第二十八話:当然の結果
舞台袖へ下がり、イヤモニ等を運営スタッフに返却。ユニット代表者の待機場所に指定されている若干開けたスペースで待つ。午前中に一曲、午後に一曲。不満なほどに余力があって、疲労と言えば待ち疲れくらい。
などと、抱え腕組みで退屈する冴姫に茉佑が話しかけた。
「冴姫ちゃん、あとはよろしくね……!」
フニャフニャ笑顔と、ちょっとの汗で前髪が引っ付いた額。体力は同等でも茉佑の方が代謝が良いのと、たぶん解放感から。練習通りにステージを終えられ、肩の荷が下りたんだろう。
「アンタ達こそ支度しときなさいよ。写真撮影くらいあるんでしょうし」
目線を奥から手前。車椅子を押す茉佑から、涼しい顔で座る崇子へ。本当に疲れてるというより、乗りたくて乗ってる感。茉佑も押したくて押してる。二人の世界のコミュニケーション。
二人一纏めにしつつ込めた『茉佑のメイク直しをしなさい』の意味は伝わったらしく、崇子は敬礼の真似事をした。
「りょーかいしました。ばっちり準備しとくんで、リーダーもバシっと対応お願いね。間違っても変なこと言って好感度下げないでよー?」
「はぁ、言うわけないでしょ。むしろ心配なのはそっちの方。裏でまた揉め事起こしでもしたら承知しないからね」
「はーい」「はいはーい」
茉佑は素直に、崇子は軽い調子で返事。二人してさっさと控室へ去っていく。
ちょうど入れ替わりのタイミングで、各校の代表者がぞろぞろと現れた。
「(結果は待つまでもなさそうね)」
肩を落としてトボトボと。元気はないし目も合わない。
冴姫は早くも勝利を確信し結果発表の時を待った。
それから数分。
『これより結果発表を行います。各校代表者はステージに集まってください』
若い女性司会者のアナウンスが流れ、あらかじめ整列した学校名の五十音順でステージに入場。前を歩く一校とは煽り運転気味の近さ、後ろとは妙に離れているのは、冴姫の強気と他校の弱気による。
学校名・ユニット名が刻まれたプレートを持ちステージ左側で並ぶ時も、冴姫だけが自信満々の胸の張り様で。
『審査員長より、評価基準と採点方式についてご説明いたします~~』
プログラムの進行が司会者からバトンタッチ。ステージ中央頭上モニタに『審査員評価』の文字が映し出され、審査員長の熟年婦人が採点基準等を説明する。
『採点方式は歌唱・ダンス各三十五点、演出三十点の計百点を満点とする~~』
プレコン・夏コン共に、審査員評価・会場投票・WEB投票のうち二項目勝利で優勝が決まり、一勝ずつで並んだ場合はWEB投票の勝者が優勝となる(審査員評価・会場投票を制し優勝校が決定していてもWEB投票は実施される)。
審査員数はプレコン(冬季ポップソング&ダンスコンクール)では歌唱・ダンスで各三名。審査項目に従い採点し、課題曲・自由曲を合算。演出採点は全審査員のうち、最高・最低点を除いた平均点が採用される。夏コン(夏季ポップソング&ダンスコンクール)では、審査員は各五名に増員され、歌唱・ダンスも演出点と同じ採点方式となる。
審査員は大会運営連盟のライセンスを取得した人が務められ、元プロ歌手・ダンスパフォーマー・レッスンプロのような音楽・ダンス業界人が多い。審査項目は常に公開されており、大会後は各校にコメント付きで結果を配布。指導に活用される。
「(さて、何を言われるのやら)」
審査員席に並ぶ、老若男女入り混じった顔ぶれ。冴姫は一通り眺め、これと言った感想なく客席側に視線を戻した。現時点でも芸能人としての経歴は、審査員より冴姫の方が格上なのだ。
『時間の都合上、ステージ講評は上位八校まで。九位以下につきましては、ホームページへの掲載と採点シートの発送となります。それではまず、八位から四位を~~』
畏まった雰囲気の中、審査員長が順位・得点・評価を読み上げていく。例年ならば入賞でも歓喜の声が出場者や客席から上がるものだが、今年は静か。原因は出場者の表情が暗いせい。来場の関係者はつられて声を出せず、拍手のみとなった。
その拍手も座席が散り散りの影響で小さく聞こえた。
『続きまして、三位から一位を発表します。三位、七十点、商業高校。ユニット名【商業高校アイドル部】。代表者は前に』
三位の発表を聞き、冴姫は瞬きする。
「(こっちが三位なんだ。いいとこ同点と思ってたけど。未完成同士ならそうなる、か?)」
驚いたのは商業高代表の美雨も同じらしく、反応が一瞬遅れ。美雨は早足でステージ中央へ行き、審査員長の講評を食い入る表情で聞いた。
『採点内訳は歌唱二十四点、ダンス二十三点、演出二十三点。例年通り安定感のあるパフォーマンスと工夫された演出でした。強いて指摘するならば要所でのダンス統一の乱れですが、すでに十分に仕上げられたパフォーマンスです。ステージを良く盛り上げていました。今後も~~』
実力を認め、指摘は僅か。四位は六十三点で結構な数の指摘を受けていたため、比較すると評価はかなり良い。
冴姫は観客向けに笑顔を作ったまま分析する。
「(六十点台後半が『練習した』レベル、七十点台が『結構がんばったor素質ある』レベル。公開されてた基準通りね。商業高は順当に伸びれば、夏は七十点台半ばかな)」
審査員長から美雨へ評価シートと賞状が渡され、それなりの拍手が起こって講評終わり。
続いてリコレが呼び出される。
『二位、七十一点、県北高校。ユニット名【リコレ】。代表者は前に』
リコレ代表の璃子は大人しい返事をして、普段の表情でステージを歩いた。
不思議に感じ、冴姫は心の内で首を傾げる。
「(なんかずいぶん……淡泊じゃない?)」
商業高の美雨と違い、かなり反応が薄い。講評を聞く際も深く考えていなさそうな義務的な頷き。悔しさが伝わってこなかった。
『採点内訳は、歌唱二十四点、ダンス二十二点、演出二十五点。昨年夏季大会から最上級生が抜けているにも関わらず、高いパフォーマンスを維持していました。ダンスの表現力をもう少し伸ばすことができればもっと良いステージに~~』
妥当な指摘。
そう思いながら、冴姫の頭に崇子の言葉がよぎる。
「(演出点は『さじ加減』。崇子が言ってたっけ、『アイドル的な魅力はこっちで盛られる』って)」
崇子曰く、演出点は歌唱・ダンスの技術点が拮抗した場合に勝敗をつける役割を持つ。リコレと比べ商業高はこれが伸びにくいだろう、とも。
伸びにくい理由の一つは、大会が生徒の自主性を評価するため。県北高は学校としての指導力は並みで、商業高は部の顧問教師が優秀。しかしそれがリコレにとって有利に働き、リコレは自主的に能力を伸ばした印象に、商業高は顧問の成果との印象になってしまうそう。一点分になるかならないかの違いだが、商業高は自主性の面で点数が貰いづらいらしい。
もう一つは身も蓋も無い話で、ビジュアル加点。表向きは衣装や表情など、アイドルとしての世界観への採点項目となっているが、実際はそこそこ以上に『見た目』も影響しているとか。リコレのように『県外に流出していた』級の美少女には加点がされるはず、と崇子は予想していた。
やれ部活動だの教育だのと言うわりには世知辛い話、と少しがっかりしなくもない反面、なんだかんだ言ってアイドルとはそういうものだと冴姫は考える。
「(満点の天井があるだけマシ。……茉佑や美雨にとっては理不尽に感じるのかもしれないけど)」
美雨を見てみると、観客向けの笑顔こそ保っているが、校名プレートを支える手が震えていた。冴姫はそれを『羨ましさ』や『妬ましさ』、『悔しさ』と解釈。茉佑も同じ気持ちだろうかと想像する。
そのうちにリコレの講評が終わり、冴姫達の順番が回ってきた。
『一位、八十三点、天川女子高校。ユニット名【偏翼の天使】。代表者は前に』
言い終わりを待たず沸き起こる歓声。冴姫は興奮の観客席に一礼した後、審査員長の前に移動。講評に集中した。審査員の方々は何がご不満でいらっしゃるのか。微笑み崩さずじっと見つめる。
審査員長は圧を感じたのか、やや緊張の面持ちで話した。
『さ、採点内訳は、歌唱二十九点、ダンス二十六点、演出二十八点。ダンス採点では規定に従い、森山崇子さんを採点対象外としています』
身体にハンディキャップがある・怪我を負っている等、やむを得ない事情がある者は、医師の診断書を運営に提出し許可を得られれば、ダンスor歌唱の採点対象から外れることができる。補欠の出場者がいない(当人必須のダンスor歌唱パートが存在する)状況への対応や、ハンディキャップ者の参加障壁をなくすための制度である。
採点対象外となった者は採点対象のパフォーマンスのみ行えば良く、崇子のようにダンスができない場合は、ステージ端に椅子を置き座って歌うだけでいい。しかし出場者のほとんどは、僅かでも動作する傾向にある。完全に踊れずとも動く方が・歌えずともリップシンクする方が、表現力や仲間との一体感が高まるからだ。また、積極性があるとして演出点に加点も付きやすい。
このほか、ユニットの大半にハンディキャップがある場合を想定した特別採点制度も存在する。採点項目の一部を下限の基礎点扱いにし行える動作のみを採点(加点)する方式で、車椅子ユーザーやろうあ者のユニットでの利用例がある。
「(歌唱の方が良い点数、と言うことはまぁ……茉佑でしょうね)」
自身も崇子も減点がつくパフォーマンスではなかった。なので差分は茉佑だろう。
と、冴姫が予想するままの内容を、審査員長は念入りに採点シートを目でなぞり読み上げる。
『えー……。パフォーマンス内容につきまして、龍ケ江さんの歌唱及びダンス、森山さんの歌唱は配点上限を超えるほど素晴らしく、しかしルールに則り満点と評価しています。その上で得点はユニット平均として算出しました。演出も大変良くできており、全員参加かつ学生らしい工夫が施され~~』
やっぱり茉佑だった。演出点を除き、およそ十八点の評価。なるほど。そう納得しかけて、冴姫は微かに眉を寄せた。少し低い。確かに茉佑は商業高やリコレに素質で劣るが、それにしても一~二点低い気がした。パフォーマンスは上振れも下振れもしていなかったのに、点数が下振れている。
そんな冴姫の疑問は解消されず、他に突っ込みどころはなく。特段の学びもないまま講評は終わった。
『~~以上です。引き続き、会場投票の結果を発表いたしますので、列に戻り待機してください』
評価シートと賞状を受け取り、冴姫は観客の声援に手振りで応え元いた場所へ。
その間にモニタ映像が切り替わり『会場投票結果』の表示。司会の女性が進行する。
『ただいまより、ご来場の皆様による投票の結果を得票率として発表いたします。こちらも時間の都合上、上位八校のみの読み上げとなります。全体順位はホームページをご確認ください。申し上げます、八位、得票率0.3%~~』
まとめて発表された四位から八位のユニット代表者は皆、目を伏せた。入賞ユニットが一桁%に満たない得票率など前代未聞。紹介がかえって不名誉だった。
『三位、得票率4.2%、商業高校【商業高校アイドル部】。二位、得票率5.5%、県北高校【リコレ】~~』
二位と三位でようやく一桁%に到達。商業高の美雨は険しい表情で、リコレの璃子は変わらず聞き流した。
そして、冴姫達の順番。
『一位、得票率88.7%、天川女子高校【偏翼の天使】。なお、同校は審査員評価及び観客投票の二項目で一位となりましたので、今大会の優勝校となります。トロフィーを贈呈いたしますので、代表者はステージ中央へお越しください』
耳に入る当然の結果に、体は自然と観客席へ一礼。続いて審査員席にも一礼。拍手喝采を受けながら、冴姫は優雅な足取りでステージを歩いた。桁違いの成績であっさりと、WEB投票を前に優勝決定。必要以上に喜んで見せないのは、ここが単なる通過点でしかないから。
冴姫は冷静な頭で、出会った頃の崇子の言葉を思い出した。
「(『むしろ勝率が下がる』……。こんな差が夏までにどうやってひっくり返るのか、楽しみなくらいね)」




