第94話 ネリーの戦い
セイ達が魔法兵700名を連れて出ていった。
私はミニドラちゃんとそれを見送って、草原に残った。
数日でもアイツらと離れるのは、久しぶりだな。
寂しいなあ。
私は隣にいるミニドラちゃんを撫でる。
「私は、私のやるべきことをやらなくちゃ」
私は、むんと気を入れて呟いた。
1人だけ残ったのは寂しいけれど、残ったのは私にしかできないことをやるためだ。
私としては、私でなくてもいいと思うけど、頭のいいアレクやセイが言うのだから間違いないのだろう。
「あら。それは気になるわね。やはりあなたが残ったのは、意味のあることだったということかしら」
「エレーナ殿下…」
いつの間にか近くに来ていたエレーナ殿下が、私の呟きに対して言葉を投げかけてくる。
少し驚いて、ちゃんと言葉を返せなかった。
「公式の場以外では、先輩でいいわよ。さぁ、話しなさい。あのセイが、意味もなくあなたを残すとは思えないわ」
あのセイがなんて、ずいぶんセイのことを知ったような言い方だ。
別に、セイとエレーナ殿下が仲良くてもいいんだけど。
「セイのこと、よくご存知なのですね…。まぁ、いいです。どちらにしろ話す予定でした。首脳部に行きましょう」
元々、エレーナ殿下も含めて、首脳部には話す予定だった。
私はどうでもいい世間話をしながら、殿下と一緒に首脳部に向かうことにした。
「か、完成したのか!?」
首脳部で、ギリギリまで作成中だった魔道具などが届くこと、行軍の合間にそれを使って一般兵を訓練したいことを伝えると、ズベレフ将軍がすごく驚いた。
セイは何とか間に合わせると説明してあると言っていたけれど、どうやら信用されていなかったみたいだ。
「将軍は知っていたのですか?」
第1魔法士団長がズベレフ将軍に質問をした。
つまり、この人は知らなかったってことだと思う。
「うむ。完成した場合の使用の許可を求められてな。無論、王もご存知じゃ。いや、しかし、まさか間に合うとは…」
やっぱり、アレクのお祖父様にも王にも、間に合わないと思われていたみたいだ。
本当は、アカシャの力を使って、私達みんなでとっくに完成させていたんだけど。
ギリギリってことにしておこうって話になっていたのよね。
確かに、魔導王国の最新の研究成果をあっさりと真似できるとは、誰も思わないわよ…。
「もうすぐ物資を乗せた飛空艇が来るはずです。そうしたら、魔法士団と騎士団にはお手伝いをお願いしたいのです」
私がそのようにお願いすると、第1騎士団長が片眉を上げて強い不快感を表した。
「下級貴族が…、我々に指図するというのか?」
第1騎士団長は伯爵家出身だったかな。たぶん。
公爵、侯爵、伯爵が上級貴族で、子爵と男爵が下級貴族だ。
ギリギリ上級貴族の人なのに、とても爵位に誇りを持っているようね。
私も、男爵から子爵に陞爵されたときは泣いたわ。
「…民と国を守るためです」
少し迷って、これが最善だと思ったことを言った。
これで分かってもらえるわよね。
「その魔道具と、充魔石と言ったか、魔力補充式の魔石、全て我々に寄こせ。有効に使ってやる」
「私達の方が有効に使えますので、お断りいたします」
もしかしたら、第1騎士団長の人は私と同じで、頭の悪い人なのかもしれない。
使い方も知らない人が、私達より上手く説明できるわけないじゃない。
大体、手伝いが必要なのは、空になった充魔石に魔力を補充するためだけなんだから。
渡したところで、やることは変わらないわ。
私は、即座にそのことを伝えた。
長くなるから、簡潔に。
ちなみに、充魔石の方が魔導王国の研究成果だ。
世に出すのは、うちの国の方が早い。
魔導王国は泣いていいと思う。
「セイ・ワトスンの腰巾着が、調子に乗るなよ」
ん?
何か少しおかしいと思っていたけれど、もしかして、私は喧嘩を売られていたのかもしれない!
「ふん。アンタこそ、セイがここにいないからって調子に乗ってるじゃない」
私は知ってる。
騎士団長の人と魔法士団長の人が、セイのいる場ではあんまり強い意見を言わないことを。
だから、言い返してやった。
「ああ!? 貴様! 表にでろ!」
「いいわ! ボコボコにしてあげるわよ!」
騎士団長の人が額に青筋を浮かべて立ち上がったので、私も立ち上がる。
セイが、ミニドラちゃん込みなら私の方が強いから、最悪ボコっていいって言ってた。
「はい。2人とも、そこまで。私の『最善手』は、トンプソンの言う通りにすべきと示しているわ。いいわね? 将軍も」
「御意のままに」
ズベレフ将軍がエレーナ殿下の言葉にすぐにそう言ったので、私もすぐにその後に続いて同じ言葉を重ねた。
少しだけ遅れて、悔しそうに騎士団長の人も続いた。
首脳部の天幕での説明の後、飛空艇から物資を受け取った私は、行軍の合間に一般兵を集めて説明と説得を行った。
一気に全員は無理なので、1000人くらいずつ分けてやる。
アカシャがいれば、全員もできたかもしれないけれど。
でも、無理やり従わせるだけじゃなく、自分から覚えようと思ってもらわないといけないから、むしろこっちの方が伝わりやすいかもしれない。
「みんな、聞いて! これから全員に魔道具を配るわ! そして、行軍の合間に戦闘訓練をする! これは戦争に勝つため、そして、あなた達の命を守るために重要なことなの!」
私は”拡声”の魔法でみんなに言葉を伝えた。
すると、予想はしていたことだけど、すぐに否定的な言葉が聞こえてくる。
「また貴族が平民を使い潰すつもりだ…」
「赤髪…。『無能の』トンプソンじゃないか。泥舟に乗るのはごめんだぜ」
確かに、一般兵の戦争での主な役割は貴族を守ることだ。
確かに、お祖父様の隊は結果として一般兵も含めて全滅した。
でも!
「っ……! 信じて!! 私は、私達は、少しでもみんなが無事に戦えるように…!」
私は声を振り絞って訴えた。
そして、その後すぐに気づいた。
聞こえてくるのは、否定的な言葉ばかりではないことに。
「信じるぜ!! 文句言ってるヤツらは出てこい! オレが相手してやるぜ!」
あれは、スラムの…。
「ネリーの姐さん! オレ達、アンタに付いてここまで来たんだ!」
あれは、ギルドの…。
「全員、よく考えてみろ! 上手くいかなかったこともあったかもしんねぇがよ、トンプソン家以外に平民のことを考えてくれた家があったかよ!?」
見たことがないあの人は、きっとお祖父様かお父様の…。
私やトンプソン家に関わった人の一部が、大きな声でみんなを説得してくれている。
涙が出てくる。
みんなのおかげで、みんながまとまっていくのが分かる。
私が、トンプソン家がやってきたことは、こんなにも認められていた…。
お母様やお父様、そしてお祖父様に、この光景を見せてあげたい。
これが、トンプソン家の誇りですと。
セイやアレクが、自分達では従わせることは出来ても、士気を上げることはできないと言っていたのは、こういうことだったのね。
「み…」
「皆の者! あなた達の力が必要なのです! このエレーナ・ティエム・スルトに勝利を!」
美味しいところをとっていったエレーナ殿下の言葉で、一般兵がさらに盛り上がった。
王族の激励なら盛り上がるわよね。
みんなの士気が上がるなら、いいけど。
私は心の中で誓った。
みんなが、誰も死なないように、全力を尽くすと。
エレーナ殿下がいたずらっぽい表情でこっちを見てくる。
なるほど。セイと気が合うわけね。
アイツがやりそうなことだわ…。
あっちは今頃どうしているかしら。
失敗するとは全く思わないけれど。
こっちも必要なことだっていうのは分かるけれど。
できれば、付いて行きたかったなぁ。
アイツ、意外とすぐヘコむし。




