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あなたの心の中に、他の女性がいることは知っていました。  作者: Kouei


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第6話 今の想い(side:ディオン)

 

 そうして、キュリアとの婚約が成立した。


 週に1回は彼女と出かけるようになり、その日は観劇に出かけた時の事だった。

 

 劇が終わり、会場を出て来た時に大勢の観客の中で目に映った黒髪の女性。

 思わず立ち止まり、その女性を見つめる。

 振り返った顔は別人だった。


「お知り合いですか?」


「あ、いや、その…知り合いに似ている気がしたから…」


「そうですか」


 急に動かなくなった僕に声を掛けるキュリア。

 あわててありがちな言い訳をする。


 外出する度に、ロアンヌの姿を探す事が癖になっていた。


 情けない…


 僕はいつまで彼女の面影を追い求めているのだろう。

 

 婚約した。

 もうすぐ結婚する。


 いい加減、自分の気持ちに区切りを付けなければならないのに。


 そう思いながらも、僕は未だに過去を引きずっている…



 僕たちは馬車に乗り込み、彼女の屋敷へと向かった。


「あ、動物商のお店だわ」


 馬車の小窓から外を眺めていたキュリアが声を上げた。

 鳥の絵が描かれた絵看板が目に入った。


「ふ、今も動物が好きなんだ」


「はいっ」


「じゃあ、結婚したら猫でも飼おうか?」


「そうしたいですけど…今はやめておきます。これからは子爵夫人として家政の勉強をしなければなりません。その中できちんと責任を持って面倒をみられるか自信がありませんから…」


「真面目だね、君は」


 侍女に世話を(まか)す…という発想はないんだな。


「当然ですっ 生きものですから! …でも、いつか飼ってもいいですか?」


 遠慮がちに尋ねるキュリア。


「もちろん」


「じゃあ、あの時の猫と似たような子がいいですっ ブルーグレーの、覚えていませんか? 人懐っこくて…あんな子がいいな」


「ふ、怖がって僕の後ろにいたのは誰だっけ?」


「あ、あれは…近くで動物を見たのは初めてだったからっ 今は怖くありませんっ」


 少し頬を膨らませ、ムキになるしぐさが可愛かった。


「あはは」


 今までの僕は、ロアンヌを思い出しては過去に(ひた)る毎日だった。

 けれどキュリアと再会してからは、自然と笑っている自分がいる。


 大人の女性としての気品の中に、初めて会った頃の無邪気さを残している彼女を、僕は愛おしく感じ始めていた。


 そして、この穏やかな時間を大切にしたい。

 僕はそう思い始めていた。



 そう思っていたはずなのに ———————…


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