第二十七話
ある日ダンジョンができた。
そしてダンジョンが二つなくなった。
ついにアメリカのネリスダンジョンの踏破が報告され、日本に次いで、三例目のダンジョンの消滅が確認された。
踏破者は当然チームアメリカだ。
おそらく次々に、各国のメンツとして、何とかダンジョン攻略を示そうとしていた。
俺はもうご馳走様だが、今後の予定として、自衛官の育成と、研究局のお手伝いがある。
それぞれ担当から連絡をもらえるので、一旦本業に専念しようと思っている。
俺はノーコードで開発できる著名なツールを使い、簡易な営業管理ツールを作っていた。
コードなしで、箱をパコパコ置いて、ルールをつけて、整理していく。
あれ、これ別でデータベースを作らないと駄目じゃないか。
ファイル出力用のアプリもいるのかも。
あれ、これアクセスでよくないか?
いや、その考えが平成なのだ。気合いでクラウドに置くんだ。
あれ、これ入力フォーム、カッコ悪くないか?
あれ、結局ちょっと開発しないとなのか?
俺は手を止め、社内ポータルのどうでもいい人事情報など眺めていた。
お? 結城が営業のマネージャーから課長になっている。
すごいぞ。俺は役無しなんだけど。
まあ、俺に役があったら、会社や部下など、いつ未帰還になるのか恐れて、仕事など出せないだろう。
仕事自体は基本グループウェアで、進捗を共有しながら、作成物も共有フォルダにある。
メールも基本CCに関係者を入れている。
そのとき、社内チャットで結城から連絡がある。
『おーい、梶』
『はーい、お茶』
『今度の人事見たか?』
『ああ、お前課長じゃん。今度奢れよ!』
『なんでやねん。
長年人事を引っ張っていた山田女史が人事を外れて、なんか分からない、新設の未来革新部に移ってるぞ』
『なんか強そうな部だな。ペッパ○くんでも作るんか?』
『怖いこと言うなよ。人事からの派生で、社員のリスキルとか、システムのDXとか推進みたいだ』
『ほいで? わし広報ぞ。営業寄りの。
かつパンダぞ。ぽてんと座って日々日向ぼっこしながら笹食ってるぞ』
『いや、お前絶対呼ばれるぞ。リスキルってのが曲者でさ、ダンジョンでスキルアップ、的な感じらしい』
『ダンジョンでは、あんまりビジネススキルは上がらないかなあ? アホっぽくなりはするけど。脳筋化して』
『そうか? マルチタスクとか、スタミナとか、ビジネスに必要な要素つくんじゃないの?』
『お前アホか。行き着く先のサンプルは、日向で笹食ってるぞ。
こないだなんか、ダンジョン機構に呼ばれたとき、ゴジ○扱いで、腫れ物扱い。
スキルアップどころか、そのうち地球防衛軍に追われる羽目になるんだぜ。
馬鹿馬鹿しい』
『パンダにでもなってもらわないと、迷惑な社員もいるってこと』
『身につまされるなー。
まあ、呼ばれたら呼ばれたで、アドバイスはしにくいなー、命に関わるし』
『お前宇宙最強戦士だろ、何とかしろよ』
『あのな、ゴジ○が豆腐を上手に運べると思ってるのか?
俺はただでさえ、卵買ったら、いかに割らないかで細心の注意を払っとるんだぞ』
『それは誰でもだろ。アホ。
まあ、頑張れよ、じゃなー』
『うんこ』
結城の前振りはさておき、ズンズンとこっちに山田女史が迫ってくるのが分かる。
ちなみに山田女史は二児の母、ちょっと歳上のお姉さんだ。
新人の頃はよく飲みやイベントに連れ回してくれたものだ。
ゴリゴリの営業だったが、育児とのバランスから人事へシフトした。
子どもも大きくなり、ワークライフバランスを見ながらだが、元々のゴリ度が高まってきている。
見た目は綺麗なお姉さんだが、中身はゴリラだ。
『きた・・・』
「梶くん、今いい?」
「へえ、どうしやした?」
「聞いてるかもしれないけど、今度私、未来革新部のリソースマネジメント課を見ることになったの」
「へえ、それはそれは」
『予想どおりのこと言い出した』
「へえ、じゃねぇわ。あなたにも手伝って欲しいのよ」
「そうなんすか? ちょっと俺には荷が重いのでは、と」
『ちょっと、断ってみた』
「何チャットしてんのよ、結城とじゃない。
『ちょっと、断ってみた』
じゃないわよ」
「プライバシーの侵害だ」
「会社のチャットじゃないの。サーバーに残ってるわよ。バカね」
そんなのいちいち見るバカいないだろ、多分。
「ふーん、豆腐ねぇ」
「全部読んどるんかい」
「そのゴジ○さんにお願いがあるの」
「断る! 自衛隊のお願いも断ったのに、一般市民のお願い聞けないっすよ(嘘だけど)」
「いやねぇ、ダンジョン連れてけって言ってないでしょ。
ダンジョンでスキルを身につけて、本業にどう活かすかを考えるのを手伝ってってこと」
「ああ、そういうことっすか」
『もう一度断ってみよう』
「見てるわよ!」
「マジ仕方ねえわ。山田さんのお願いときたら、断るなんて考えられないっすわ。
会社員万歳っすわ」
「バカねぇ。あなたのことは、会社みんな腫れ物のように扱ってるから、私が待遇改善してあげようとしてるんだから。感謝しなさいよね」
「へえ」
「それやめなさい」
「わかりやんした」
『断れなかった』
『そらそうだろ、お前バカか。
あのゴリねえに勝てるやつ見たことないわ』
「あ」
「誰がゴリねえだって?」
「結城くんです。あいつバカなんで、すいません。
ほんとにもう。先生に言っときます」
静かに山田女史は、検索欄に「ゴリ」と打つ。
「あんたも書いてるでしょうが」
検索結果に俺からのチャットが引っかかる。
人に見えないところで、女史の鋭角なヒールが靴に食い込んだ。
靴が壊れる!
「サーセン」
「もう!」
かくして、俺は山田女史のしもべになることが決定した。
⸻
今回のリザルト
壊れた靴
山田女史は、あの梶を顎で使っていると、評価を高めたのは言うまでもない。
チャットは災いのもと。
もちろん結城も、直接的大目玉を食らったのは言うまでもない。




