第18話 兄の夜――約束を果たすために、手に入れるべきは緑の光
深夜零時過ぎ。
都会の隅にある事務所の灯りは、外から見れば小さな島のように浮かんで見える。
螢は机に肘をつき、古びた手帳に目を通していた。
それは、警察官だった母が残した数少ない資料の一つだ。
そこにはかつて警察が追っていた「未解決事件」の一覧と、
何度も書き直された人物相関図が残されている。
線で結ばれた無数の名前。
その多くは既に意味を失った人物たちだ。
だがある一部だけは、母が何度も赤ペンで囲んでいた。
『――国――』
よほど執着していたのか――
何度も重ねられた赤い線と丸印によって、
肝心の文字は潰れ、解読できなくなっていた。
さらに別のページには、
『佐――』
とだけ残された走り書き。
螢は眉をひそめた。
(母さんは何を追っていたんだ……)
(母さん、あんたが追ってた影。
――その元凶をやっと突き止められるかもしれない)
蛍光灯の白い光が、兄の瞳に反射する。
乙はソファで眠っている。その傍らには飼い犬のヴァンも一緒に眠っている。
寝息に合わせて小さく上下する胸、その穏やかな表情を見やり、
螢は小さく息をついた。
(こいつを巻き込みたくはない……。ずっとそう思ってきた。
でも、この街を守ると決めた以上、腹を括るしかない――な)
机の上に、母の手帳とその横に自分の手帳を広げ、
今までの情報――母子救出の現場や、今日の廃棄物処理工場での出来事を、
一つひとつ書き出していく。
SWATの特徴、武器の形状、光の色、照射後の人間の変化――。
どれも断片的だが、少しずつ線が見え始めていた。
今、分かっている情報を整理し、点と点を繋いでいく。
(あの武器を造れる男……きっと“いち”と呼ばれる人物だ)
(SWAT風のあの連中は間違いなく、この男と繋がっている――
あの対応力や、言動から考えると
暴徒のこと、今、この街に何が起こっているのかを……知っているはずだ)
ページの端に、螢は三つの単語を書き込む。
――SWAT、バディ。
――緑の光。
――いち 男?
そして、最後の単語の下にこう付け足した。
『手に入れる 必ず』と。
兄弟の小さな事務所の明かりは、深夜になっても消えることはなかった。




