第二十話
ある日ダンジョンができた。
今日は久しぶりに練馬ダンジョンに来ていた。
相変わらず大量のアリが押し寄せてくる。
時間の許す限り叩きつぶし、魔石を回収していく。
ストレス解消にはもってこいだ。
大量の魔石をカバンに詰め、ダンジョンセンターへ戻った。
練馬ダンジョンセンターは、プレハブの景品交換所から、二階建てのしっかりとしたプレハブへと変わっていた。
一階にはロビーと受付カウンターが広いスペースで用意されている。
ロビーには四人掛けのテーブルと椅子が並んでいるが、誰もいない。
誰用だ?
もちろん入り口は引き戸だ。
俺はカウンターへ行き、名前も知らないお姉さまに魔石を受け渡す。
手続きは変わらない。
広くなっただけだ。
「梶さん、お疲れ様です。久しぶりですね。
おかげでこちらも広くなりました」
「いえいえ、お疲れ様です・・・」
果たして本当にお礼なのか皮肉なのか、少し判断に迷い、返事が曖昧になってしまった。
「梶さんがぶっ壊してくれて、そのうえ再建費も全額負担してくれたので、みんな感謝してます。
お休みもたっぷり貰えたので、みんなやる気が出ました。
ただ・・・練馬は探索者には相変わらず不人気です」
「あはは」
やはり俺が壊したらしい。
アメリカミッションの報酬の使い道が、このプレハブ・・・。
もう少し他になかったのか・・・。
しかし全然覚えていないぞ。
「かじさーん」
奥からかおりちゃんが出てきた。
「あれ、いたの?」
「こっちのセリフよ。あれから全然来ないんだから」
「うーん、記憶が曖昧なもんで、俺もよくわからん」
「ちゃんとのどかさんとは仲良くしてるの?」
「ん? まあ、こないだも普通にダンジョンへ行ったぞ」
「そう。それならいいんだけど。ごめんなさい、梶さん。
お帰りのところ悪いんだけど、また相談があって」
「海外案件か?のどかはパスポート取ったんだっけ」
「国内だから大丈夫。ちょっと奥で話せる?」
「奥か表か知らんが、ここでも誰もいないし、誰も来ないだろ」
「・・・」
なぜかツノとキバが見える気がした。
「あ、はい。行きましょう、行きましょう」
かおりちゃんに案内され、奥のドアを抜けると応接スペースがあった。
応接スペースの横にはPCが大型モニターと接続されてセッティングされている。
WEBミーティングが開かれており、画面の向こう側には何人かいるようだ。
「会議中か。お邪魔でしたら・・・」
ドアがガンと閉まる。
「いやねぇ、ちょうどいいところに梶さんが来たから、受付に呼んで貰ったのよ。
梶さんにちょうど用事があるというか、できたというか」
一般人にしては強い力で腕を掴まれる。
そのままグイグイとソファーへ案内された。
「みなさん、お待たせしました。紹介します。
インクレディブルスターの梶さんです」
「その肩書きいるか?」
次にまたやったら、基礎ごと破壊してやる。
『初めまして、神崎せりかです。
カテゴリー的には、ダンジョンアイドルをやらせてもらっています』
まだ十代だろうか。
かわいらしい雰囲気の美少女だ。
「こんばんは。初めまして。インクレディブルスターの梶です」
「自分で言うのね」
『ふふっ。気難しい方って聞いていたんですけど、面白いんですね』
「誰が悪口を言ったか知りませんが、俺は至ってフラットですよ」
かおりちゃんを見据えながら答える。
『横から失礼します。私はマネージャーの橋本ひびきと申します。
初めまして。よろしくお願いします』
こちらは神崎せりかが霞むほどの美女だった。
この組み合わせで大丈夫なのか?
というか、どこかで見たことがあるぞ。
「初めまして。もし違ったら失礼ですが、橋本さんは映画などに出演されていませんか?」
『はい。恥ずかしながら、女優業も兼業しております。
ただ、演じるのも素敵なんですが、まだ世に出ていない子や、これからの子たちを世に送り出すことの方がやりがいがあるんです』
「そうなんですね。
俺も自分で探索するより、後続を鍛える方が向いていると思うことがあります。
素敵な考え方です」
「なんか、むしろ自分を褒めてない?
あと、美女に弱すぎない?まあ、ちょうどいいわ。
そんな後輩を優しく育てるのが得意な梶さんに、ちょうどピッタリの依頼があるの」
まんまと罠にはまったようだ。
女性は怖いな。
「内容次第だな」
『ひびきさん、わたしが説明していい?』
『どうぞ』
『梶さん、わたしダンジョンアイドルとして、歌やダンスも伸ばしたいし、ひびきさんみたいに素敵なオーラがある女優にもなりたいんです。
畑違いかもしれませんが、梶さんは新人を短期間で第一線で活躍する探索者に育て上げたと聞いて、もうこれしかないって思ったんです。
探索者としてもアイドルとしても、まだまだ未熟です。
でもチャンスだと思って、ひびきさんにダメ元でお願いしてみたんです。
そうしたら、ひびきさんが三枝さんをご存じで・・・』
そういえば、あのあすかの母親は歌手だったな。
芸能関係のつながりも太いのだろう。
ここのドンは。
「あすかくんに続いて、かわいい子で申し訳ないんだけど、お願いできない?」
「かわいくて申し訳ないってなんだ?また男か?」
「違うの。あなたの周りの女の子たちが嫉妬しちゃうじゃない」
「そんなことあるか?」
「・・・ここを更地にしておいて、よくそんなこと言えるわね」
「悪いけど、その辺あんまり記憶ないんだよ。
むしろ誰もちゃんと教えてくれないというか」
かおりちゃんは少し遠くを見ながら、
「・・・なんて都合のいい・・・」
と呟いている。
「そう言うなら、最初からのどかを呼んでくれ。
悪いのはかおりちゃんであることも、しっかり言っといてくれよ」
「ああ、受けてくれるのね。ありがとう。
のどかちゃんには先に言ってあるわ」
俺はその根回しに対して腑に落ちない思いがした。
だが、まあいいだろう。
「神崎さん。依頼は受けたいが、タイミングや期間、それにどうなりたいのか。
今の計画を教えてください」
『スケジュールは私から』
ひびきが引き取る。
『来週一週間、スケジュールは調整しております。
平日は十九時から、念のため土日は終日です。
梶さんのご予定もあるでしょうから、この期間で動けそうなタイミングをご指定ください』
「なるほど。スケジュールはパートナーに確認して回答します。
どうなりたいかの部分は?できれば具体的に聞きたい」
せりかは少し考えながら話し出す。
『わたしはまず探索者として、オリジナリティのある強さを持ちたいです。
ただ、具体的にはまだ決まっていないんです。
すみません。
あと、できれば歌が上達したいです』
若者らしい真っ直ぐさと真摯さを感じる。
大人だとこうはいかない。
「俺のブートキャンプは、アメリカのトップ探索者や、日本の自衛隊のエースも泣きべそをかいて逃げ出そうとするレベルだ。
それでもチャレンジするか?」
『は、はい!わたし、頑張ります!』
大人はやる気のある若者に弱いものだ。
つい微笑んでしまう。
「ふふ。まあ、こういうわかりやすいことをするために、俺は探索者をやっている面もある。
せりか、期待してもらっていい。
常識を超えていこう」
『はい!』
⸻
今回のリザルト
芸能関係のお知り合い
練馬ダンジョンセンターの建て替え
のどかに確認はしたが、来週まるまるせりかの育成に充てることにしたのは言うまでもない。
超特急で研究所に育成アイテムの発注をしたことも言うまでもない。




