第十二話
ある日ダンジョンができた。
そして、そのダンジョンの謎に挑む日が来た。
ソルトレイクシティ近郊のプロボダンジョンに、俺たちは到着した。
ここは囲いこそあるものの、ダンジョンアタックがされている様子はない。
ダンジョンができた当初から、定期的に州兵が警戒に来る程度だという。
ダンジョン自体、この近郊の人々には忌避感を持たれていた。
今回はここの最下層へ向かい、ともすれば攻略する可能性がある。
もし消滅しても問題ないことが選定要件だったので、まさにおあつらえ向きだ。
『昨日はエヴァが世話になった。
本当に超人が生まれてしまったようだ。
今日のミッションを三人でこなすことに、もはや疑念はない。よろしく頼む』
リーブス中佐が笑顔とともに語りだす。
『驚きの星とはよく言ったものだ』
そうだった。なんだそれ。怖いネーミングだ。どこまで知られているのか。
ブルックス少佐がプロボダンジョンについて説明し始める。
『プロボダンジョンは、グリズリータイプのモンスターがいるダンジョンだ。数は少ないかもしれないが、凶悪だ。気をつけて欲しい』
NBAとかダンジョンも見ているのか?
確かマスコットキャラクターだったはずだ。
ユタ州だから、むしろケン○デリカットって感じだが・・・。
さゆりとエヴァの装備を確認する。
指示通り、荷物は最低限にしてあり、音が出ないようきちんと固定されている。
俺はもちろん、いつものガントレットとリュックだ。
「準備オーケーだ。ハイキングへ行こうぜ」
『出発します』
さゆりが言い、リーブス中佐が敬礼で答える。
『ミッションの成功を祈る』
さゆりとエヴァは答礼する。
俺は手を上げた。
そうして三人はアタックを開始した。
「ここからはずっと隠蔽だ。隠蔽は距離に依存する。モンスターにはできるだけ近付かないようにしよう。
もしバレても、倒してしまうと意味がない。
基本は俺が注意を引き、そして再度隠蔽に入る。
隠蔽スキルは爆上がり間違いなしだ。何か質問はあるか?」
『カジは彼女はいるの?』
『いるわ、とんでもない美人よ。これ見て』
『うわ。すごい美人。さすが世界一の探索者ね』
「なんでお前があすかの写真を持ってるんだ?」
「あすか?のどかさんでしょ。あなたと並んで日本のトップ探索者だもの。ネットにいくらでも写真はあるわ」
そう言ってスマホを見せてくる。
お前らが二人並んだ自撮りじゃねえか。
「なんだ?知り合いか?」
「いいえ。自衛隊に協力してもらったことがあったの。お願いして写真を撮ってもらった」
「おじさんも撮ってやろうか?」
「ノーサンキュー」
『ちょっと残念かな。ちょっと悪いところあるけど、頼りになるし。終わったらちょっとくらい遊んでいかない?』
「・・・」
「なんで通訳しない?」
「死亡フラグ立つと危ないでしょ」
「オーマイゴッド」
かくして、俺たちは歩き始めた。
距離を空けると見失うので、基本一歩以上離れない。念のためロープで俺を先頭につないでおく。
二人の装備にはカメラが付いている。
干渉しないよう注意してつなぐ。
不思議と仲間内への隠蔽効果は薄く、外向けの隠蔽は増幅されているように感じる。
三人で臨んだのは正解だったかもしれない。
次々とモンスターをパスしていく。
餌はいないはずなので、モンスターはやはり生き物ではないように思う。
では、なんなのだろう。
俺たち三人は、全員でマッピングしていく。
もちろん迷わないためだが、同時にスキルアップも狙う。
隠蔽のおかげで、ただ歩いているだけだ。
話をするわけにはいかない。
結果として、黙々とマッピングを続けるのだ。
二時間ほどそうして歩いただろうか。
三方が壁になっている場所を見つけたので、ロープを外して休憩する。
カロリーバーを配る。
さすがに二人は疲れを感じていたようだ。
その実在は明確に現代科学では証明されていないが、魔力のような、スキルの元になるエネルギーは存在しており、個人の使用できるエネルギー量には個人差があるというのが定説だ。
回復方法は謎だが、休憩に勝るものはない。
飴も配る。
口に入れると、エヴァは嬉しそうに微笑んだ。
あすかがいなければ、多少はグラッときたかもしれない。
それにしても、あすか成分が足りない。
遠くに来すぎた。
再び俺たちは歩きだす。
カメラの位置や状態を確認する。
ロープも忘れずに結び直した。
モンスターの種類は相変わらず変わらない。
これも他のダンジョンと同じ特色だ。
どうしてこういった設計にしたのか。
ゴールが近い予感を覚えつつ、ダンジョンの意思に思いを馳せた。
唐突にエヴァのロープが強く引かれた。
モンスターに近付きすぎている。
エヴァは固まっていた。
クマが首をかしげながら、あと一歩で届く距離まで近付いてきた。
俺は咄嗟に二人を担ぐと、クマから距離を空けるように跳躍する。
全力疾走する。
二人からうめき声が漏れる。
速度を緩めた。
だが、警戒しながらも二人を降ろさない。
『ごめんなさい』
俺はあえて返事をせず、告げる。
「もう間もなくゴールだ。すまないが、このまま行かせてくれ。隠蔽効果も高い」
再び俺は走りだす。
間もなく突き当たりに着いた。
二人を降ろす。
エヴァとさゆりも左右を警戒する。
ロープは外さない。
カメラを確認させる。
故障はしていないようだ。
ただ壁があるだけだ。
岩肌だ。
ゴツゴツしている以外、何も分からない。
叩いてみても何も分からない。
ふと、壁を見ていたさゆりが固まった。
ロープが引かれる。
さゆりの目線の高さに小さな割れ目がある。
さゆりが覗こうとするのを、俺はなぜか止めた。
深呼吸する。
「エヴァ、テイク・ア・ビデオ」
エヴァのカメラは高性能なはずだ。
レンズを割れ目へ向ける。
モニター側はまだぼんやりしているが、オートフォーカスされていく。
おそらく数メートル先に、胎児のような、幼虫のようなものが見える。
わずかに動いているようだ。
あれはなんだ?
『エイリアン?』
「使徒?」
アニメは見ないとか言っていなかったか?
しばらく撮影した。
おそらくダンジョンの何かを司る存在だと俺は思った。
これを倒せば、このダンジョンは崩壊するような気もする。
指弾を放てば一発だろう。
解決といえば解決だ。
あともう一歩でクリアだ。いけるはずだ。
なぜかこのタイミングで、俺は結城の小噺を思い出した。
結城夫妻の馴れ初めも思い出し、なんとなく冷静さを取り戻した。
そう、ここは引き時だ。
俺の雰囲気を見たからか、エヴァがカメラを割れ目から外した。
レンズが引っかかり、カメラが岩を削った。
小さな欠片が落ちる。
俺は咄嗟にその欠片を掴んでしまった。
かがんだ拍子に、目線が割れ目へ向かうのを止められなかった。
まさに誘導されたのだ。
穴の奥の何かと、俺は目が合ってしまう。
そこに何かの意思の交換はなかった。
・・・と思う。
ただ、俺は気付かれたと悟った。
そこにはダンジョンの好奇心を感じた。
彼らの設計を裏切り、モンスターをろくに倒しもせず、そこに現れた現地人。
俺でも不思議に思うだろう。
それは一瞬だった。
だが確実に、何かの意思を感じたのだ。
俺は、彼女たちが見られてはまずいと思った。
「帰るぞ」
「え?」
「ここからはもう特急で帰る。走るぞ」
「おんぶ」
『だっこ』
かくして俺は、二人とも担いで走り出した。
途中から二人は上手にバランスを取り、流れる景色を眺めていた。
何かを話してさえいた。
一度クマの脇を抜けた。
俺の方をちらりと見た気がした。
こいつらは個別意識ではなく、集合意識なのではないか。
そんな恐怖も感じた。
ともかく、俺は全力で逃げ帰った。
行きのだいたい四分の一の時間で入口へ戻ってきた。
おそらく三十キロもなかったように思う。
俺は疲れ切り、出口を出ると倒れ込んだ。
チームアメリカのキーン軍曹が俺たちに気付き、駆けつけた。
大声で周囲に指示を出す。
『大丈夫か? 途中で何かあったのか?』
「疲れただけだ・・・」
『テイラー、大丈夫。カジはずっと走ってきただけ』
『そうか。ならよかった。でも、なんで走って帰る必要があった?』
『ダンジョンの最奥に着いた。そこでダンジョンの種? を見た。
カジはこちらから観察した分、ダンジョンからも見られている、と感じたようよ。
詳しくは録画を検証して欲しい』
レイチェルがカメラを回収する。
さゆりの分も引き渡す。
「ちょっと休むよ」
俺は目を閉じた。
「はい、ありがとう」
頭を誰かがさらりと撫でた。
⸻
今回のリザルト
「マッピング」
「運搬」
「恐慌耐性」
「隠密アップ」
二人共通
「マッピング」
「風耐性」
「隠密アップ」
移動中の映像がぐるぐる揺れ、見る者が酔ってしまうほど酷かったことは言うまでもない。
貨物扱いした二人からネチネチ責められたのも、言うまでもない。




