第4話 あなたの忘れられない人
17になった私に、父が縁談を持ってきた。
確かに、婚約者がいても当たり前の年齢だ。
ただ…まともに恋さえしたことないのに、結婚を考えなければならない事に少し気が重くなった。
けど、釣書きと一緒に見せられた肖像画に、私の心が止まった。
茶色い髪
バーミリオンの瞳
名前は、ディオン・ヴィアンテ
「この方は…まさか!?」
よく似ている…家名は分からないけど名前は同じだわ。
違うかもしれない…けどもしあの時の『お兄さん』だったら…
考えれば考えるほど、期待が膨らんでいった。
顔合わせはホテルのロビーラウンジで行われた。
向かい合わせに座っている彼を見てすぐに分かった。
肩まで伸びた髪は後ろに結ばれ、顔つきは大人の男性になっていたけれど、間違いなくあの時の『お兄さん』だった。
暫く二人で過ごす時間を与えられ、互いの両親は席を立った。
私は勇気を出して聞いてみた。
「あの……私の事…覚えていらっしゃいませんか?」
「え?」
突然の質問に戸惑われている。
変な印象を持たれたくないわ。
「7年前…寄宿学校で迷っていたところをあなたに助けて頂きました。そして猫に触らせて下さいました」
「7年前…猫…?」
「お兄さん」
私は髪を二つに分けて、両手で持った。
当時していた髪型だ。
「あっ! 君は…あの時、迷子になっていた子!?」
「はい、思い出して下さいましたか? 今更ですが、あの時は助けて下さり、本当にありがとうございました」
私は頭を下げながらお礼の言葉を述べた。
そして、私の事を覚えてくれていた事が嬉しかった。
「ふ、大げさだよ。ただ、受付に案内しただけの事さ。でも…そうか、あの時の。泣くのを我慢しながら僕を睨みつけていたのに…」
ディオン様は目を細めながら、私たちが会った時の事を語った。
「に、睨みつけておりませんっ よ、様子を窺っていたんですっ
「ははは」
昔の友人に出会ったかのように、懐かしい気持ちを抱きながら会話が弾んだ。
その後、正式に婚約を取り交わすと、私たちはよく二人で出かけるようになった。
そこである事に気づく。
歩いている時
お店の中にいる時
彼がいつも誰かを探している事に…
そんな彼の視線の先には、必ず長い黒髪の女性がいた。
そしてふと思い出した。
7年前の寄宿学校の学校祭で見た、ディオン様と黒髪の女性の逢瀬を。
きっと…今でも忘れられないのね…
「キュリア? どうかした?」
「…ディオン様…その…」
「ん?」
「このまま…私と結婚されて…よろしいのですか?」
「え?」
「その…」
(あなたには忘れられない人がいるでしょ?)
私は言えない言葉を飲み込み、両手を握り締める。
「…僕がこの年まで婚約さえした事がなかった事に、不安を持っているんだね」
「いえっ 違いますっ そうではありません! そうではなくて……ご、ごめんなさい…失礼な事を申し上げました…」
「キュリア…正直言うと、僕は結婚するつもりはなかった。父が亡くなり当主となったけど、いずれ養子をもらうつもりでいたから。けれど、君と再会して…君となら、この先も一緒に過ごしていけると思ったんだ」
「ディオン様……私も…私もディオン様とずっと一緒にいたいです…」
「キュリア…」
ディオン様は私を引き寄せ、そっと抱きしめてくれた。
まだあなたの心の中に、彼女がいることは知っていた。
それでも私と共に過ごしたいと言って下さった言葉に嘘はないと信じたい。
今のあなたの気持ちを信じたかった。
そしていつか私を見てくれればそれでいい…そう思っていた。
この時は……
「けれど…その願いは叶わないのかもしれない…」
祝賀会から不自然な態度を見せるようになった旦那様。
その女性が何か関わっているのかしら……
「………」
いえ…
何も考えたくない。




