第二十四話
ある日ダンジョンができた。
俺たちはダンジョンの奥に進んだ。
そして当初よりも多くモンスターを倒した感覚があり、昼に一度地上へ戻った。
これで終わりにしてもいいかな、と思う反面、ここで終わってはならないという直感があった。
「梶さん、なんか色々、なんというかレベルが上がったように思います」
「そうだろうな。俺でさえ少し強化された気がするよ。三人だとむちゃくちゃ捗ったな」
「本当だよ。なんだろう。不思議な感覚だった」
「それは多分、わたしのスキルかもしれないです」
「ほう、慎重に話せよ」
「はい、お二人になら。わたしのスキルは、連帯感が湧いてくるようなスキルなんです。
でも、強制力があるようなものではなく、あくまでも同じ目的でいるときに、バフがかかるような印象があります」
「そいつはすごいな。もしかしたらソロ活動だけではなく、アイドルグループ活動もいいのかもな」
「いえ、効果が出るとバランスが崩れちゃうんで、逆にソロなんです」
「それはわからなくもないかな。でも足りないものを補い合えるような、本当の仲間ができるといいね」
「そうですね。のどかさんと梶さんのようにですよね。憧れます」
「俺たちは補い合っているわけではない。
コイツは放っておくと何をするかわかんねぇから、俺が目を離さないだけだ」
「ストーキング!」
「言い方。ほんとにバカなんだから」
結局休憩の後、またダンジョンに戻り、今度もまた潜ることにした。
午前の部で潜ったのと同じエリアまで、一気にたどり着いた。
「午前中よりもスムーズにここまで来てしまいました」
「スキルの効果が凄いな」
「あたしが魔法ぶっ放してるのもあるかも」
同じフォーメーションで来ているし、効率は上がっている。
のどかの魔法を解禁した上に、せりかの動きはどんどん良くなっていた。
とはいえモンスターのポップ頻度は、むしろ肌感では上がっている。これからが本番だろう。
俺はそれでもブレーキを踏むのは今ではないと感じていた。なぜなのか、何が待っているのか。
「進もうか」
「はい!」
俺たちが次の広場へ踏み込み、中央まで進んだ時、俺たちの体は見えない力でそこに縛り付けられた。
「きゃっ!」
「え?動かない」
「・・・」
俺は時が来たことを悟った。
ほとんど動かない体を、俺は全力で動かした。
じりじりと動いていく。
二人は全く動けない。
「か、梶!」
「梶さん」
俺は歯を食いしばり、せりかを担ぎのどかの腰をだき、二人を完全に確保した。
その瞬間、俺たちの足元が一気に崩落した。
竪穴が一気に広がり、俺たちは垂直に落ちていく。
「いや~~!!」
「ちょ、ちょっと!!」
俺は二人を離さず、階下を見据えた。
「俺から離れるな! しっかりつかまれ!」
二人はがっしり俺に抱きつく。
「獲物を離すなよ!」
せりかに注意する。
時折傾きそうになるが、その都度、突きや蹴りで軌道を修正する。
およそ二十秒ほど落下した。おおよそ終端速度に到達した頃、地面が近付く。
「全身に気合いを入れろ! 手を離すなよ! 俺の体を砕くつもりになれ!」
俺の足から地面にぶち当たり、二人の体は慣性の力で地面に叩きつけられそうになる。
「おおおお!!」
地面は爆発した。
それでも俺は二本の足で立っていた。
二人の足がチョンと地面につく。
「い、生きてる」
「梶! 大丈夫?!」
俺は人間をやめているようだ。
もちろん全力を出しているのもあるし、謎にいわゆる気のような、魔力のような力も循環させていた。
物理耐性も上限なのもあるだろう。
無傷な自分にむしろ恐怖を感じる。
「かろうじて。パラシュートなしのスカイダイビングもできるようだ」
俺の冷静な声色を聞いて、二人は目を合わせ、落ち着いてきた。
二人を離した。
二人は座り込んでしまう。
俺も片膝を突く。
「警戒!!」
それでも俺は声を上げる。
二人は顔を上げ、左右を見る。
「せりか、癒やしの歌を歌え。適当でいい」
「い、癒やし? 癒やし、癒やし?」
パニックになりそうだ。
「早めのパ○ロン~。早めのパ○ロン~」
「それなの? でも効いてる。
ちょっと落ち着くわ」
「チョコレートは明○」
「慌てるとそんな感じになるのか。なるほど」
「!!」
歌を止め、せりかは俺をポカポカ叩く。
「戦闘体制!!」
二人もサッと立ち上がる。
ギイギイと音がする。
せりかが振り返る。
言う通りに離さなかった、斬魔刀ファイナルディシジョンを構える。
「ゆっくり進むぞ。俺がゴーを出すまで、斬りかかるなよ」
「は、はい」
「のどかもな」
「わかった」
俺たちはそろそろと進む。
進む先は大きなドームになっていた。
おそらくここがゴールだろう。
ギイギイとなっていた音の元には、巨大なアリがいる。役割的には女王アリだろうが、アリを産む器官は見当たらない。
ただ巨大なだけだ。
十メートル近いだろうか。
二人とも言葉を失っている。
「主だな」
「なんですぐ襲ってこないんです?」
「俺たちを観察しているからだろう。
俺たちをここに呼び出してでも、直接観察したかったんだろう」
視線を感じる。
いつか感じたものと同じだ。
「よう、三度目だな」
俺は声をかける。
もちろん返事はない。
触覚が揺れた気がする。
「お前たちの目的は何なんだ?
俺たちを超越した生命体にして、何を得る?
何をさせたい?」
俺は語りかける。
「伝わっているの?」
「全然わからない。だが、俺は何度かこいつの視線を、意思を感じている。
何かを聞きたいのか、何かを伝えているのかわからない。
でもおそらく最強であり、向こうの意思を超えてきている俺に興味があるようだ。
そういう意味では二人を巻き込んだかもしれん」
依然として、巨大アリはそこにたたずんでいる。
「俺は今のダンジョンは悪くないと思ってる!
だが、魔石だけってのはいただけない。
もっとバリエーション考えろ!
その刀を見ろ!」
俺はせりかの刀、ファイナルディシジョンを指差す。
アリはわずかに首を傾げたように見える。
「なんか考えあるの?」
のどかがささやく。
「こいつらの目的は少なくとも魔石を外に持ち出させたいはずだ。
でも一気に吐き出せばいいのに、じわじわと持ち出させたい。
その上で、なぜか人を強化したい。
俺がわからないのは、こいつらは敵なのか、敵を装っているのかなんだ」
「装っている?」
「そうだ。本当の殺意があれば、俺たちは簡単に死んでいる。
俺なら酸素を奪って終わりだ」
「!!」
「でもコイツらはそうではない。俺たちに何かを求めている」
俺は改めて考えていたことをのどかに告げる。
「こいつらは侵略者か、殺意がないなら侵略者を模した何かだ」
俺にはどうしても教導されている感覚が拭えないのだ。
期待された通りに振る舞えば、期待通りになるなんて、違和感がありすぎる。
ゲーム的な感覚もないから、丁寧さも足りていない。チュートリアルのようなものもない。
だが、不器用に何か伝えているようにも思う。
「ダンジョンは何のためにある?
無くしてしまったダンジョンはそれで終わりなのか?
もっと強いやつを連れてきてくれ。
俺はもっとダンジョンで楽しみたい。
俺はもう最強なんだ。
目の前のお前、巨大アリなんて瞬殺できる。
どうして欲しいんだ!」
「梶さん・・・」
俺は嘆いているようにしか見えないだろう。
のどかはむしろ共感している。
「あたしたちにどうして欲しいのさ?
ダンジョンでは科学力は上がらないよ?
宇宙に飛び出すこともできない。
ただ個として強くなるだけなんて、虚しいじゃないか?」
アリは何も語らない。
潮時だろう。
「せりか!ゴー!!」
俺たちの嘆きに聞き入っていたせりかが、弾かれたようにアリへ翔ける。
今までで最速だ。宙を跳ねるようにアリの体を踏みつけながら登っていく。
「のどか、合わせるぞ」
「わかった」
せりかが斬魔刀ファイナルディシジョンを振りかぶる。
アリも大きな顎を開き、せりかに噛みつきかかる。
タイミングを見計らい、俺は魔石のコインを指弾で弾く。
せりかの刀がアリの首を刈る瞬間、のどかの雷がアリの眉間に突き立つ。
コインもアリの顎を砕きながら、アリの体の中心を貫く。
アリの頭がゴロンと落ちる。
そしてホールは光に包まれる。
「ううんっ!」
「ああっ!」
二人に光が吸い込まれるように見える。
俺にも吸い込まれていく。
これまた大きな魔石が落ちている。
スライムの時は慌てていたから記憶がない。
その魔石をしまう。
せりかが、息を荒げながら、斬魔刀ファイナルディシジョンを鞘に納める。
「二人ともよくやった。
この通り、主はもうたいした相手ではないんだ。
・・・ダンジョンの目的は何なんだ?」
俺の質問はもちろん虚空に消える。
「さっきの広場へ戻ろう。上がれるなら上がる」
俺たちは落下地点に戻る。
天井を見ると穴が空いているままだ。
一層一層戻るのも癪だ。
「さっきと反対だな。登ろう」
「だっこ」
「お、おんぶ?」
俺は黙って二人を担ぐ。
結局二人同時はこうなるのだ。
「舌を噛むなよ。いくぞ!」
いつまたダンジョンがなくなるかわからない。
俺は全力で駆け上がる。
「わー!」
「速い。速い!」
二人はキャッキャしている。
なぜか女子を担ぐとこうなるのだ。
落ちた時の速度には及ばないが、相当に速いはずだ。景色が下に流れていく。
「もう下がないよ!」
のどかが下を見てしまったようだ。
ダンジョンに取り残されたらどうなるのか。
ダンジョンが崩れたら残った生物はどうなるのか。
俺たちは身をもって検証する羽目になりそうだ。
必死に登りながら、建て替えたあのプレハブ、無駄になったな、ということと、かおりちゃんやお姉さん方に悪いな、と思った。
⸻
今回のリザルト
さらなる身体強化
ダンジョンへの意見
さらば練馬ダンジョン
最上階に上がる前にダンジョンは完全に消失した。
俺たちは外にぽいっと捨てられるように飛び出した。
駆け上がる速度のまま飛び出したため、俺は弾丸のように空へ飛び出し、放物線を描いて練馬ダンジョンセンターの壁に突き刺さった。
上手に落としたため、二人は突き刺さらなかったが、二人は地面を転がり、服はビリビリとなった。
キバとツノの生えたかおりちゃんに、壁に突き刺さったまま説教をくらったのは言うまでもない。
本人には傷はないが、せりかはひびきが現れた途端、泣きながら抱きついた。
そんなせりかを見て、怒髪天となったひびきの眼差したるや、凄まじかったことは言うまでもない。




