会のあった週末、改めて大学へ乗り込んだ。
俺に任せておけ!
「そんなテンションでしたっけ?」
「無茶苦茶あの後ごねてたじゃないですか!」
学生二人はよくわからないことを言っている。
「改めてそんな日々を打破するために、梶軍団の四天王から、爆炎の破壊者と城壁の破壊者を連れてきた」
「ハハ、全部ぶっ壊してるじゃないですか、それじゃ」
「し、四天王だったの? 知らなかった。のどかちゃんも?」
「いや、あいつは勇者パーティポジだ」
「敵なのね」
そう、若者の対応に、動員できる数少ない信頼できるメンバーを動員することにした。
「あの爆炎の乙女さんと城壁さんですか! ファンも多いんです!」
「わたしも爆炎の乙女キーホルダーを持ってるんです! これです! 魔石でできてるって」
青山かれんがキーホルダーを見せてくる。
何故か魔女っ子コスプレのアッキーが、きゃるーんってしている。
随分精巧だ。
「!! 今度工場ごと燃やさないと・・・」
「ハハ、ダメだからね」
「城壁さんのもあるんです!」
次に出してきたのは筋肉マ○消しゴムと同じような、手を広げた格好をしているパンツ一丁のユッキーだった。
「うーん、これは制裁が必要ですね」
「かれん、これはどっかの売店で売ってるのか?」
「いいえ、お店では買えないんです」
非売品か。好事家が云々言っていたもんな。
俺たちは目を見合わせながら、最低限の理性を感じた。
「通販です。○マゾンです」
「最悪だー! えーん」
「世界に出ていってる、酷い!」
これは肖像権的にアレじゃないか?
「あ、そうじゃないんです!」
かれんが見せてきたのは、魔石でフィギュアやキーホルダーなどを製造するサービスで、大きさや用途を選択すると金額が決定し、メモ欄に作成希望のモチーフを送る建て付けだ。
「うーん、ギリセーフかな?」
「し、審議かな」
俺は違和感を感じた。
これだけだと正確に注文できなくないか? 割と高価なものになっている。
「メモ欄にはどんな感じで書くんだ?」
「はい。こっちの自社ホームページに、衣装、ポーズの見本があるんです。
自由に組み合わせたりできるんです」
「ファーイーストポリマーラボ・・・。あいつらであることは変わらないわけだが、一応報復は恐れているようだ。最低限の予防線を張ってやがる」
まあいいだろう。
今回は俺も道具を仕入れてしまっている。
そもそも出資もしている。
「全然良くないよー!」
さてもさても、やってきました多摩ダンジョン。
先日は都内の方のキャンパスだったが、今日はダンジョンのある多摩キャンパスまで来た。
先日の二人、ハットリくんとかれんに連れられ、ダンジョンへやってきた。
「ハハ、大学の中にあるってのは不思議な感じですね。
ここは学生しか入れないじゃないの?」
ユッキーがハットリくんに聞いている。
「学生の引率があれば大丈夫です。
なかなか学生だけとなると厳しいので、大学側も多少は配慮しています」
「ダンジョンセンターはないのか?」
これは俺が興味ありげに聞いてみた。
かれんが答える。
「もちろんあります。ダンジョンセンターは、体育館の事務所に併設されています。
シャワーとかもありますので」
「なるほど」
「か、梶さん、今日の段取りは?」
アッキーが恐る恐る聞いてくる。
「今日は猫砂もなければポッキ○もなしだ。安心してくれ。
ただ、チャットでも触れたが、魔法のスキルをなんとしても身につけたい。
何かしらのコツなど、アッキーにはヒントをもらいたい」
ポッキ○の時点で何故かポコポコと俺を叩く。食べたいのか?
「ハハ、俺は今日はなんの役割ですか? 電柱ですか?」
「お前、電柱なんてできるのか?」
「前は木だったでしょ!不安だ・・・」
「安心してくれ、今回お前は『的』だ。
でかいとちょうどいいからな」
「うげっ。マジで酷い扱い」
「でもマンネリ化を抜け出したい学生の思い、お前らも痛いほどわかるだろ?」
「作業感半端ないもんね。生活のためならともかく、将来性ないかな。特にここくらいの上位校だと・・・」
「ダンジョン系学部できてるみたいですよ。まあ、研究ですけど」
素材研究はいいが、取得過程はスーパーブラックだからな。命をかけているし、過程は悪い。
そのスリルまで失ったら炭鉱夫よりもタチが悪い。
「ハットリくん、何かこう、あまりモンスターの出てこない、広々した玄室的なエリアはないか?
秘密のトレーニングを行いたい」
「かれんさん、あるかな?」
「うーん、左手の奥の方なら行き止まりだからいいかも」
「ああ、確かに。梶さん、良さそうなところあります」
ちなみに多摩ダンジョンは、蛇ダンジョンだ。
三メートル近い蛇が絶えず出てくる。
俺たちは何回か戦いながら向かう。
ハットリくんは納得いかないが、槍を使っていて、蛇を上手に捌く。
かれんは意外にも刀だ。なかなかの腕前だ。ダンジョン抜きなら全然我々養殖的超人では及ばない。
「かれん、お前なかなかすごいな。一般人では敵なしだろ。俺の知り合いでもすごいのはいるが、遜色ないぞ」
「はは、本当ですね。試合なら全然敵わないと思いますよ」
「そんな!城壁さんにはとてもとても」
「俺は近藤ね。近藤ゆう。建物じゃないから。名前で呼んで」
「はい!ゆうさん、よろしくお願いします」
なんだ。目がキラキラしてないか?
「おい、ハットリくん、けんちうじが取られるぞ」
「なんすか、そのけんちうじって。彼女はサークルの先輩なんですよ。
サークル内では最強なんです」
「ふむふむ。
お、アッキー。一発かましといてくれ!
魔法がなんたるか示してやれ!
若気の至りで高くなった鼻を、ポッキーっと折ってやれ!」
「な、なんかむかつくんだけど」
アッキーは怒りを露わに、モンスターへ向かう。
大蛇が鎌首をもたげる。
アッキーの体の周りに複数の炎の塊が連なり、グルグルと回る。
「死ね! XX!」
地響きをあげ、爆炎が噴き上げ、通路を赤く染める。
吹きつけてくる熱風が空気を焦がす。
「キャッ!」
「うわっ」
咄嗟にユッキーはかれんを庇う。
俺はハットリくんを庇ったりしない。
腕を組んでウンウンするだけだ。
「ごめん! 怒りのあまりダンジョンごと焼き尽くす気でいっちゃった」
「こわー」
なかなかの爆発だった。
学生の二人には刺激的だったろう。
それでこそのポッキーだ。
目的地に着いた頃、学生の二人はまさに茫然自失な感じで、明後日を見ていた。
ユッキーによる高速戦闘や、俺による隠密など見どころが多かったようだ。
俺は空気を読みながらも無視し、今日の目的を果たそうとする。
「よし、始めよう。
魔法って言ったら、まずは魔力操作だな」
「ハハ、どうやるんです?
体内を魔力循環させたりするんですか?」
「なんだ? そのやり方。魔力とかわかるのか?」
「いや、知りませんよ」
「俺はそんな古典的な方法は思いも至らなかったぞ。
俺はこれだ」
取り出したのは、チャッカ○ンとライトだ。
これらは魔石による道具だ。
「まずは俺たちで見本を見せよう」
アッキーにはライトを、ユッキーにはチャッカ○ンを渡す。
「アッキーは親指で、ユッキーは人差し指が壊れるまでつけたり消したりするんだ」
「で、出た」
「いいか、魔力?を込めて、魔法を祈れよ。
アッキーはお得意の気力を込めろ。
効率はどうやら三分の一、一万五千はいく気でいけ」
「ハハ、四時間はかかるかも」
「馬鹿野郎、一秒で五回やるんだ。そうすれば五十分だ」
「か、梶さんはその間何を?」
「ちょっと違う方法を検討する」
「ズルい! まあ、やってみますよ!」
二人は目にも止まらぬ高速でカチカチやっている。
もう一セットずつ渡す。
二倍の効率だ!!
二人は死んだ目で繰り返していく。
「あ、あの、お二人は一体何を?」
「だ、大丈夫なんすか?」
「安心しろ、二人はこういうのが好きなんだよ。地獄のトレーニングだ」
アッキー、ユッキーからは視線だけで人を殺せそうなオーラを感じた。
「君たち若者には、もう少しエントリーモデルを用意した。この特別な手のひらサイズの豚の置物を使ってもらう」
「なんですか、これ? ちょっとかわいいですね。ふっくらした豚の置物?」
「なんか俺、子供の頃似たおもちゃで遊んだ気がしてきました」
ハットリくんはピンと来たのか、一筋の汗が流れる。
「お、わかるか。簡単に言うとブタ○ントンだ。
これは魔石を使って、鼻先から風が出る。
強くはないので、上手にこのボールというか、丸い三枚の板を十字に繋いだシャトルを飛ばし合うのだ」
なんかブタ○ントン、口で説明するのむずいぞ。
「ポイントは、たくさん風が出るから、何回もボタンを押すんだ。
そして絶対に大事なのは、魔石が生み出すこの風は魔法の種であり、上手にコントロールできると魔法が身につくと信じることだ。
さあ、デュエル!!」
「ま、また適当なこと言って」
計算では三、四時間はかかるが、若い二人ならもっと早いかもしれん。
大学生二人はブタ○ントンを戦い出し、割と白熱している。
「ダンジョンなのに、こんな感じでいいんすか?」
「よっ、いつもこんな感じなんですか?」
撃ち合いながら聞いてくる。
時折蛇が顔を出すが、俺は指弾で倒していく。
先程の爆炎ほどではないが、大きなドシンという音がする。
大学生は、おっかなびっくりやっている。
アッキー、ユッキーは無心にカシャカシャしている。
「信じろ! 内なる力を信じるんだ!
できる! やればできる!」
「うるせー!!」
珍しくユッキーが切れた。
アッキーはぶつぶつ言っているだけだ。
きっと梶さんありがとう的なことを言っているに違いない。
魔力的なもののことはなんとも言えないが、やがてアッキーが動きを止めた。
予想外に一時間近く経っている。
「きたかも」
アッキーは何やら集中している。
人差し指を目の前に立てる。
「ライト」
そっと呟くと、うっすらと光る。
「ライト! うわっ!」
アッキーの指先が輝き、目潰しになってしまう。
「アッキー。どうだ?」
「う、うん。魔力的な込め方は一緒だよ。
この光の魔法、なんだろう。
明かりだけ?」
「常道だと、癒やしじゃないか?
ユッキーに向かって癒やしまくってみてくれ」
「ハハ、本当に的なんだね」
アッキーは光の玉をユッキーに当てたり、飛ばしたり、ぶつけたりし出した。
「なんだろうなー、これ。なんだろう」
アッキーがぶつぶつ言っている。
「かれんさん、ふう、なんか信じられないことが起こってるんですけど、あっち」
「はあはあ、ほんとね。
わたしたち、よく考えたら本気で戦う必要ないんじゃないかな。座ろう」
お、かれんはこの取り組みの真髄に気がついたようだ。
必要なのは回数であって、質ではないのだ。
「これ、相性とか、適性とかあったら、もうお手上げなんですけど」
カチカチのはずが早すぎて、ジーッと音をさせながら、ユッキーがぼやく。
「それは心配いらん。実証例がある。俺を信じろ!」
「もう、うるさい!
誤魔化す時、急に大声出すってのんちゃん言ってたよ」
とりあえず無視しよう。口喧嘩で女子に勝てるわけがない。
苛立つアッキーから目を逸らす。
「あと、都合悪くなると無視するって」
無視だ、無視。
「やっぱり効率変わっちゃったんですね。
残念なような。適性のような」
やがてユッキーが手を止めた。
そしてチャッカ○ンの二刀流を掲げる。
「ファイアー」
ボワンッという感じで、小さな火が起こる。
謎に左右で。
「これ、すぐにはどっかんってこないですね」
「そうか」
ボワボワさせていると、ユッキーが不意に揺らいで、膝をつく。
「あら、もしかしたら魔力切れかもです」
「ユッキー、また魔法は暇な時に練習してくれ。今日はおしまいにしよう」
「そうですね。でもいけましたね。
なんか梶さんが一緒の時と、自分の努力はちょっと違うんですよね。なんなんだろうか」
それは俺にはわからんな。
気合いが足りないんだろう。
「そ、それはわかるかも。
なんだか癒やし魔法できそうな気がしている」
「まあユッキーなんて歩く健康体だろうから、実感わかんだろうな。ダンジョンの外で繰り返しても意味ないし。
うーん、とりあえず、ユッキーにこの魔石ナイフ突き刺して癒やすをやるか」
「やらねーよ!」
なんだか遠慮がなくなってきたな。
いい傾向だ。
大学生二人は近付き、雑に空気を当て合っている。
もう競技すらしていない。
最後までは騙されてくれなかったようだ。
「あ、ウソっ」
「ああ、そんな」
二人のブタから空気が出る。
しかし二人はもうスイッチを押していない。
信じられないような思いでブタ先を見ている。
「風魔法は危ないから、人に向けるなよ。
イメージはウインドカッターだ。
今度、橘みそらのダンジョンチューブ見とけ」
「い、今さらだけど、なんで梶さん、何にもしていないの?」
「俺がやると効果なくなるだろ。多分。
俺は自分でやるのは最小限にしないと、ダンジョンからも敵認定されかねん。
今の時点でもうオーバースペックなんだよ。
鍛える意味がない」
俺の絶望が伝わったのか、アッキーは黙ってしまった。
でも顔に光の玉を絶え間なくぶつけてくる。
癒やそうとしてくれているのか、倒そうとしているのか、俺にはわからなかった。
⸻
今回のリザルト
「教導スキル?」
アッキー
「光属性魔法」
ユッキー
「火属性魔法」
青山かれん、服部ともき
「風属性魔法」
多摩ダンジョン発で、魔法の習得ノウハウが生まれていく。
大ダンジョン時代に、大魔法時代の足音が聞こえてきたのは言うまでもない。
覚えた魔法が必ずしも強大な力になるわけではないことも、言うまでもない。




