表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/42

第十二話

 ある日ダンジョンができた。


 そして、そのダンジョンの謎に挑む日が来た。


 ソルトレイクシティ近郊のプロボダンジョンに、俺たちは到着した。


 ここは囲いこそあるものの、ダンジョンアタックがされている様子はない。


 ダンジョンができた当初から、定期的に州兵が警戒に来る程度だという。


 ダンジョン自体、この近郊の人々には忌避感を持たれていた。


 今回はここの最下層へ向かい、ともすれば攻略する可能性がある。


 もし消滅しても問題ないことが選定要件だったので、まさにおあつらえ向きだ。


『昨日はエヴァが世話になった。

本当に超人が生まれてしまったようだ。


今日のミッションを三人でこなすことに、もはや疑念はない。よろしく頼む』


 リーブス中佐が笑顔とともに語りだす。


『驚きの星とはよく言ったものだ』


 そうだった。なんだそれ。怖いネーミングだ。どこまで知られているのか。


 ブルックス少佐がプロボダンジョンについて説明し始める。


『プロボダンジョンは、グリズリータイプのモンスターがいるダンジョンだ。数は少ないかもしれないが、凶悪だ。気をつけて欲しい』


 NBAとかダンジョンも見ているのか?


 確かマスコットキャラクターだったはずだ。


 ユタ州だから、むしろケン○デリカットって感じだが・・・。


 さゆりとエヴァの装備を確認する。


 指示通り、荷物は最低限にしてあり、音が出ないようきちんと固定されている。


 俺はもちろん、いつものガントレットとリュックだ。


「準備オーケーだ。ハイキングへ行こうぜ」


『出発します』


 さゆりが言い、リーブス中佐が敬礼で答える。


『ミッションの成功を祈る』


 さゆりとエヴァは答礼する。


 俺は手を上げた。


 そうして三人はアタックを開始した。


「ここからはずっと隠蔽だ。隠蔽は距離に依存する。モンスターにはできるだけ近付かないようにしよう。

もしバレても、倒してしまうと意味がない。

基本は俺が注意を引き、そして再度隠蔽に入る。

隠蔽スキルは爆上がり間違いなしだ。何か質問はあるか?」


『カジは彼女はいるの?』


『いるわ、とんでもない美人よ。これ見て』


『うわ。すごい美人。さすが世界一の探索者ね』


「なんでお前があすかの写真を持ってるんだ?」


「あすか?のどかさんでしょ。あなたと並んで日本のトップ探索者だもの。ネットにいくらでも写真はあるわ」


 そう言ってスマホを見せてくる。


 お前らが二人並んだ自撮りじゃねえか。


「なんだ?知り合いか?」


「いいえ。自衛隊に協力してもらったことがあったの。お願いして写真を撮ってもらった」


「おじさんも撮ってやろうか?」


「ノーサンキュー」


『ちょっと残念かな。ちょっと悪いところあるけど、頼りになるし。終わったらちょっとくらい遊んでいかない?』


「・・・」


「なんで通訳しない?」


「死亡フラグ立つと危ないでしょ」


「オーマイゴッド」


 かくして、俺たちは歩き始めた。


 距離を空けると見失うので、基本一歩以上離れない。念のためロープで俺を先頭につないでおく。


 二人の装備にはカメラが付いている。


 干渉しないよう注意してつなぐ。


 不思議と仲間内への隠蔽効果は薄く、外向けの隠蔽は増幅されているように感じる。


 三人で臨んだのは正解だったかもしれない。


 次々とモンスターをパスしていく。


 餌はいないはずなので、モンスターはやはり生き物ではないように思う。


 では、なんなのだろう。


 俺たち三人は、全員でマッピングしていく。


 もちろん迷わないためだが、同時にスキルアップも狙う。


 隠蔽のおかげで、ただ歩いているだけだ。


 話をするわけにはいかない。


 結果として、黙々とマッピングを続けるのだ。


 二時間ほどそうして歩いただろうか。


 三方が壁になっている場所を見つけたので、ロープを外して休憩する。


 カロリーバーを配る。


 さすがに二人は疲れを感じていたようだ。


 その実在は明確に現代科学では証明されていないが、魔力のような、スキルの元になるエネルギーは存在しており、個人の使用できるエネルギー量には個人差があるというのが定説だ。


 回復方法は謎だが、休憩に勝るものはない。


 飴も配る。


 口に入れると、エヴァは嬉しそうに微笑んだ。


 あすかがいなければ、多少はグラッときたかもしれない。


 それにしても、あすか成分が足りない。


 遠くに来すぎた。


 再び俺たちは歩きだす。


 カメラの位置や状態を確認する。


 ロープも忘れずに結び直した。


 モンスターの種類は相変わらず変わらない。


 これも他のダンジョンと同じ特色だ。


 どうしてこういった設計にしたのか。


 ゴールが近い予感を覚えつつ、ダンジョンの意思に思いを馳せた。


 唐突にエヴァのロープが強く引かれた。


 モンスターに近付きすぎている。


 エヴァは固まっていた。


 クマが首をかしげながら、あと一歩で届く距離まで近付いてきた。


 俺は咄嗟に二人を担ぐと、クマから距離を空けるように跳躍する。


 全力疾走する。


 二人からうめき声が漏れる。


 速度を緩めた。


 だが、警戒しながらも二人を降ろさない。


『ごめんなさい』


 俺はあえて返事をせず、告げる。


「もう間もなくゴールだ。すまないが、このまま行かせてくれ。隠蔽効果も高い」


 再び俺は走りだす。


 間もなく突き当たりに着いた。


 二人を降ろす。


 エヴァとさゆりも左右を警戒する。


 ロープは外さない。


 カメラを確認させる。


 故障はしていないようだ。


 ただ壁があるだけだ。


 岩肌だ。


 ゴツゴツしている以外、何も分からない。


 叩いてみても何も分からない。


 ふと、壁を見ていたさゆりが固まった。


 ロープが引かれる。


 さゆりの目線の高さに小さな割れ目がある。


 さゆりが覗こうとするのを、俺はなぜか止めた。


 深呼吸する。


「エヴァ、テイク・ア・ビデオ」


 エヴァのカメラは高性能なはずだ。


 レンズを割れ目へ向ける。


 モニター側はまだぼんやりしているが、オートフォーカスされていく。


 おそらく数メートル先に、胎児のような、幼虫のようなものが見える。


 わずかに動いているようだ。


 あれはなんだ?


『エイリアン?』


「使徒?」


 アニメは見ないとか言っていなかったか?


 しばらく撮影した。


 おそらくダンジョンの何かを司る存在だと俺は思った。


 これを倒せば、このダンジョンは崩壊するような気もする。


 指弾を放てば一発だろう。


 解決といえば解決だ。


 あともう一歩でクリアだ。いけるはずだ。


 なぜかこのタイミングで、俺は結城の小噺を思い出した。


 結城夫妻の馴れ初めも思い出し、なんとなく冷静さを取り戻した。


 そう、ここは引き時だ。


 俺の雰囲気を見たからか、エヴァがカメラを割れ目から外した。


 レンズが引っかかり、カメラが岩を削った。


 小さな欠片が落ちる。


 俺は咄嗟にその欠片を掴んでしまった。


 かがんだ拍子に、目線が割れ目へ向かうのを止められなかった。


 まさに誘導されたのだ。


 穴の奥の何かと、俺は目が合ってしまう。


 そこに何かの意思の交換はなかった。


 ・・・と思う。


 ただ、俺は気付かれたと悟った。


 そこにはダンジョンの好奇心を感じた。


 彼らの設計を裏切り、モンスターをろくに倒しもせず、そこに現れた現地人。


 俺でも不思議に思うだろう。


 それは一瞬だった。


 だが確実に、何かの意思を感じたのだ。


 俺は、彼女たちが見られてはまずいと思った。


「帰るぞ」


「え?」


「ここからはもう特急で帰る。走るぞ」


「おんぶ」


『だっこ』


 かくして俺は、二人とも担いで走り出した。


 途中から二人は上手にバランスを取り、流れる景色を眺めていた。


 何かを話してさえいた。


 一度クマの脇を抜けた。


 俺の方をちらりと見た気がした。


 こいつらは個別意識ではなく、集合意識なのではないか。


 そんな恐怖も感じた。


 ともかく、俺は全力で逃げ帰った。


 行きのだいたい四分の一の時間で入口へ戻ってきた。


 おそらく三十キロもなかったように思う。


 俺は疲れ切り、出口を出ると倒れ込んだ。


 チームアメリカのキーン軍曹が俺たちに気付き、駆けつけた。


 大声で周囲に指示を出す。


『大丈夫か? 途中で何かあったのか?』


「疲れただけだ・・・」


『テイラー、大丈夫。カジはずっと走ってきただけ』


『そうか。ならよかった。でも、なんで走って帰る必要があった?』


『ダンジョンの最奥に着いた。そこでダンジョンの種? を見た。


カジはこちらから観察した分、ダンジョンからも見られている、と感じたようよ。


詳しくは録画を検証して欲しい』


 レイチェルがカメラを回収する。


 さゆりの分も引き渡す。


「ちょっと休むよ」


 俺は目を閉じた。


「はい、ありがとう」


 頭を誰かがさらりと撫でた。


 ⸻

 

 今回のリザルト


「マッピング」

「運搬」

「恐慌耐性」

「隠密アップ」


 二人共通

「マッピング」

「風耐性」

「隠密アップ」


 移動中の映像がぐるぐる揺れ、見る者が酔ってしまうほど酷かったことは言うまでもない。


 貨物扱いした二人からネチネチ責められたのも、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ