第二十六話
ある日ダンジョンができた。
そして、それを支える組織が立ち上がった。
俺は彼らを純粋に尊敬している。
わざわざダンジョンのインフラを提供してくれているのだ。
できる協力を惜しむつもりはない。
しかしながら呼び出された会議のアジェンダと、参加者一覧を見たときに、こいつら正気かと思った。
査問会でも開くつもりだろうか。
もしそうならかましてやろう。
そう思っていた。
ところが、むしろ丁寧なおもてなしの上、上座に案内されて静かに会議は始まった。
さゆりはなぜか俺たち側に座り、闘気を高めている。頭がおかしいらしい。
かわいそうに。
アジェンダによると、俺から今回の練馬ダンジョン踏破の経緯の説明が欲しいらしい。
「それでは、今回の踏破の経緯をご報告します。スライドで説明いたします」
俺はPCを用意し、急ごしらえのパワーポイントの資料を投影した。
「まず、現状から」
スライド上に、今までの検証情報を表示する。
プロボダンジョンの最奥にいたまだ胎児状の主※仮は、あまりにアタックされていないのでまだ小さい。
最奥までの距離も二十キロはない。
巣鴨ダンジョンは春風が相当数倒しており、主は成長し切っていて、表層まで現れた。
スライムは強敵だったが、外には出てこられなかった。ただ、スライム自体は巨大だっただけだ。
練馬ダンジョンは、俺が相当数倒しており、主の場所まで呼ばれた。
主はデカいだけのアリだった。
なんでダンジョンがあるのか、何を求めるのかなど問いかけたが、回答はなかった。
自衛隊他各国の検証上、モンスターを倒せば倒すほどダンジョンは広がり、モンスターは増える。
わかったことは、一定以上の討伐により主とのバトルになる。そして、主を倒すとダンジョンはなくなる。
主との対話は成立しない、もしくは成立するためには何かが足りない。
この情報からもたらされる推論としては、そろそろ各国の攻略が最も進んでいるダンジョンから、主との戦いは起こる。
主はたいした強さはない。
魔石は提出したが、写真はあり、通常の魔石の二十倍程度のサイズが得られる。
ダンジョン崩壊時、ダンジョンに取り残されている人がいても、外へ放り出される。
アペンディックスとして、俺の仮説を説明する。
ダンジョンは魔石を持ち出されることを目的としており、侵略者ではないこと。
我々はダンジョンに教導され武力を上げているため、ダンジョンのようでダンジョンではない真の侵略者が別にいるかのようであること。
これらは根拠がないので、今後検証し、報告することとして、発表を終えた。
「以上です。ご質問がありましたらどうぞ」
俺はスライドを目次のページに戻しながら聞く。
一同は目をむき、それぞれが思考を巡らせているのを感じた。
こういうのは、なかなか切り出しにくいものだ。
「兵頭理事、いかがですか?」
俺は名指しした。
さゆりのところのトップだ。嫌がらせの一環である。もちろん。
「報告ありがとう。非常にわかりやすかった。君はビジネスパーソンでもあったね。
さて、私からはアペンディックスで触れていた仮説について伺ってみたい。
君の仮説によると、さらに危険な侵略者がダンジョンの形でやってくる、と読み取れる。
根拠はないとのことだが、何か肌感はあるのかな?」
「はい。大多数の方には違和感があるかもしれませんが、わたしはダンジョンから殺意を感じないのです。
本気で殺そうとするなら、ダンジョンに酸素は不要ですし、我々が成長できてしまう必要がないんです。
非常に不可解ですが、何か次があるから頑張れよと、応援されているように感じられてならないのです」
「な、なるほど。
それは説得力があるな」
「研究局の酒井理事はいかがですか?」
こういうことは専門機関に尋ねたいところだ。
「初めまして、酒井です。
ご指名ありがとうございます。
同じくアペンディックスの話です。
正直驚きを禁じ得ないのですが、梶さんの仮説は、我々がこれから協議しようとしている仮説とほぼ同じです。
ただ、世界に公開すべきか悩んでいる仮説でもあります。
ダンジョンは有限であり、その先には本当のリスクが起こりうる、となったら、恐慌も起こりうると判断しています。
この点は、JSRDOに限らず、非公式で他の機関の研究成果を基に意見交換も始めたところです。
梶さん、ぜひ当研究局で研究するチームに入り、その観察力を生かしてみませんか?」
「魅力的なお声がけ、ありがとうございます。
今は探索者と本業の掛け持ちをしており、本格的な協力は物理的に難しいです。
ですが冒頭お伝えした通り、わたしはJSRDOに所属しています。副業の範囲でよろしければ、協力は惜しみません。もちろん有償ですよね?」
俺は笑顔で問いかけた。
「ええ、もちろんです。別途担当を用意し、ご連絡いたします。いやぁ皆喜びますよ」
「こちらの綺麗どころではない方なのに、歓迎いただけるんですね」
「・・・あなたはご自身のことをどう思われているか、本当にご存じないわけではないですよね?
世界的なスーパースターですよ?」
「こわ」
つい本音が出てしまった。
俺は咳払いし、改めて声がけをする。
「ただ、残念ながら、魔石を我々が利用することが、ダンジョンに何をもたらすのか、もしくは何の役に立つのかがわからないんです。
菅原さん、いかがですか?」
エネルギー利用の雄たる菅原氏なら色々考えているに違いない。
「梶さん、その質問に対しての我々の検討状況については、商務局の理事、沖さんから回答します。その前にわたしからの素朴な質問に答えてもらってもいいでしょうか?」
「はい、もちろんです」
「ありがとうございます。
梶さん、あなたは自身を人間とゴジ○だとどちらに近いと定義していますか?」
何を聞いてるんだ、このおっさんは。
そんなの決まってるだろうが。
「ゴジ○です」
勝手に横の金髪の置物が話しだした。
あたしは置物になる宣言を、部屋に入る前にしたはずだ。
「んなわけあるか。ヒューマンだろうが。
菅原さん、訂正すると、限りなくゴジ○寄りの人間です」
「ほぼゴジ○って言ってるようなもんじゃんか」
「うるせぇ。台無しだろうが」
身内で話すとキャラが壊れるわ。
「梶さん、ありがとうございます。春風さんも。
少なくとも人間に力を貸してはくれそうだとわかり安心しました。
ガイガーカウンターは不要なわけですね」
「先日測った際は、異常値は出ませんでしたよ。
ちなみにこの金髪は異常値でした」
「嘘つくなよ! そっちこそ台無しでしょ」
「いや、俺にゴジ○って聞くくらいなら、お前のこともギャオ○じゃないか疑われてるに決まってる。
親切に先に教えただけだろ」
「なんで脇役なのよ、バカ。
理事長、このゴジ○は終端速度で落下しても怪我しないんです。
おそらく物理的に破壊する兵器はないです。
核も効かないんで、社会的に攻撃した方が効果的です。年金を支給しないとか」
「やめろ、本気で背筋凍るわ。お前マジヤバいな。
善良なゴジ○をいじめるなよ」
「理事長すみません、どうやらガメ○だったようです。
正義寄りです。安心してください」
「わっはっはっ。安心しました。少なくとも冗談は通じそうだ。
では、沖さん、お願いします」
「理事長が変なことを聞くから、そもそも台無しじゃないですか。
失礼しました。商務局の沖です。
理事長がお話しされたように、魔石についての見解をお知らせします。
今世間には魔石はエネルギー源として広く流通しています。
これはむしろ研究局の範疇とも言えますが、実は地球の二酸化炭素の濃度が下がり、温暖化の抑制効果が見込まれています。
ニュースでもご存じの通り、先進国や新興国がこぞって魔石をエネルギー源とした発電設備や工場を立ち上げ、今や世界的な技術転換点を迎えています。
つまり世界の浄化が進んでいます。
これはある意味テラフォーミング、いやどこかの世界の求める環境への変化を導かれているとは思いませんか?
今のままでは息苦しい。だからモンスターは外には出ない」
「正直いって、ピンときます。
わたしはダンジョンの空気が綺麗すぎると、炎の魔法が強すぎると思っていました。
非常に合理的です。
我々の生きていられないほどに酸素や窒素の濃度が上がり過ぎなければ、良い方向といえますね。
魔石燃料は、何を排出しているんですか?」
「梶さん、あなたは恐ろしい方ですね。酸素と窒素です。酸素の方が排出量が多いので、空気の窒素濃度が過剰に上がることはない見込みです」
「どうやらダンジョンの向こう側の何かは、喘息持ちのようですね」
「ふふ、おっしゃる通り。
ただ現象はわかっていますが、本当の目的はまだわかりません。
ぜひ何か掴んだら、我々の部門にもお知らせください」
「わかりました。では新事実を一つ。
魔石を加工することにより作成した武器を模したものは、現代科学では理解できない攻撃力を持ちます。
サンプルを提出します」
俺は研究所の魔石のナイフを提出した。
「これは?」
研究局の酒井が聞く。
「魔石を加工して作成したナイフです。
魔力、というか、切るという意思を込めることで、とんでもない切れ味を生み出します。
危ないので、一般にはあえて公開しません。
ただ、魔石を加工し、硬度を上げる方法は、特許を申請しているので、もしかしたら、お耳に入っているかもしれません。
とあるスタートアップですが」
「あれもあなただったんですか・・・」
商務局の沖が言葉を失う。
理事長が取りなすように言う。
「梶さん、どうやらあなたは経営者としての側面もお持ちのようですね」
「いえいえ、わたしは基本ソロですし、たまに組むパーティメンバーのマネジメント一つできないのです。
なんせギャオ○とか、ジャ○ラとかばかりなので、怪獣大戦争ですよ。お手上げです」
「わたしの方を見て言ったでしょ、何よジャ○ラって。聞いたことないし!」
さゆりも巻き込んでおいた。
「じゃあモス○な」
「なんでよ、虫じゃない!」
「・・・」
「って、ムシすんなっ! っておっさんか!」
ダジャレの乗りつっこみまでできるとは。
会議室の雰囲気は、飲み会レベルまであたたまってしまった。
こうなると大体成功だが、冷めやすいので注意が必要だ。
しないが。
「そろそろお時間が迫ってきましたが、他に何かご確認されることはありますか?」
締めようと声をかける。
そのとき一人が手を挙げた。
防衛局の兵頭の後ろにいた、いかつい顔をした男性だ。
「どうぞ」
回答を促す。
菅原はわずかに眉をひそめる。
「ありがとうございます。
防衛局統括の水野です。
安全保障上の心配からお伺いしますが、あなたはJSRDOへの所属による貢献の意思を示していただきましたが、日本政府への批判的な意識はありませんか?」
「ありませんよ」
「それでは、なぜダンジョンを攻略できるノウハウを開示されないんですか?
あなただけが突出して強いことは、日本にとってマイナスなのでは?」
それは俺もよく考える。
全部を底上げしたり、本当の戦闘のプロ、例えばチームアメリカなどにバトンをタッチするべきなのでは、など。
来る本番ダンジョンを乗り越えるため、大量の超人を作った方がいいのでは?
俺の直感は、こう囁く。
「正直に言って、わたしのメソッドは永続的ではないですし、一般化させられないと考えています。
わたしのダンジョンアタック、わたしのメソッドは、ダンジョンの裏をかくこと、常識を覆すことにあります。
常識となった瞬間に、そのやり方は無効化することになると予想しています」
水野は訝しそうな顔をしている。
「それは本当ですか? 個人の利益を守るために、世界に危機をもたらしませんか?」
俺は怒鳴り散らかして、ゴジ○としてこのビルを破壊すると言う選択肢もあるのだろう。
この男はあえて俺を煽り、その危険性をアピールしようとしているのか、その逆なのか?
この男をなぜか嫌いになれない。多分本心で話しているんだろう。人を試したり、騙したりの要素がない。
「これはみなさんも推奨されていると思いますが、個々のオリジナルのスキルなど、全てを開示しない方が良い、と。
わたしもそれには賛同しています。
足元を掬われるリスクも背負いますし。
ですが日本のダンジョンを支える皆さんへ、あえて申し上げます。
わたしのオリジナルなスキルと思われる能力は、『直感』なんです」
会議室がざわついた。
のどかも言っちゃったのね、という目をしている。
小声でばーかーばーかーとか呟いている。
「その直感が秘匿しろと?」
「正しくは、公開したら終わるぞ、と、です。
どう終わるかわかりませんが、寒気が止まらなくなります。
なので水野さん、もしダンジョンに潜れるのでしたら、一度ご一緒ください。
判断はお任せします」
水野は考え込んでいるようだ。
「何人まで大丈夫ですか?」
「水野さんと、このクノイチ。あと二人までとしましょう」
「!! 承知しました。
ご協力ありがとうございます。
改めて担当から調整します」
クノイチのくだりで、水野氏はピリついた。もしかして忍者の頭領なの? 自衛隊って忍者なの? かっこよくない?
「では、改めて以上でよろしいでしょうか?
それでは終了とします。
ありがとうございました」
いつものミーティングのくせで、ミーティングの締めをしてしまった。
とはいえ終了だ。この組織の幹部と出会えたし、なかなかの収穫だ。
そこで菅原氏から声がけがある。
「すみませんが、その公共心に甘えてしまいます。こちらにサインをお願いできますか?」
ドカンと出してきたのは、契約書ではなく色紙の山だった。
「もちろん春風さん分もあります」
逃げようとして、半分消えかかっていたのどかの山もドカンと出てきた。
ヒョエーっと小さい声が聞こえた。
「別室でお茶も用意してありますので、こちらへどうぞ」
冒頭の司会の女性から声がかかる。
後ろからまた、ヒョエーっと小さい声が聞こえる。
案内されながら自己紹介もされる。
「司会進行をお任せし申し訳ありません。
元巣鴨ダンジョンセンター責任者の藤波です。どうぞ三枝かおり共々、仲良くしてくださいね」
ちょっとそれには自信がない。
のどかはちょっと離れてキョロキョロ逃げ場を探して立っている。
さゆりは既に消えている。
⸻
今回のリザルト
お偉いさんとの邂逅
練馬ダンジョンセンター破壊の責任回避
す、巣鴨?
サインを書きながら、ずっと愛想笑いを絶やさなかったのは言うまでもない。
雰囲気に負けて色々はいはい言ってしまった。なんやかんや言っても、大先輩たちの段取りにいいようにやられてしまったのも言うまでもない。




