第95話 帰還報告
軍の本隊から離れて5日後。
オレ達700名の別働隊は、無事1人も欠けることなく、再び本隊と合流した。
「報告は受けていた。が、まさか本当に1人も被害を出さずに帰ってくるとはな…」
首脳部の天幕で帰還の報告を行うと、ダビド・ズベレフ将軍が安堵の表情を浮かべて、そう言った。
態度に出ないように気をつけているようだったけど、報告の最中も何度もアレクの方に視線がいっていた。
大丈夫。アレクは傷一つ負ってないよ。
「正確には、命令を無視した小隊を無理やり地下トンネルに落として回収した時に、何人か負傷しましたけどね」
一応、被害が出てなくもないので訂正しておく。
どう考えても、仕方のないことだったけど。
「それは被害のうちに入らんよ…」
ダビド爺さんは苦笑いをして、疲れたように椅子の背もたれに体を預けた。
「嘘だろ…? たった700人で2万を相手にして、全員無事? 本当に戦ってきたのか?」
「はぁ!? セイの言うことが信じられないの!?」
第1騎士団長のオレ達を疑うような言いように、ネリーが噛み付いた。
割といつも喧嘩腰のネリーだけど、コイツにはやけに当たりが強いな。
何かあったのか?
『ご主人様が不在の間、ひと悶着あったのです。些末なことでしたので、報告の必要はないと判断しました』
『なるほど。サンキュー、アカシャ』
オレの疑問を察した頼れる相棒が、質問をするまでもなく教えてくれた。
「いいよ、ネリー。確かに、戦ってないといえば戦ってないし」
アカシャがそう言うなら、大したことないことか、解決済みなんだろう。
どうでもいいので、第1騎士団長の言葉はスルーすることにした。
「それより、エレーナ殿下が借り受けた念話機という魔道具、あれは私達にも貸し出してもらえるのだろうか?」
第1魔法士団長が身を乗り出して聞いてくる。
彼も騎士団長の言葉はどうでも良かったらしい。
こうなるだろうとは思っていた。
だからこそ、ダビド爺さんにはこっそり渡したのだ。
あれは貸したのではなく、プレゼントだからな。
「戦争後すぐに、必ず返していただけるならお貸ししますよ」
オレは1つため息をついて、そう答えた。
できれば、ついでにこちらの指示に従って欲しかったけど、そういう訳にもいくまい。
少しでも被害が減ればいい。
「約束しますぞ」
第1魔法士団長は満足そうに頷いた。
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「それで、聞き取りの結果はどうだった?」
セイ・ワトスン達が天幕を出ていった後しばらくして、騎士団の部下達が報告へやってきた。
戻ってきた魔法兵達に聞き取りをしていた者達だ。
私はすぐに、その結果を尋ねた。
私が個人的に疑っていることを抜きにしても、セイ・ワトスン達の報告が正しいか確かめる必要がある。
報告が間違っていた場合、とたんに窮地に陥ることも有り得るからな。
「それが…」
兵達が顔を見合わせて、困惑した態度を取る。
「どうした? 構わん、言ってみろ」
私は多少イラつきながら、先を促した。
あのトンプソンの小娘といい、イライラさせられることが多すぎる。
「誰も、敵影すら見ていないそうです。ただ、言われた場所に移動し、言われた方向に魔法を撃ち込んだだけだと…」
「はぁ!?」
そんなバカなことがあるか!
思わず、間抜けな声が出てしまったではないか!
「はーっ、はっはっはっ!」
将軍が突然、額に手を当て、笑い始める。
「ずいぶん細かく聞いてくるから、大体のイメージはできていたけれど。まさか誰も敵を見ていないなんてね」
エレーナ殿下もクスリと笑いながら感想を言う。
「くく、なるほど。会敵すらしていないのであれば、被害がないわけだ」
将軍が笑い続けながら、見解を述べた。
だが、しかし。
「誰も見ていないのであれば、報告の信憑性が…」
私はセイ・ワトスンの報告が疑わしいことを告げた。
特に、『壱天』が死んだという報告は信じがたかった。
奴は、天才だった。
年齢が同じ私が誰よりそれを知っている。
私が在学中の国際大会。
闘技大会は常に奴が優勝していた。
私は一度も、奴に勝つことはできなかった。
セイ・ワトスンは毒殺したと言っていたが、奴に気づかれずに毒を盛ることなどできるものか。
奴が見ている前では、全てが…。
いや…、まさか…。
「そのような攻撃方法で、なぜ敵の被害が500人ほどだと分かったのですかな? まぁ、彼らだけは敵に接近したとの報告もありましたが…」
タベルネル第1魔法士団長が、ちらりとこちらを見ながら言った。
彼も、もしかしたら私と同じことを感じたのだろうか。
ハッキリとはしないが、そういうことができる能力なのかもしれない。
セイ・ワトスンの、神に愛された能力は。
「真偽は私には分からないけれど、分かることもあるわ。セイの報告を信じる方が、信じないより良い手よ」
エレーナ殿下の言葉を聞いて、私を含む全員が頷いた。
セイ・ワトスンの報告が真実かは分からない。
だが、真実だとして動くことが決定した。
そして、それが真実だったとき。
セイ・ワトスンの能力は、あの『刹那』すら出し抜ける情報収集能力という可能性が極めて高くなるだろう。
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「で、アンタはどうしてそんなに元気がないのよ?」
首脳部の天幕を出た後、ネリーが突然そんなことを言い出した。
え? 隠してたつもりなのに、なんでバレたんだ?
「やっぱり分かるかい? どうにかしてくれよ。『参天』を暗殺したときの感触が嫌だったとかで、ずっとヘコんでるんだよ」
アレクがあっという間に、ネリーに全部バラした。
「セイがヘコんでるせいで、帰り道の雰囲気最悪だったの」
ベイラが少し怒ったように言う。
もちろんヘコんでるところは仲間にしか見せてないけれど、そのせいで他の兵との温度差が酷いことになってた。
マジですまんかった…。
「ぷっ…」
「おいおい、笑うのは酷くない?」
ネリーがアレクとベイラの話を聞いて、思わずといった感じで笑った。
オレはそれにツッコむ。
結構、本気で傷ついてるんだけどなぁ。
「ごめんごめん。ちょっと、あんまりにも思ったとおりだったから」
ネリーが、テヘッというような様子で笑う。
「思ったとおりって、ヘコんで帰ってくると思ってたのかよ…」
だとしたら、もっと落ち込むぞ…。
「そういう訳じゃないんだけど…。やっぱり、私がいないとダメね! 次は私も連れていきなさいよ!」
ネリーがバンバンとオレの背中を叩いてくる。
なんで嬉しそうなんだコイツ…。
「分かってるよ。今回は必要だったからって言っただろ?」
最悪オレ達が遅れそうなら、本隊はネリーに引っ張ってもらうって目的もあったからな。
予定通り、そうはならなかったけれど。
「よし! 今日はバーベキューやろう! 『勝ったのにヘコんでるセイを慰める会』やるわよ!」
ネリーが元気に宣言する。
え、なに、その恥ずかしすぎるネーミングの会…。
「いいね」
珍しく、アレクがいたずらっぽい笑みを浮かべた。
なにそれ、オレの知ってる天使じゃない。
「デザートに、ダンジョン産リンゴを焼くのは外せないの」
ベイラはすでにデザートに思いを馳せているようで、ヨダレが垂れている。
まぁ確かに、あの焼きリンゴは反則的に美味すぎる。
アカシャが最高の焼き加減を調整するのだから、なおさらだ。
想像しただけで、オレの口の中にも涎が溢れてきた。
「ほら、早く、やるって言いなさいよ!」
ネリーがニヤッと笑って、急かしてくる。
オレのために言ってくれてるんだもんな。
やらない選択肢はないか。
「よし。分かった。今日はバーベキューだ。でも、『なんとかの会』のネーミングは恥ずかしいからなしで」
充分、元気出たし。
みんな、えーっ、とか言うなよ…。
せっかくだから、周りも巻き込んで盛大にやるか。
全軍はさすがに無理だけど。
今回の魔法兵達と、知り合いくらいなら何とかなるだろ。
オレはアカシャに計算を頼んだ。
『なるほど…。ご主人様に元気を出していただくには、バーベキュー…! 学習しました』
待って、アカシャさん。
珍しく、天啓を得た、みたいなテンションだけど。
もしかして君、オレが元気ないときに毎回バーベキューを提案しようと思ってない?




