第十五話
第十五話
前回のあらすじ
迫り来るダンジョンからのモンスターに対し、ユッキーは爆薬を抱えて特攻し、爆散した。
君のことは忘れない。
「いきなりなんなんすか。爆散って、こわー。
テーブル届きましたよ」
「梶さんのオーダーなので、高級なマホガニー一枚板のダイニングテーブルを用意しました。
それもなんと三台。
中古の良い店が開いていましたので、だいたい百五十万円くらいです。
お買い上げありがとうございました、とのことです」
ニト○で買えよ!
「ああ、ありがとう」
「あと高級樽を三つ取り寄せました。さすが巣鴨です」
俺はただ、さゆりを睨みつけた。
「怒っちゃや」
「まあいい。まずは一発目いこう。
ユッキーが樽の底をスライムに押し付け、空間を作ってくれ。
アッキーはそこにできた空間に、ちょっとだけ手を入れて爆炎。樽ごと吹っ飛ばせ。
爆炎を放ったら、火傷する前にすぐ手を引けよ」
「了解」
「が、頑張ります」
ユッキーは樽を持ち、押し込み始める。
「こ、これはきつい。重い。梶さん、ヘルプ」
「む、そうか。尖っている方がよかったな。
何がよかったのか。三角屋根か?」
俺も全力で押していく。
ギシギシと樽が壊れそうだ。
あまり時間がない。
「アッキー、素早くいけ。ユッキー、指の端ですら中に入れるなよ。マジでヤベーから」
「わ、わたし今から入れるんですけどー」
アッキーは半泣きになっている。
「命のためだ。根性決めろ」
「や、やったらぁー!」
アッキーは指先をちょっと入れて、集中する。
「ば、爆炎だぁ!!死ね!!」
樽を吹き飛ばしながら、ダンジョンの向こう側が爆炎により燃え上がる。
「お、思ったよりいいぞ。
ユッキー、このテーブルを構えてろ」
「了解」
おそらく、ダンジョンの境界とスライムの間が高熱であぶられ、接しているスライムが蒸発していっているはずだ。
得られるスペースを確保したい。
試しにボールペンを刺すと、境界を越えたところから熱で溶けていく。
ありゃ、もうちょいかかるかな。
スライムの表面もぐつぐつしている。
「思うに、魔法やモンスターではない物は、この境界を越えるように思う。
なぜなら、割り箸の燃えかすがこっち側に落ちているからだ。
おそらく爆弾を爆発させると、爆風はこっちまで来る。
ダンジョン内で完結してくれないように思う。
だから爆薬で爆散はなしだ」
「当たり前です。俺を殺す前提の作戦はなしっすよ」
「さゆり、ダンジョン特戦隊の指示はないのか?」
「今の話でなくなりました。銃弾が効かなかったので、爆発物を投げ入れるか検討してました」
「これ、どれくらいの大きさと推測している?」
「おそらく、第一層の半分くらいと見ています。
スライムの特性上、いくらかの透明度がありますが、奥が見えないんです。距離が測れないというか」
その時、まるでビターンと音がするかのように、境目ぎりぎりまでスライムが戻った。
「何分だ?」
「約三分です」
アッキーが応える。
「爆炎は一応効果ありで、三分押せる。
そこにテーブルを入れても燃え尽きてしまう。
俺たちの手でも同じだ。
耐性があっても危険だな」
「太いパイプとかどうですか?スライムとこっちをつなぎ、パイプの中だけ何かしらの方法で冷やすんです。
そのパイプの中は空間ができます」
アッキーがまた閃いた。
やるな、この子は。
「あかりさん、いいアイデアですね。パイプか。
どこかにありますか?」
ユッキーがさゆりに聞く。
「パイプ」
さゆりは腕を組んだ。
「何かパイプになる物はあるかしら。あと、冷やす物」
さゆりは横に待機していた自衛隊員に聞いてみた。
「その樽の底を抜くのはどうでしょうか?」
「樽だと燃えてしまう」
「いや、待て」
俺はその隊員とさゆりの会話で閃いた。
「樽を濡らすか、耐熱性のある何かで覆えないか?」
「それでは、内側から放水するのはどうでしょうか。
水ならこちら側から届くと思います」
「放水方法はありそうか?」
「はい。消防も詰めています」
「オーケー。放水されて跳ね返る水は、おそらく熱湯か蒸気だ。十分距離を置いて放水してほしい」
そうして、第二回の樽アタックの方針が決まった。
消防も含め、スタンバイする。
さながらゴ○ラと戦っているかのようだ。
似たようなものか。
段取りとしては、まずはまた樽で爆炎。
すぐに底を抜いた樽を突っ込み、放水して燃えないようにする。
俺はその一瞬にかけることにした。
ユッキーに、樽アタックのすぐあと一つお願いをした。
「ユッキー、樽を頼む」
「はい!」
また樽を押し込む。
俺も手伝う。
「アッキー」
「はい、死に晒せ!爆炎!!」
また大爆発が起こる。
過激だ。
やがて火が消えた。
「次」
放水に合わせ、ユッキーと俺で樽を左右から支える。
案の定、蒸気が全体から上がる。
俺は、蒸気と蒸気の間、樽の中で直接スライムに攻撃できる、ごくわずかな隙間を見つけた。
「これ熱いっす!」
「根性ー!!」
俺は樽を押さえる手と反対の手に握った物を叩きつけた。
樽のトンネルを中心に、スライムが弾ける。
「うおおおお!」
俺は雄叫びを上げ、さらに白い塊を全力で投げつける。
当然、腕はダンジョンに入るが、もう燃えるほどの熱さではない。
白い塊の着弾とともに、爆炎より強大な波動が起こる。
ユッキーはテーブルを両手に持ち、消防士と自衛隊員たちの盾となるように動く。
物理的な衝撃も起こっていた。
「うぅっ!」
ユッキーからうめきが漏れた。
だが、後ろには衝撃を逸らしていない。
俺はダンジョンに踏み込み、白い塊をさらに投げていく。
ベクトルは奥に向かい、スライムが弾けていく。
「アッキー、さゆり、お前らも投げながら進め!もう熱気はない!」
二人に、かわいい写真がプリントされた袋を渡す。
「ね、猫砂」
「新品だ。大丈夫!」
「き、気が抜ける」
「急に次元が、梶次元に・・・。てーい」
二人も猫砂を投擲していく。
攻撃回数は、もはや万単位だ。
スライムが一方的に弾けていく。
「こ、これ、わ、わたしの投擲があらゆるスキルレベルを越えていく・・・」
やがてユッキーも追いついてくる。
「お前にはこれだ」
「あ、粗塩。これ、樽の時に投げてたやつっすね」
「そうだ。燃えにくかろう。
いいからお前もそれで敵を打て!」
「かっこよくない」
それでも俺よりはマシだろう。
だが、俺の選んだ獲物の方が凶悪だ。
そう、小麦粉だ。
最も粒が細かい。
数も多い。
スライムは爆発していく。
俺たちは面で押していく。
通路を進む。
おそらく投擲レベルの上昇は天井まで来ている。
「なんかやだ、なんかやだ!」
さゆりが文句を言っている。
「俺は剣士、俺は剣士」
「か、梶さん、爆炎いい?」
「バカたれ。粉塵爆発で全滅するわ」
「えーん」
もういつもの探索になっていく。
このスライム、終わりはあるのか。
多分、真ん中は越えたはずだ。
猫砂、粗塩、小麦粉はよく効いた。
だが、限界もある。
「梶さん、次は?」
「おいおい、俺のポッケはもう限界だぞ。
まあ最後に、君らにはこれをやろう」
そう言って、ユッキーには麺棒、さゆりには爪楊枝の束、アッキーにはポッキ○を渡す。
「わ、わたし、お菓子なんだけど。
攻撃力なくないかな」
「突っつけ。俺の小麦粉と成分は同じだ。
チョコの分、カロリーが強い」
「えーん」
直接触ると溶けるので、非金属の武器で戦う。
「これは剣、これは剣」
「刺突アップ、刺突アップ」
「えー、なんだろ、なんだろ。
お菓子?
お菓子スキル?」
アッキーは壊れだした。
それぞれの武器はポップだが、スライムに当たるたび、爆発している。
俺もついに小麦粉が切れた。
俺は次にプラスチックのパックを出し、中をほじって投げつける。
それはスライムに当たっても爆発しなかった。
むしろ浸透していく。
「な、なんすか? それ。
茶色いんですけど」
「味噌だ。同じ菌同士、戦っているようだ。
ちょっと汚れて嫌だな」
「み、味噌」
味噌をぶつけ切った。
なぜかスライムが引いていく。
「攻撃を止めるな!」
「攻撃っつうか、もはや料理なのでは」
「わ、わたしはちゃんと刺突スキルが伸びてるもん」
「ずるい、えーん」
俺は手持ちの調味料をすべて使い切ってしまった。
スーパーで購入したあれこれはもうない。
スライムはもう、通路を完全には塞いでいなかった。
天井付近に隙間ができてきている。
「ユッキー、俺は天井沿いを抜けて、向こうに行ってみたい。ここを任せる。叩き続けてくれ。
もしヤバいと思ったら、アッキーに爆炎を撃たせてくれ」
「分かりました。でも、どうやって越えるんですか?」
数回くらいは、蹴りでスライムを弾けそうだ。
「大丈夫。飛び越せそうな気がする。
しつこいが、光になるまで止めるなよ。
行ってくる!」
「気を付けて!」
さゆりが敬礼している。
俺は飛び上がり、二、三度スライムの上を蹴り付けて進む。
スライムが蹴りで弾かれ、俺の通る隙間が広がる。
一気に飛び越えられた。
スライムの奥側に転がり込む。
「のどか!」
俺は叫ぶ。
「おい、のどか!いないのか!」
俺はスライムを越えた先を走り回る。
十字路になっている道の脇に、しゃがみ込んだのどかを見つけた。
金髪は少し短くなってしまっているかもしれない。
俯いていて、安否は分からない。
俺はのどかに駆け寄った。
静かに手を取る。
目を閉じているが息をしており、手は冷たいが鼓動を感じる。
頬や服は土埃で汚れている。
手足に怪我は見当たらない。
「のどか、大丈夫か?」
返事はない。
肩を抱き、静かに声をかける。
「おい、のどか」
「んっ・・・」
うっすらと目が開く。
「かじ?」
「ああ」
「梶!」
綺麗な顔が、涙とともにくしゃくしゃになる。
俺に抱きつき、泣き続ける。
「おい、頑張ったな」
「うん・・・。もうダメだと思った。
魔法も撃ちすぎて動けなくなってさ」
「ああ」
「やっぱり来てくれたのね」
「ああ。呼んでたろ」
「うん」
「一人だけでなんとかしようとするなよ。
心配になるだろ」
「でも、梶はずっとはいないじゃん」
「まあな」
そっけなく答えてしまった。
だが、逆に強く抱きしめてしまった。
「ん」
のどかが声を漏らした。
「すまん」
「バカ」
時間は十二時を回ってしまった。
まもなく、スライムも倒せるだろう。
「大変な日だったな。もう大丈夫だ」
「うん」
「俺は、お前がいないとダメらしい。
お前が大切なんだ」
「な、何よ。あたしが好きってこと?」
「そうだ。お前が好きってことだ」
「バカ」
「ああ」
二人は見つめ合い、距離が近付く。
その時、轟音とともに小さくなったスライムが落ちてきた。
「かじさーーん、そっち行ったー!!」
ユッキーの叫びが聞こえる。
のどかがスライムを睨みつける。
「もう、いーかげんに、してーー!!!」
のどかから雷光が迸り、スライムを焼き尽くす。
ついにスライムが光の渦となって消えていく。
俺たちの体を、初めて体験する灼熱感が襲う。
「うわっ」
「えっ」
「熱い」
俺たちは世界で初めて、ダンジョンの主を倒したのかもしれない。
ダンジョンが振動を開始している。
俺は雷を見て、むしろフラッシュバックに襲われた。
「おい、のどか」
「な、何よ」
「お前が練馬の事務所をぶっ壊したんだな。
今思い出したぞ。
アメリカミッションのすげー報酬、なんでか取りやめになったっていうし、俺も記憶が曖昧な時があったから、なんでかなーと思ってたんだ。
電撃で俺も事務所も吹っ飛んだから、記憶が飛んでんじゃねーか。
お前、それで連絡してこなかったな?」
アメリカから帰った俺は、練馬ダンジョンセンターであすかに久々に会い、浮かれすぎてのどかの逆鱗に触れてしまったようだ。
「・・・ごめんね」
上目遣いに謝ってきた。
「はあ、疲れた。もう、分かったよ」
俺はのどかを抱き上げた。
「帰ろーぜ」
「うん。ありがとう」
「あ、すまん。ちょっと汚れた」
「どうしたの?ケガ?」
「いや、味噌」
「ん?味噌?
味噌?」
ポッキーやユッキーも、そう思うよね、呆れるよね、という顔をしていた。
「アッキーでしょ」
さゆりが突っ込んだ。
⸻
今回のリザルト
共通
「投擲(限界)」「全般的能力向上」
アッキーアンドユッキー
「棒」「打撃アップ」
さゆり
「針」「刺突」「貫通」
俺たちはまもなく脱出した。
全員が外に出た瞬間、ダンジョンは消えてしまった。
今回の出来事が何を示しているのか、今の俺たちには正しく理解できなかったのは言うまでもない。
もちろんアッキーが、ポ○キーを嫌いになったのも言うまでもない。




