第二十三話
ある日ダンジョンができた。
急遽せりか側の都合が入ったことと、俺の準備の都合もあり、三回目はその週の土曜に開催することになった。
今回は練馬ダンジョンセンターに集合していた。
もちろん観客はいない。プレハブの一角だが、ひびきがいると映画のワンシーンのように感じる。
「本日もよろしくお願いします」
「ああ。大船に乗った気持ちでいてくれ」
「なんかいちいちオッサン感があるのよね」
「だまらっしゃい」
「ほら」
一方、せりかはなんとなく図太さが出てきたのか、いくらか堂々としている印象がある。
きっと周りのすごい大人に萎縮していたのだろう。
「昨日、歌番組の収録があったんです。
いつもよりなんとなく余裕を持って歌えたんです」
「そうなんです。せりかはいつもはなんとなく押しつけられている感があったんです。
昨日は風格があると言うか、なんというか。
あと・・・歌を聴いているとなんとなく心が安らぐような、そんな気がしたんです」
「へ、へえ、すごいでございますな」
「どんな誤魔化し方よ」
「ごほん。えーと、歌とダンスとオーラかなんかと強さ?だったかな、をなんとなく身につけたいというオーダーだったはず」
「ごほんって。しかもなんか適当だし。
結局いつものパターンよね」
のどかがなんか言っているが、なんとなくミッションクリアしていっているはずだ。
「歌はクリア。ダンスも基礎となるステップも良くなった。体も頑丈になり、刀の技もスキルアップした。後はオーラだったかな」
「梶さん、わたしやりすぎてるんじゃないかと、逆に心配したりしてるんですけど」
「そうか? うーん。まあ、今日を最後にしようと思っている。
俺はあとはモンスターをたくさん狩ることで、なんとなくクリアできる気がするんだ」
ひびきが心配そうに見てくる。
「梶さん、せりかはついていけますか?
無茶はしませんか?」
ひびきは俺をじっと見つめる。
綺麗な人だ。そして迫力がある。
その瞳には吸い込まれてしまいそうな魅力がある。さすが女優だ。
オーラとは、その所作で生まれるのかもしれない。
「ひびきさん、約束します。
無事にやり遂げ、ここに連れてきます。
安心してください。
ただ、いつもより長くなると思います。
ここは何にもないので、夕方またお越しください」
何もないのくだりで、違う方向から貫くような視線があったが、無視した。
「せりかをよろしくお願いします」
「ひびきさん、わたしも探索者だよ。
頑張ってきます!」
彼女らの死角で、のどかが「あちゃー」と天を仰いだ。
練馬ダンジョンは、大アリのダンジョンで、数が多いことがポイントだ。
次々と襲いくるモンスターを、サクサク倒していかないと、あっという間にゲームオーバーになる。
俺は鞘に納めた状態の一振りの刀を取り出す。
「そこで、ここに用意したるは、せりか専用必殺武器であるところの、斬魔刀ファイナルデシゾン、デ、ディシジョンだ」
「噛みまくってるじゃん! ぜんぜん言えてないし。聞き慣れない名前だし」
「長いネーミングなんですね。斬魔刀ファイナルデシゾン・デ・ディシジョン?ですか?
どういった由来なんです?」
「・・・」
極悪高分子研究所のあの女にファイナルディシジョンをかましたくなってきた。
「すまん。正確には、斬魔刀ファイナルディシジョンだ。
ちょっと病んでる作成者が、精魂込めて一日で作成し、二日間悩み抜いて名付けた。
世界を終わらせる刀らしい。刃はないが」
準備に時間がかかったが、ほぼ名付けが理由だ。あいつはヤバい。わかってるけど。
「せ、世界を終わらせるんですか?
ちょっとわたしには重いというか。いらないかもです。
刃もないんですよね?
しかもなんか、香ばしくないですか?」
「魔力を込めた、切りたいという想いを込めた時、この刀の切れ味や、頑丈さなど品質は天下一品だ。
これを見てみろ。この見事な刃文と地肌とのコントラストを」
俺はゆっくり鞘から抜き、刀を二人に示す。
「いや、刃文っていうか、ファイヤーパターンになってるじゃん」
「この地肌、なんかメッキみたいじゃないですか? くすんでるというか」
「刀は見た目ではない!」
「なんか無茶苦茶なこと言い出したよ、こいつ」
俺は有無を言わさず、せりかに押し付けた。
せりかは不承不承受け取り、刀を鞘に抜き差ししながら、やがて抜き身をじっくり見つめる。
「これ・・・由来や塗装、刃はともかく、作りは名刀に引けを取らないというか、とんでもなく剛性があるというか。
しなりはあまり期待できなさそうですね?」
「そうだな、強いて言えば、その硬さが欠点かもな。だが剛性は高いので、鉄筋でも、コンクリートでも、スレートでもよく切れるぞ」
「家屋破壊用なの?バカなの?」
前置きが長くなったが、俺たちは例の広場へと到着する。
「せりか、最初の集団は俺が見本を見せる。次はお前がそのディシジョンで斬るんだ」
「その略し方だと、ただの決裁だよ」
「差し戻されそうだな。まあ、見てろ」
やがてゾロゾロとアリが来る。
最近、アリがなんとなく必死に襲ってきている気がする。目の敵というか、なりふり構わずというか。
それでも俺は一匹一匹丁寧にぶん殴り倒していく。一掃し、魔石を集めて戻ってくる。
「せりか、頻度はこれくらいだ。軽く揉んでこい。お前の刀の技をもってすれば、楽勝だ。
お前に足りないのは体力だ。数を倒すんだ。
その刀は、切れる、と信じるとなんでも切れる。全てを切り裂け」
せりかは刀を見つめている。
「全てを斬る」
刃を見つめる。
「なんて際立つファイヤーパターン。
ヤンキーのトレーナーのようです・・・。
この斬新なデザインでなければ、もう少し真面目にいけたんですが・・・。
もう適当に行きます。
梶さんのノリノリな感じもちょっと引くし」
「ぐさー」
俺はガックリしてしまった。
のどかが珍しく落ち込む俺の肩にしなだれかかる。慰めてくれるようだ。
「恥ずっ」
「行きまーす!」
アリが現れだし、せりかが駆け出す。
「切り裂け!」
斬魔刀ファイナルディシジョンがアリの頭を刎ね飛ばす。
次々と襲いくるアリをサクサクと切り裂く。
せりかはその刀技を発揮し、流れるような動作と軽快なステップから生み出される斬撃を繰り広げる。
驚くべきことに、俺とさほど変わらないスピードで全滅させてしまった。
せりかは残心の後、刃こぼれなどの確認をする。刃はないが。
「あんなに無茶したのに、刃こぼれどころか、歪みもない。すごい・・・。
でも塗装はちょっと剥げました」
「な!返品交換だな」
「いやいや、めちゃくちゃ使ってんじゃん」
「ガワがなきゃただの模造刀だろうが」
「塗装がファイナルディシジョンの本体なのね」
そうこうしているうちに次の集団が来る。
せりかは刀の技をいかんなく発揮し、先ほどより軽く全滅させてしまう。
「この刀が凄すぎます。
正直、刀は継戦能力に課題があるんです」
「まあ、武器全般がそうだよな。俺にしてみれば」
「梶、どうするの?このままここで狩り続けるの?」
ここで待っていても、一定の効果は得られるが、効率的とは言い難い。
「思い切って、もう少し奥へ進もう。
ただ、せりかだけではなく、俺たちも戦う。
数が多いからな。
せりかを先頭に、俺たちは左右のやや後ろをいく。
せりかは俺たちのことは気にせず、思いっきりいけ。危ない時や討ち漏らしは俺たちがなんとかする」
「はい!」
そうして俺たちは、練馬ダンジョンの奥へ踏み入った。
⸻
今回のリザルト
斬魔刀ファイナルディシジョン
※本体は塗装部
今回の刀も販売できなくなることは言うまでもない。
やはり異常だ。ダンジョンの仕様自体が異常というのもある。
おそらくゲームのように、プレイヤー側への制限ができていないのだろう。
今回のような強化依頼は、これを最後にしようと決めたことも言うまでもない。




