第三話
前回のあらすじ
春風のどかは、ダンジョンからの侵略の先鋒である悪の四天王、竜禅寺あすかの魅了攻撃に屈し、悪の走狗となった。
凶悪なスキル保有者であるのどかにより、日本は恐怖のどん底に叩き落とされたのであった。
俺たちの明日はどうなるのか。
「バカなの?」
「梶さん、大丈夫ですか?」
意識が遠くなりそうになっていたので、ここで軌道修正を図ることにした。
「あすか、よく考えてみたら、俺たちがどれくらいのものなのか教えてなかったな。ちょっと軽く見せてやろう」
入口付近まで戻り、そこからいつもの荒稼ぎエリアへ向かう。
「ここから先は、俺たちの前に出るなよ。
さすがに後ろへ逸れるかもしれんが、その時はあすか、お前もその剣を振るってみろ」
「わ、わかりました。やります」
無駄にキラキラした目に背を向け、俺は広場へ向かう。
「あたしは後ろを抑えとく。気をつけてね」
「ふん、お前こそ後ろから襲わないように気をつけろよ」
「冗談にならないのが恐ろしいわ・・・」
ガントレットの拳を打ち合わせる。
気分転換だ。
気合いを入れる。
音に釣られたのか、一匹、また一匹と広場へアリが入ってくる。
俺は素早く近寄り、アリの脳天を殴りつける。
キラキラと光のエフェクトが消えないうちに、次のアリを打ち倒す。
「えっ」
おそらくあすかには、いつの間にか俺の姿が消え、次の瞬間には光に包まれているように見えただろう。
現時点では、それくらい隔絶しているはずだった。
次々と襲い来るアリたちは、現れては消え、現れては消えていく。
「梶、あんた前より凄いんだけど」
「新しいネタを見つけたってこと」
「ヤバ」
あすかは言葉を失い、呆然としている。
そんな姿も困ったことに魅力的だ。
なんとなく心細そうで、抱きしめてほしそうに見える。
雑念を吹き飛ばすように、ただひたすらアリを駆除し続けた。
やがてアリも尽き、静寂が訪れる。
カバンを取りに戻り、アリたちの魔石を詰め込んでいく。
「のどか、交代だ」
「はあい」
あすかの登場により、つい当たり前のように見えてしまうが、のどかもとんでもない美女だ。
油断すると目で追ってしまう。
ローブのような服の裾をひらめかせながら、広場の中央へ進み出る。
「あすかくん。あたしは梶と違って頭脳派だから。
よく見ててね」
「は、はい」
そうしているうちに、広場へアリが現れ、のどかへ向かって素早い動きで噛みついてくる。
「のどかさん!」
あすかが思わず声を上げる。
次の瞬間。
のどかから雷光が迸り、アリを貫いて壁へ突き刺さった。
壁を伝い、四方へ稲光が散っていく。
「あいつは雷光の魔法使いだ」
「か、かっこいい・・・」
次々と襲いかかってくるアリたちが、雷光とともに光の渦へ飲み込まれていく。
広場は轟音と閃光に包まれた。
そんな時だった。
光の中から突然一匹のアリが飛び出し、あすかへ襲いかかった。
俺は気付いたが、ここであすかを試してみたくなった。
「あすか! さっきと同じだ! 斬れ!」
あすかは俺の声に押されるように一歩踏み出す。
抜刀。
そのまま勢いよく剣を切り上げた。
アリの装甲がバターのように切り裂かれる。
一刀だった。
アリは光に包まれて消えた。
「こんなことって・・・」
あすかは自分の技に慄いていた。
「あすか。
お前はもう、こっち側に来てしまった。
もう普通の奴らとはつるめない」
俺は、ついこいつの魅力に引きずられて、やり過ぎたことを少し後悔していた。
「すまんな」
「ちょっと!
かっこいい役目、勝手に取らないでよ!」
いつの間にか戻っていたのどかからクレームを受けた。
「このウルウルした眼差し、あたしがもらうはずだったのに! カッコつけて変なセリフ言ってさ」
二人でぎゃあぎゃあと言い合っていると、あすかが突然笑い出した。
「あはは、お二人とも、まるで遊びに来てるみたいですね。
かおりさんから、このダンジョンは日本で一、二を争う危険なダンジョンだって聞いてます。
わけがわからなくなって、笑っちゃいましたよ」
「あすかくん、おかしいのは梶だからね。気をつけてね」
「失礼な。俺は副業探索者で、どっぷり本業でおかしいのはお前だろ」
また広場の魔石を拾い集める。
集め終わると、そのまま広場を後にして、検証していた通路へ向かった。
先へ進むと、アリが一匹ちょうど通れるくらいの穴があった。
「あすか。ここからが本番だ。
少し待っていると、さっきほどの量じゃないが、この穴からアリが出てくる。
お前が倒すんだ。
技のキレはさっきの通りだが、体力や力はモンスターを倒さないと上がらない」
「はい!」
「ある程度強くなってくれないと、俺たちも安心して遊べない。
男らしく決めろよ」
「はい!!」
あすかは抜刀し、構えて待った。
「あすか、基本は中段な。大振りするなよ。
一回で倒せなくても焦らずに数を叩け。
さっきのBB弾と同じだ。
途中で攻撃を緩めるなよ。裏をかかれるぞ」
まず一匹目が現れた。
あすかは中段に構えた鉄剣を振り下ろした。
一撃目でアリの牙を切り飛ばしたが、踏み込みが浅く、一撃では倒せなかった。
だが、あすかは教えを守った。
すぐに剣を振り下ろし、とどめを刺す。
「梶さん!」
ぱあっと笑顔で俺を振り返る。
駆け寄りたくなる衝動を抑え、俺は顎をしゃくった。
「次!」
「はい!」
時に二度、三度と剣を振るうこともあったが、思い切りが良くなり、着々とアリを倒していく。
やがてアリの出現が止まった。
俺は魔石を集める。
「あすか、よくやった。ここの魔石はお前のもんだ」
「は、はい」
「あのさ、梶。話は変わるけど、そのカバン、無茶苦茶魔石入ってない? どうなってる?」
「いいところに気がついたな。種明かしはまた今度な」
「ゆ、夢のスキルなのでは・・・」
俺は肩をすくめ、ふとあすかを見た。
あすかはいつの間にか座り込んでしまっていた。
「ちょっとハードだったかな」
「そうね。初日からこれだとね」
俺はのどかに振り返り、訂正した。
「はぁ? もう完了だろ、どう考えても。
超人が一人出来上がった」
「・・・確かに、もう彼に勝てる探索者は数えるほどかも」
今回のテーマは、虎の穴に放り込み、素早い立ち上がりを狙うことだった。
対象が突き抜けて異常だったので手間取ったが、やり切ったと言えるだろう。
だが、これからは同じような依頼は断ろう。
「あすかをたまに手伝うのは、まあアフターケアの範疇と言えるが、これ以上は危険だな」
「うん、ヤバいね。
梶、ちょっと他の探索者たちと比べて、圧倒的に差がありすぎるかも。
副業ってのがちょうどいいわ」
「まあ俺は、自重できるタイプだからな」
のどかは何も言わない。
取り出したハンカチで目頭を押さえている。
ヘタクソな泣き真似だ。
「おい、あすか。帰るぞ」
「は、はい」
ちょっとうとうとしていたので声を掛ける。
あすかの冒険はこれからだ。
ぜひ頑張ってほしい。
目の毒なので、どこか遠くでやってもらいたいが。
事務所へ帰り着き、かおりに報告する。
「依頼完了だ。報酬用意しておけよ」
窓口から魔石を提出する。
まず俺とのどかの分をじゃらじゃらと流し込む。
「これは二人で割ってくれ」
「わかりました」
「残りはあすかの分だ」
俺たちと同じくらいの量の魔石を投入する。
「えっ、いきなりこんなにも? そんなバカな・・・」
「あすかくん?」
かおりが戸惑った声を上げる。
「ああ、かおりさん。事実です。
先ほどお二人とも話しましたが、一旦依頼はこれで完了でいいと思います。
オレも一人で見つめ直します。
これ以上はお二人に迷惑になりそうです」
「あすか。
さっきも言ったが、俺はアフターケアまでしっかり責任を持ってやるつもりだ。
何か気になることがあればすぐに連絡してくれ。
一応、再来週また一緒に潜ってみよう」
「はい! 心強いです!
ありがとうございます!
やっぱり梶さんはかっこいいです!」
「ダメよ、あすかくん。
梶は壊れちゃってるから、あまり近付かないようにね。
悪い見本だからね」
「のどかさんも、ありがとうございました。
のどかさんみたいな素敵な人には、母以外では今まで出会ったことがなかったです」
「あら、それはお持ち帰りオッケーってこと?」
俺はあえてコメントを避けた。
⸻
今回のリザルト
「魅了耐性+」
虎の穴は効果があった。
だが、むしろ俺たち自身が試される結果となった。
結果的に勝利はした。
だが、再来週が楽しみであり、怖くもあることは言うまでもない。




