第22話 上丘誠治『砂鉄刺』『銀髪の男』追う者追われる者
夜更けの署内。
蛍光灯が唸りを上げ、紙の積まれたデスクに長い影を落としている。
誠治は背もたれに深く沈み込みながら、
数時間分の映像と調書を繰り返し読み込んでいた。
あの廃工場での出来事。緑の光、黒塗りの車、
そして忽然と消えた二人の影――。
捜査官としての直感が、「それ」がただの暴徒事件ではないと告げている。
「おい、誠治。お前、あの件でまだ残ってんのか?」
声を掛けてきたのは同僚の刑事・氷室だった。
コーヒーを片手に、書類の束を抱えて歩いてくる。
「……ああ。どうも釈然としなくてな」
「まあ、分かる。俺もだ。だがな――」
氷室は、声を潜めて椅子を引いた。
「今度、区が主導でデカいクラシックコンサートがあるらしい」
「コンサート?」
唐突な単語に、誠治の眉が動いた。
「そうだ。無料招待だとよ。
二十代から六十代まで誰でも
先着順で聴けるってな」
「慈善事業か何かか?」
「それがな……
警備計画が妙に厳重なんだ。
なのに俺らには情報が回ってこない。
管轄署にも通達すら下りてないんだぞ」
氷室の声には苛立ちが混じっていた。
「おかしいと思わないか?
しかもスポンサーの一つが、
“砂鉄刺” だ」
誠治の心臓が強く打った。
あの工場裏で見た黒塗りの車。
そこに刻まれていたロゴ。
そして、あの銀髪の男。
「……確かか?」
「俺がウソついてどうする。
資料に名前があったんだ」
誠治は即座に席を立った。
スーツの内ポケットからメモ帳を取り出し、
文化会館の名を走り書きする。
今動かなければ、また何かを見逃す。
そんな嫌な予感が、胸の奥で音を立てていた。
「おい、どこへ行く?」
「ちょっとな。……お前はいつも通り仕事してろ」
「おい誠治!」
背中に同僚の声を受け流し、誠治は署を後にした。




