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第十八話

 ある日ダンジョンができた。


 俺は新しい検証を思いついた。


 危険なスキルだが、仲間内で急激に伸ばせる可能性がある。


 適正人数は四人程度だろうと判断していた。


 リスクもあるかもしれない。


 得るのか、失うのか。恐怖のスキルだ。


 だが、直感的にはうまくいく予感がしていた。


 今日はその検証のため、のどか、アッキー、ユッキーをダンジョンに招集した。


 こいつらなら、何か悪いことが起きても「ごめん」で済むだろう。


 ダンジョンは豊洲だが、その前に例のスタートアップへ立ち寄る。


 幸い、極東高分子研究所は新木場にあり、豊洲へのアクセスも抜群だった。


 駅から少し離れた場所にあり、小規模な工場や倉庫が並ぶ一角に建っている。


 俺のイチオシということもあり、みんな素直についてきた。


 入り口には『極東高分子研究所』と小さな看板が出ている。


 その下には東ポリマー工業と書かれていた。


 どうやら本体はそちららしい。


「雰囲気ありますね」


「独特な味ね。まずいと言わない食レポみたい」


「のんちゃん・・・」


 俺はそれを横目に引き戸を開けた。


「こんちはー」


「あっ、いらっしゃいませ!」


 牧青年が迎えてくれる。


「本当に来てくれたんですね。社長なんて朝から仕事になってないんですよ」


 奥へ案内される。


「す、すごい・・・勢ぞろいだ。ダメだ・・・」


 応接室のソファーで、かなたがぷるぷると震えていた。


「勢ぞろいってなんだよ」


「巣鴨のアベンジャーズじゃないですか」


「おいおい。団子屋とか土産物屋とか定食屋の店主の集まりみたいだろ。変な呼び方するな」


「巣鴨って付くと急に高齢化して聞こえますね。巣鴨のインフルエンサーとか」


「ほ、ほんと。なんか変な子が現れたね」


「いやいや、世界のインクレディブルスターの梶さんに、閃光の聖女、爆炎の乙女、城壁のみなさんですよ? すごいじゃないですか」


「なんで俺だけ横文字なんだよ」


「あたしも恥ずかしいから言わないで」


「ほ、ほんと。やめて。せめて本人の前では言わないで」


「・・・」


「ユッキー、お前ちょっと気に入ってるな。よっ、城壁」


 つい嫉妬から絡んでしまう。


「やめてください。俺だって恥ずかしいですよ。でも日本語でよかったなとは思います」


「・・・」


 しかし、とんでもない空間に引っ張り込みやがったな、こいつ。


 もう俺の中では、極東高分子研究所は子分扱いで決定である。


「おい、どうでもいいから早く商品を出せ」


「ヤクザみたいね」


 牧は慌ててバックヤードへ向かい、注文した商品を持ってきた。


「塗装も頑張りました」


 そう言って並べられたのは、『トランプ』『サイコロ』『コイン』、そして『黒いナイフ』と、ハリー○ッターのような『黒い杖』だった。


「おお、いいね」


「怖くなってきました」


「や、やばそう」


「また変なのを・・・」


「牧、お前いい仕事するな。いくらだ」


 牧が電卓を叩く。


「一般向けに製品化したら金額は変わると思いますが、原価と作業費を勘案して、だいたい三百万です」


「ありがとう。はい」


「現金なんですね。ありがとうございます」


「研究費で困ったりしてないか?」


「大丈夫です。割と売れてるんですよ。好事家向けの受注販売ですから」


 俺は牧に近づき、かなたを指差した。


「あいつの趣味じゃないのか?」


「えーと・・・ディフォルメしてますし、正式名称も使ってませんから。肖像権的には大丈夫だと思ってます。同人的な、仲間内のノリというか・・・」


「そーかそーか。まあ悪いようにはしないから見せてみろよ」


 そして俺は大声で呼ぶ。


「おい、かなた!のどかがお前の作品を見てみたいって!」


 かなたが勢いよく立ち上がった。


「ほんとですかっ!やったー!」


 ピューッと奥へ消え、巨大な箱を抱えて戻ってくる。


「見てください!これなんか着衣バージョンです!」


「しゃ、社長!わ、罠です!終わった・・・」


 不穏な言葉のあと、かなたが見せてきたのは、魔石で作られたフィギュアだった。


 なんとも見事な造形である。


 幸いだったのは、それが魔法を放つ瞬間を切り取ったような作品だったことだ。


 髪とローブが風にはためき、躍動感に満ちたのどかの姿だった。


 もし俺のフィギュアが出てきていたら、看板を『元・極東高分子研究所』に変えなければならないところだった。


「の、のんちゃん。ジャッジを。というか、みなさんのもあるんだけど・・・」


「うーん。趣味だからなぁ」


 意外にも、のどかは寛容だった。


「よかったぁ~。こっちは爆炎の乙女・半裸バージョンです!怒りのあまり炎で敵を焼き尽くし、自分の衣装も少し燃えてしまい、危ないところは隠しているものの羞恥心が隠しきれない爆炎の乙女です!」


「こ、これは・・・」


「全部言っちゃってるじゃん」


 部屋の温度が上がり始めた。


「し、焼却しないと」


「わあ、わあ!ダメダメ!あかりちゃん落ち着いて! 新木場が炎上しちゃう!」


 ユッキーが慌ててなだめに入る。


 大きな手でアッキーの両肩を押さえた。


「ふぁっ!ふぁいー・・・」


 アッキーの意識が完全に逸れた。


 ナイスだユッキー。


「牧、なんとかお前んとこのこいつをコントロールしろ。この辺りが地図から消えるぞ。俺たちは巣鴨のアベンジャーズなんだからな」


「あんた、気に入ってるじゃん」


 のどかが笑いながら箱の中を探る。


「あ、それは梶様の脱衣バージョンです! 大人気です!」


「うわっ、ばっちぃ」


 のどかが反射的に投げつけた。


 投擲スキルが発動し、とんでもない速度で壁へ激突する。


 おいおい、俺が痛そうだろう。


 だが驚くべきことに、壁にぶつかったフィギュアは壁に突き刺さった。


「な、俺が硬い」


「梶様のアドバイスを受けて、高密度・高硬度で魔石を加工してみました!」


「なんて無駄に高い技術力・・・。さっきのナイフとか絶対やばいですよね」


 俺はここが引き際だと悟った。


 買った物をカバンへしまいながら言う。


「まあ、俺たちは引き上げるよ。これからダンジョンで検証するからな」


「フィギュアは絶対に公認しない。公開もするなよ。この辺り一帯が本当に焼け野原になるからな」


「別にお前が怖いわけじゃないからな」


 話の通じないぶっ飛んだ相手と話しても無駄である。


 まさか俺が逃げ出す日が来るとは・・・。


「この研究所、ある意味最強の称号を手にしたわね」


「か、梶さんがしっぽを巻いて逃げていく・・・」


 ⸻


 今回のリザルト


 魔石グッズ

 天敵


 かなたの視線が、ちらりとユッキーへ向いていた。


 危険は「そこ」にあった。それは言うまでもない。


 あの箱の奥には・・・。


 でかい男の危険なバージョンが存在していたに違いない。それもまた、言うまでもない。

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