第二十二話
前回までのあらすじ。
愚かにもダンジョンブートキャンプに参加してしまったせりかは、のどかの罠にハマり、絶体絶命の危機に陥ってしまった。
せりかは決死の脱出を図ったが、モンスターの襲撃に遭い、身動きが取れなくなってしまう。
果たしてせりかに明日は来るのか。
「いまはその明日なんだけどね」
のどかが肩をすくめる。
初日は軽めにウォーミングアップの回であったため、二日目の今日からはペースを上げないといけない。
「か、軽めだったんですか、昨日のあれで・・・」
「まあ、一応NDA交わしてるんで、ここだけの話にしておいてね。
多分、初日ほどセンセーショナルにはならないと思うわ」
「そうだな。初日は歌の強化に関わる話はゼロだったからな。今日はそっち方面も考えている」
「あ、ありがとうございます。もはや恐怖しかないです」
「なんかせりかが今日は、一日中ロボットみたいな動きをしていたんで、よほどインパクトがあったんだと思います。
お手柔らかにお願いいたします」
ひびきから申し入れがある。
「どうやら誤解もありそうだな。
とっても安全かつソフトに、そして効率的に教導している。安心して任せてくれていい」
「なんでそんな自信満々に言えるのよ。怖いわぁ。
まあ、ひびきさん、できるだけフォローするようにするわ」
「ありがとうございます。のどかさん、よろしくお願いします」
のどかに頼んだところで、俺よりも危ない何かを仕込んでいるはずなので、無駄なことだ。
「まあいい。行こう」
「ひびきさん、い、行ってきますぅ・・・」
涙目のせりかを連れて、またいつもの場所へ向かった。
どうすれば歌が上手くなるか、俺なりに一生懸命考えた。
だが俺にできるのは、所詮数の理論だけだ。
たくさん歌えばいいかもだが、何曲歌えばいいのか、とか、喉がいかれるリスクもある。
「というわけで、俺が考えたのは、結局歌うことだ。それもたくさんだ」
「どういうわけかは、私もよくわからないけど、ちょっと近いのが私の説。
私は演奏もした方がいいと思う。
そこで用意したのがこれ」
のどかは小ぶりな電子キーボードを用意してきた。
「私は演奏を通じて、音楽性の高まりを期待している。ただ、演奏しただけで、演奏スキルは上がったり、ついたりはしないことは検証済みなの。
ダンジョンでは、楽器の演奏などは、スキルとして認められていないようなの」
「そ、そうなんですね」
「さすがのどか。検証済みなわけだ。
でもなんで、演奏をさせようと?」
「歌と演奏によって、何かが生まれてほしいという気持ちがあるの」
「ふうむ」
「梶は歌を歌うと言っても、どうやって数をこなすの?」
「俺の仮説は、歌が一曲を一単位として、たくさんの曲を歌うことが、歌に応じた効果を導けるのではと想定している。
演奏もつくと強そうだな。ぜひ一緒にやってもらおう」
俺たちはせりかを見た。
少し引き気味になっている。
「というわけで、まずこの電子キーボードを弾きながら、歌を歌ってもらう」
「ど、どんな歌を歌うんですか?いじめる?」
「いじめません」
そんなこんなはあったが、せりかはピアノを弾きながら、「さくら、さくら」と歌ってみている。
悪くない選曲だ。
「俺の選曲は、辛いだろうが次の曲だ」
俺が提示したのは、CMソング、かつワンフレーズものだ。
・ココロも満タンに、コス○石油
・さわやか○ワディー
・消臭○〜
・チョコレートは○治
の四曲だ。
「できるだけ、可愛く、かつ歌詞にある効果もイメージしながら歌ってほしい。
心を温かくしたり、爽やかさ、殺菌、清浄さ、甘やかさ、などだ。繰り返したくさんお願いしたい」
「あたしからのお願いは、曲を同時に弾きながら、曲の良さを広めようとしてほしい」
「えっと、CMソングなんですけど。ゆうても」
「いや、せりか。お前ならできる。頼む」
思わずセリフとともに頭をしっかり下げてしまった。お願いするということと、お辞儀がパッケージングされているらしい。
会社員病だ。電話で話しながらもお辞儀が出る、あれだ。
「わかりました。やってみます!」
そうして、せりかはワンフレーズカラオケを演奏とともに開始した。
今回は割と時間を要する予定だ。
時間いっぱい頑張ってもらおう。
「チョコレート〜は、○治〜」
せりかは歌い出した。
なかなか良い歌声をしている。そこからいくんだな。
「せりかちゃん、歌上手ね。センスあるわ」
「ありがとうございます。のどかさんにそう言ってもらえると、自慢できます」
俺もなんか言ってやろうとしたが、悪口とも取れたので、言わなかった。
CMソングやんか。とか、そんな感じだ。
「さわやか○ワディ〜」
「消○力〜」
「キズパワー○ッド!」
「早めの○ブロン〜」
などのテーマに合った、オリジナル? で曲を増やしていく。
特に「早めの○ブロン〜」がお気に召したようで、ヘビーローテーションをかましだした。
完全に耳に残りそうだ。
俺たちも聞いてるだけだと意味がないので、それぞれ楽器を手に同じ歌を歌う。
のどかはウクレレも持ってきていた。
本気さに少し俺は慄いたのは秘密だ。
俺にはカスタネットを渡してきやがったが。
そうこう二時間近くセッションを繰り広げた。
最終的には、せりかオリジナルCMソング、ラブソングっぽく、「あなたを癒したい〜」という、謎のワンフレーズの歌を三人で歌っていた。
俺は何度も酒を出しそうになった。もちろん、やけ酒だが。
ついに俺たちは気分が浮き立ち、肩も軽くなるような感覚を覚えた。
気のせいかもしれないが、気になっていた指の逆剥けが治っているような気もする。
三人とも、なんとなくスキルが身についてきたような気がする。あんまりいらんのだけど。
「はっきり言って、偏頭痛が治ったわ」
「わたしも、一昨日転んだ時に擦りむいた膝の怪我が治っています」
「これは・・・要秘匿ということだな。
これ系のスキルは聞いたことがないし。
まさかこんな効果が出るとは。
そう仕向けたのは事実だが」
「どの口がそう言うのさ。
自信満々に語ってたじゃないのさ」
「いやあ、こりゃすごい」
効果検証はせりかのコンサートででもやってもらおう。
観客の中から、突然立ち上がれるようになる老人とか、がん細胞が消えたりする奇跡の人とか呼ばれ始めるに違いない。その方向で活躍してもらおう。
「ちょっと消化不良だが、今日はここまでにしよう」
「どこまで行ったら、消化できるんでしょうか・・・」
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今回のリザルト
推定『癒しの歌スキル』
歌を歌うはずが健康になるという結城の呪いは、ここで成ったと言うことは言うまでもない。
なんとなく、このスキルは癒しで終わらないということは言うまでもない。




