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第二十一話

ある日ダンジョンができた。


 そしてダンジョンには、人が成長できる不思議な機能があった。

 その不思議機能を使い、今日、新たな超人が生まれるに違いない。


 俺は本業で、新サービスのプレスリリースに向けた内容確認をしていた。

 実際の実務担当者や管理者にヒアリングを行う。


 さらに、顧客へのインタビュー打診も進めるよう依頼した。


 この手のプレスリリースは、自社が言いたいことを書いてもあまり意味がない。

 独自性や先進性、顧客からの評価などを盛り込んだ方が結果につながりやすいものだ。


「お、梶。広報っぽい仕事もしているんだな。

もしかして暇なのか?」


 結城が通りかかり、声をかけてくる。


「そりゃ営業に比べたら、変な時間の使い方になるけど忙しいわ。マスコットキャラとして、笑顔を振りまかないといけないしな。

かわいい仕草とか」


「それ、ゆるキャラだろうが」


「結城、そういや相談があったんだった」


「なんだ? 婚活か?お前だったら大人気だろ。お茶の間とか」


「ゆるキャラ側がメインなのかよ。

いやいや、そうじゃなくて、歌とかダンスとか、どうしたらうまくなるのかなって」


「やっぱりゆるキャラ街道まっしぐらじゃないか」


「いやいや、俺じゃなくて、知り合いが困ってるもんで」


「ほんとか〜?まあ、そうだな。こないだお客さんがビル主催のカラオケ大会に出るっていうんで、ボイストレーニングに行ってきてさ」


「うん。どっかで聞いたことあるな。新宿か?」


「そうそう。で、そのボイストレーナー曰く、うまくなるなら林檎酢がいいってんで、毎日飲んでたら健康になったって話」


「歌関係ないんかーい」


 結局、例の研修所やホームセンターなどを回り、ネタ集めに奔走した。


 どうすれば歌がうまくなるのか。

 まあ、俺にできることは限られている。

 ワンパターンと言えど、強みを活かすのみだ。


 ◆


「今回は、ダンジョンは環境も整い、思考錯綜に最も適した最先端の豊洲ダンジョンに、お客様をお招きしましたー。じゃーん」


「じゃーん、じゃないでしょ。

かわいい子だからって、浮かれてるんでしょ。

バカね」


「は、ははは」


 今日は初日なので、ひびきとせりかが来ている。


「梶さん、今日はせりかをよろしくお願いします。

この子ったら今日のことを考えすぎて、昼間の収録もとちりまくってました。

浮かれているかもしれないので、厳しめにお願いしますね」


「言われてるわよ。あんたのこと」


「俺は常時冷静沈着が売りだぞ。ひびきさん、今日は初日なんで緩めに行く予定です。安心してください」


「どの口がそれを言うのよ」


「橋本さん、神崎さん、よろしくお願いします。

あたしも、ひびきさん、せりかちゃんとお呼びしても?」


「もちろんです。のどかさん。よろしくお願いします。

またお会いできて嬉しいです」


「はい! よろしくお願いします! のどかさん。

わたしは初めましてです。

お聞きしていた百倍素敵なんですね。すごい!」


 何がすごいのか分からんが、ひびきとのどかは会ったことがあるらしい。


 ひびきとのどかが並ぶことで、半端ではないオーラが溢れ出しているのか、流石に人が寄りつかない。

 遠目でチラチラ見ている探索者はいる。


 お互い芸能活動をしているのだろうしな。

 まあ、もともと俺やのどかに絡む命知らずな探索者は少ない。


「さて。それではダンジョンに行こう」


「梶さん、待ってください。なんでそんなに薄着なんですか?のどかさんも」


「ああ、せりかもそのかっこいいボディースーツは置いていけ。薄着じゃないと効果が薄れるんだ。

モンスターは二十メートル以内には近寄らせない。安心してくれ。


ひびきさん。うちのブートキャンプは、極限に身を置くことで最大限の効果を引き出します。大丈夫です」


「梶、あんたいつものそのフリやめてよ。もう。

ひびきさん、せりかちゃん。あたしも保証する。

豊洲はモンスターのポップ頻度も低いし、緩めだから大丈夫よ。気楽にいきましょ」


 ひびきは困惑気味に、せりかの装備を受け取っている。


「ひびきさん、今日は最大二時間です。

お茶でもして待っていてください」


「承知いたしました」


「ひびきさん、行ってきます!」


 かくして、やって来ましたいつもの場所。


 もう最初からブルーシートを敷き出す。


「ちょっとちょっと。いきなりなの?」


「いろいろ考えたが、安全保障が先かな、と」


「えーっと、あの、あの」


 戸惑うせりかを置き去りに、準備を始める。


 まずは講義からだ。


「せりか。ダンジョンでどのように人が成長するか理解しているか?」


「えーっと、モンスターを倒すと成長します。

わたし、まだそんなにたくさんは倒せていないので、まだまだ弱いです」


「それはある意味正解だ。モンスターの討伐量ニアイコール成長だ」


 せりかはほっとした顔をする。


「スキルについては、どうやって身につけたり成長できるか理解しているか?」


「はい。もともと持っているか、ダンジョンで何度も身につけたい方法でモンスターを倒すことです」


「それはやや間違っている」


「え?」


「スキルとモンスターは、全く関係なかったんだ。

これは最近開催されたシンポジウムでも公開されている」


「みんなシラーっとしてたけどね」


「やかましい」


 せりかは戸惑っている。


 やはり常識が間違っているのだな。

 ダンジョンの機構に少なからず関わるせりかでさえこれだ。


「大切なのは回数だけなんだよ。

そこで確認だが、せりかの武器は何だ?

厳密には何を鍛えたい?」


「わたしは刀を成長させたいんです。

昔から父の趣味で鍛えられていて、ひびきさんには危ないって言われているんですが、これを活かしたいって思ってます。

でも下手に刀でモンスターを斬ると、折れてしまいそうで、多く戦えていないんです」


「それは立派だ。こだわりがあるのはいいな。


繰り返しになるが、大事なのは数だ。

その刀を振り続けるだけで技は冴えていく。

今日はその辺りも強化しよう」


「本当ですか!すごい!

梶さんも刀を使えるんですか?」


「いや、俺は格闘だけだ」


「じゃあ、のどかさんですか?」


「あたしは魔法か棒だね。

まあ、騙されたと思って言われた通りにしなさいな。

かわいそうだけど」


 かわいそうは余計だ。


 俺はまずピンポン玉を取り出す。

 のどかは遠い目をした。


「まあ、ウォーミングアップからいこう。

俺がこのピンポン玉を投げるから、その刀で切り裂くことをイメージしながら両断してみて。


ほい、いくよ」


 せりかは慌てて刀で切り上げようとする。

 俺は割と速く投げる。


 ぱこーん。


 額に当たった。


「いたーい!」


 せりかは半泣きになる。


「世界一の探索者の投擲だからな。

簡単には斬れまい。わっはっは」


 まあ、一発目はこうと決まっている。


「さあ、どんどんいくぞー」


 俺は次々と緩めに投げていく。


 最初はパチンパチンと刀で弾く音が続く。


 リズムが掴めてくると、刀でピンポン玉が傷ついていく。


「いいじゃん」


「は、はい」


 どんどん投げる。


 弾かれた玉はのどかが拾い、俺に届ける。


 やがて無事な玉が尽きる。

 ゴミ袋にかけらを入れていく。


「次の段階へ移る。

ピンポン玉は終わったので、たくさん切ってもらいたい。

用意したのは、このティッシュだ」


「ティ、ティッシュですか」


「例の如く俺が投げていくので頑張って切るんだ。

束で行くので、できれば全部切るんだ。


いくぞっ」


 口では勢いよく言うが、ふわっと投げる。


 たくさん束があるので、どんどん投げる。

 のどかも混ざり、投げていく。


 そのうちザクザク切れていく。


 いい感じだ。


 俺も調子に乗って、落ちたティッシュを拾っては投げていた。


 キレが尋常ではないレベルへ上がっていく。


 ティッシュは細かくなる。


 せりかの近くに落ちていたティッシュはまだ大きかったので、拾って投げた。


 ガーン、と何か硬いものを叩いた音がした。


 せりかの刀が俺の腕を斬りつけたのだ。


「いってぇー!」


「す、すいません!

ああ、どうしよう!」


 調子に乗って間合いに入ってしまった。


 これほどの強打を受けたのは久しぶりだ。


「バカねー」


「ふーふー」


 切られた腕にふーふーする。


 服は切れている。


「すまん、せりか」


 俺は刀を指差す。


「か、欠けてる!?えー!


モンスターも斬れる刀をって言って、お父さんが持たせてくれた、頑丈さが売りの刀が・・・」


 初日から破損させてしまった。


「安心しろ。明日からのブートキャンプで使える刀は用意する。

とりあえず今日はそのまま使ってろ」


「梶さんは大丈夫なんですか?」


「ああ。雰囲気的に声が出たが、怪我はしていない」


「ぷっ。鉄よりも硬い男。

いろいろ心配になるわ、逆に」


「安心しろ。お前も大して変わらんから。

一連托生だ」


「仲いいんですね。いいなあ」


 そう言うなら、いくらでも仲良くしてやろう。


「もう面倒くさいから、本番へ移行しよう」


「結局我慢できないという」


 俺は散らばったティッシュをそのままに、大量のBB弾を取り出す。


「せりか。これからBB弾を投げるので、斬れるか挑戦してくれ。

斬れなくて体に当たるのは仕方がないが、できるだけ避けるんだ。いいな?」


「は、はい!」


 俺はBB弾を手掴みで投げる。


 最初なのでゆっくりだ。


 せりかはできるだけ斬ろうと刀を振る。


 刃にかかるものもあるが、弾き返されるものも多い。

 体にもたくさん当たる。


 俺はどんどん繰り返す。


 せりかの刀の振りはますますキレていく。


 徐々にBB弾をかわすこともできるようになっていた。


 俺はいつものようにコップで掬い、まとめてぶつけていく。


「くっ!」


 せりかはどんどん飛んでくるBB弾を見切っていく。


 このままでは物理耐性が伸び切らないので、のどかと目線を交わす。


 のどかもニヤリとし、左右からBB弾を浴びせ始める。


 BB弾を二万個投げ切る。


「どんな感じだ?」


「えっと、えっと、ものすごくよく斬れるのと、BB弾がよく見えます。

避けられるくらいです。


これ多分、途中からBB弾が当たっても弾き返す感じがするので、物理耐性っぽい感じがします。


あと、なんでかフットワークというか、姿勢制御が上手にできるというか・・・なんで・・・」


「これが、イリュージョンです」


「それだと消えちゃうでしょ」


 ⸻


 今回のリザルト


 せりか


『刀術』『斬撃』『打撃』『切断』『見切り』『物理耐性』『ステップ』『踏みつけ』


 積み重なるティッシュを一気にまとめて踏み込むことで、効率的に『踏みつけ』スキルが上がることは言うまでもない。


 最後はいつもBB弾頼みという切ないところだ。

 とはいえ、新たなるイノベーションを求めた結果、奇をてらいすぎて何がしたいのか分からなくなってきたことも言うまでもない。

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