第三十四話
ある日ダンジョンができた。
ある日特殊なダンジョンができた。
世界が震撼した。ダンジョンができた時以来のインパクトだ。
ダンジョンのモンスターの死体は、境界線を越えることができるのだ。
魔法は変わらず越えられない。
境界線はある。
教授以下はまだ入れなさそうだ。
中学生くらいは普通に入れるだろう。
この手の話のたびに教授は自分は入れたのだぞとブー垂れている。
敢えて年齢制限はかけていなかったが、十五歳以下はまだ日本では禁止されている。
今まではダンジョンに入れることが発行基準だったが、それもよくわからないものとなった。
問題はモンスターの死体だ。
東条が半べそかきながら大量に持ち帰ったスライムを研究局総出で検査している。
幸い疫病の類はなかったので、俺とのどかは帰れたが、他のメンツはどうなったのか。
教授がちゃんとお風呂に入れたことを祈るばかりだ。
アメリカはゾンビの死体なので、非常に慎重に検証している。
急に立ち上がられたら、リアルバイオのハザードだ。ミサイルも飛び交うだろう。
今はまだ、練馬、烏森、巣鴨ダンジョンは一般非公開だ。
世界のダンジョン攻略に拍車がかかる。
一点だけ共通して変わったルールは、俺式メソッドの効率が下がったことだ。
何となく俺は安心もした。
適正なパッチがあたった感じだ。バランス調整だろう。
俺式メソッドの被害者たちは、もう後戻りはできないが、これからの人々は四苦八苦しながら先へ進むのだ。
きっとモンスター素材が何かのブレイクスルーを導くだろう。
今日は会社の新卒向けの会社説明会に呼ばれていた。
客寄せパンダの効果はここに極まれり。とある都内の有名大学の大講堂を貸切り、自社及び関連会社合同で説明会を開催することになった。
なかなか外部に公開することのない講堂に学生がぎっしりだ。数百名に及ぶだろう。
無節操に我が社も魔石関連産業にも手を出している。
つまりこのパンダオブパンダスの威光にあやかることにしたらしい。
冒頭から梶さんだぞトークをすると、学生の興味関心が薄れるため、前半普通に会社説明会だ。
予約ぎっしりの学生集団。ここからの動機形成が一番大切なのだが。
後半の講演、パネルディスカッションだ。
何故か会社で働くことではなく、副業制度についてを語る羽目になる。
まあ、梶さんがいる限り、副業でダンジョン探索をしつつ働いても、誰も否定しないホワイト?企業だ。
ざわめきと共に向かい入れられ、まずは講演を開始する。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さんの憧れの的、世界の梶です」
どっと笑いが起きる。場があったまりすぎているようだ。ダジャレとかで冷やしたくなる。
「さて、お若い皆さんは、副業に力を入れてしまっている私は、残念ながら目指す姿ではいけないと思います。
社会人としてスキルを身につけた先にこそ、ダンジョンで活躍できるノウハウがあるのです」
何やらメモをしている子たちも多い。
とんだ出鱈目なのだが。
「正直、今や脳筋のダンジョン探索者はほとんどいません。
先日ご一緒した橘兄弟も、複雑な戦術や思考を持ってダンジョンに臨んでいました」
アホなことばっか言ってたがな。
人気者にあやかるのもトークの基本。
「アメリカでも、チームアメリカは、いかに効率的に探索が進むのか、マネジメントを非常に繊細に行なっていました」
鉛玉を無限にばら撒き続けたら破産ものだ。とはいえ、世界の梶さんアピールで、下駄を履こう。
「ダンジョン特戦隊や、機構の研究局の皆さんも、身を粉にして働いていて、これはあまりよくないのでしょうが、三徹目になるほど働いています」
教授は元気だろうか。また徹夜しているに違いない。
「つまりダンジョンで必要な戦術や思考、マネジメント力は、ダンジョンの外で身につけて臨まない限り、ダンジョンでトップははれないわけです。
ぜひ皆さんも会社員としてのスキルを身につけ、ダンジョンライフも満喫してください
もちろん、副業は生活のためではなく、仕事に活かせる力を外部から持って帰り、本業に活かすことが目的です」
もはや本業に影響ありすぎて変になっている件について。
また、主催している人事の目が怖すぎて、副業を否定せざるを得ない件について。
「以上ダンジョンで必要なことは全て会社が教えてくれた件について、でした」
皆爆笑である。
そうしてパネルディスカッションとなった。
当初の企画は、うちの会社の管理者層と学生を交流させようと言うもので、ハラスメントの匂いしかしなかったので、不参加を表明した。
やむなく会社の若手と学生とパンダで臨むことになった。
パネルディスカッションに参加している学生は二人いて、一人は意識高めに見える、シュッとした男子は服部ともき。
この大学のマドンナ?的存在に違いない、大学生らしい爽やかさをと感じさせる綺麗な子、青山かれんだ。
社会人になる心構えや、失敗エピソード、面接や志望動機のまとめ方など、非常にためになる会にできたと思う。
問題は学生が、ちょいちょい答えにくい質問をしてくることだ。
「梶さんは何故副業を始めたんですか?」
「副業の方が儲かっているのに、仕事を続ける理由はあるんですか?」
「いろんな女の人に手を出してるって本当ですか?」
「好みの女性のタイプは?」
「お休みの日は何をしているんですか?」
プライベートの質問はともかく、社会人として真面目に答えた。
ぜひ実社会で体験して気になる点を、おのおのの状況で実感してもらえればいい。
かくして新卒向けのイベントは終了した。
俺たちは講堂の裏手、控え室側へ引き上げた。
人事は嬉しそうだ。
エントリー情報を多く集められたので、次のステップ、各学生が選考に進むための個別説明会へと誘導する。
パンダ係はここまでだ。俺は人事に退出を告げた。
廊下に出ると、パネルディスカッションで話しをした二人の学生が待っていた。
服部ともきが声を掛けてくる。
「梶さん、先程はありがとうございました」
青山かれんも頭を下げてくる。
「ありがとうございました。踏み込んだ質問をお伺いしてすいません」
「気にしないでください。こちらは仕事で来ていますので」
そういいながら、携帯から勤怠をWebシステム上で退勤にする。
「実はご相談があるんです。
もしよろしければお時間頂けませんでしょうか。」
「ああ、仕事は今終わったので、プライベートでよければ」
俺は二人に連れられて、学内のカフェに案内された。
いわゆるファミレス席のような作りとなっている。
広々としていて、学生が点々と座っているが、空き席が多い。
「今の時間帯は空いてるんです」
かれんが、可愛らしく言う。
「穴場だね。また来れないのが残念だ。」
カウンターでコーヒーを頼み、席に着く。
「改めて、先程はありがとうございました。
御社に学生向けのイベントを持ちかけたのは、私たちなんです」
「そうなんだ。なんでまた?」
「もちろん梶さんにアプローチするためです。
機構に相談しても、難しいの一点張りだったので、学生ならではの絡め手で頑張ってみました」
「なるほど。それは逆にストレートにいい手だね」
俺がもし俺に会いたいならそうするだろう。
会社と学生相互にメリットのある話だ。
改めて事情の説明を促した。
「当大学構内にダンジョンがあり、我々学生自身で攻略を、目指しています。
大学にも魔石の研究室も設けて、調達から研究まで対応しているんです」
「それはたまたまダンジョンが校内にできたとはいえ、うまくやれてるじゃないか。
俺の出番がよくわからんが」
「わたしたちはダンジョン攻略サークルを運営しています。同時に互助組織として、校内のフリーの探索者や同好サポートしています」
ますます、俺の出番はなさそうだ。クリアして素材化を狙うのも悪くはない。
その場合は、俺はどこかの団体に肩入れして良いものなのか?
首を傾げる俺に、服部くんが謝罪と共に、ようやく理由を話す。
「回りくどく空いません。
お願いしたいのは、停滞のブレイクスルーなんです」
「なんぞカッコいい響きだな」
「いえいえ、マンネリを打破したいってことなんです。
戦って魔石を取ってくるのは、パーティを組んでフォーメーションを、組んで、上手に役割分担することで、徐々にみんな強くなっていくし、効率も上がって来てます。
でも、それってつまらないですよね?
レトロゲームの一面を永遠にやっている感覚、わかります?」
なんのことはない、俺とおんなじ感覚なのだ。
「わかるわ〜、毎日のように橘妹から愚痴チャット来るし。若者には辛かろう。俺も仕事の方がやりがいあるもん」
「あ〜、梶さんでさえですか」
「ダンジョンを踏破までしちゃうと、その感覚ときたら、もっとすごいことになるぜぇ」
こちとら世界一だ。しかもダンジョンの仕様があれだ。まあ、新しいダンジョンのアップデートがあれだし。悩ましい。もっと色々文句つけておくべきだった。
「まあ、またダンジョンの主と出会ったら、文句つけとくよ。
今回のアップデートもそんなにだから、もっと工夫せぇと」
「ダンジョンの主に物申せるんですね・・・。
でも、取り急ぎなんかないんですか」
「あれ?君たちは強くなってるって言ったけど、スキル系はどうなんだ?
もうスキルでロープレするしかないだろ」
「ロープレですか?」
「服部くんなんかはさ、隠密とか覚えてニンジャプレイとかさ」
「名前で遊ぶなって学校で教えられませんでしたか?」
だって、服部くんだろうが。
「まあ。なんでもいいが、新しい、俺たちゲーマーだからこそ思いつく、カッコいいスキルを身につけて欲しいかな」
「わたしは別にゲーマーじゃないんですけど・・・、魔法とか覚えてみたいです」
なんだ?リア王か?まあいい。魔法はいいかもしれん。それっぽいことを大量にやってもらおう。
相手は学生だ。生活に追われているわけでもなく、時間なら無限にありそうだ。
「なんとなく魔法はアイデアがなくもない。約束はできないが」
「本当ですか!魔法は元々の素養で使えるか、ごく稀に何かのきっかけで使えるようになると言うのが定説です。
それを覆されるんですね?」
「そうともハットリくん。ニンニ○でござるよ」
「馬鹿にしてることはわかりますよ!」
つづく




