第19話 上丘 誠治の夜――街の平穏を守るための組織の中で
同じ頃、別の場所――
警察署の捜査室。
天井の蛍光灯が疲れたように瞬いている。
誠治はパソコン画面とにらめっこしながら、
数時間前の現場映像を何度も巻き戻しては再生していた。
誠治が見ているのは、あの廃棄物処理工場を外から映した複数の防犯カメラ映像だ。
時折、工場が映るとその窓が明滅しているのが分かる。
防犯カメラは白黒のため、
色は分からないが、おそらく緑色に光っているのだろう。
しかし、彼が見たいのは、内部ではなかった。
頬杖を突きながら、誠治は工場でのことを思い出していた。
工場内では当然、乙とエルが戦っていた。
誠治は螢とともに、謎の軽口男に、まんまと踊らされて工場の外に追い出されたわけだが……
とはいえ、ただ指をくわえて待っていたわけではない。
弟と強引に引き離された螢は、怒りから軽口男に食って掛かった。
もちろん、誠治も部下と共に蜂起するつもりだったが、
軽口男は瞬時に風向きを読むと、
彼らを取り囲むように四方へ黄色く発光する銃弾を撃ち込んだ。
まるで『余計なことをされちゃ困るんで』とでも言うように――。
そして――
発光した銃弾からは同じ色の煙が立ち上り、それを吸った部下たちは次々と倒れ込む。
「あ、そんなに怖い顔しないでくださいよ。
数十分程度の麻痺だから、大丈夫ですって~」
風向きを読んで実行しているため、螢や彼自身には影響は及ばない。
とんでもない計算高さだ。
決めうちした範囲内だけ、あんなに綺麗に動きを止めるなんて――。
軽口を叩くあの男の実力は、バカに見えて本当はそうではないのかもしれない。
しかし、螢も諦めない。
「……お前にも、守るものがあるだろうが……俺も引けない」
「いや……そう言われましても……」
螢に物凄い形相で詰め寄られ、流石の軽口男も、
誠治が居ないことまでは把握しきれていなかったようだ。
その隙に誠治は、何とか工場内に入れないかと裏手に回って戸口を探した。
(裏口だ! あそこから入れるか!)
そう思って走り出そうとしたとき――
誠治は見た。
工場の裏手にうず高く積まれたコンテナの山の間から、黒塗りのハイヤーが入ってくるのを。
音もなくソレは滑るように入ってきた。
誠治は思わず建物の陰に身を隠す。
そうしなければと思った。
ハイヤーの中から降りてきたのは
白衣に眼鏡、長い銀髪の男。
その隣には……メイド?
メイドが不意に、誠治の隠れている建物側に視線を送ってきた。
誠治の心音が速くなる。
銀髪の男がメイドを無視して歩き出す。
結局、メイドは、その後をついていったようで誠治の方には来なかった。
しかし、誠治が建物の陰から出たときには、
二人の姿も、ハイヤーも跡形もなく消えていた。
夢だったかというように。
「……夢?……なわけあるか……」
モニターを見ながら呟く。
ぼーっと映像をじっと見つめていると、
工場の外に一台の黒塗りの車が入ってくるのが映った。
誠治は思わず身を乗り出す。
(あの時の車だ!)
ある瞬間を静止させ、モニターに顔を寄せた。
(やっぱり!)
マウスを握る手に力がこもる。
車から二人の人物が降りる。
一人は白衣の長髪。180㎝近くありそうな長身だ。
画質が荒いため、顔は確認できないが、体格を見るとおそらく男性だ。
もう一人はメイドに見える。
160㎝ほどで肩に髪がかかるくらいの小柄な女性だ。
降りるや否や、その小柄なメイドは、
自分より数十センチも大きい銀髪男を抱えて飛び上がり、画面上から消えた。
「まじかッ!」
刑事として様々な経験をしてきた誠治も、さすがに驚きを隠せなかったが、
ひとまず、気になるのはそこではない。
映像を拡大し、車を凝視する。
「……砂鉄刺……?」
夢ではなかった。
幻でもなかった。
とにかく、あの二人が何者なのか――知りたかった。
なぜ、あの場所にいたんだ。
不釣り合いな、組み合わせのあの二人が?
デスク脇のホワイトボードには、市内の地図が貼られ、
赤いピンがいくつも刺さっている。
それは、ここ数か月で起きた奇妙な暴徒化事件の発生場所だった。
鷺ノ宮螢・乙、兄弟の写真も貼ってある。
「……さて、ここで新しい人物のご登場ってか。
さて――お前たちは、何を知っているんだ?」
小さく呟き、誠治は、地図上に新たにピンを打った。
「廃棄物処理工場」
そして、その横にペンで
『砂鉄刺』
とだけ記す。




