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Out Of Orbit ~すべてはこの手の中に~  作者: 銀猫
序章 墜ちたもの——希望と呼ばれた星
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第16話 誰のために闘うのか――敵は――イチ?


戦いの余韻を引きずったまま、エルは腰の通信機に指をかけた。


低く短い声が、マスク越しに漏れる。




「……おい、俺だ。……コードネームだ?分かり切ってんだろ。ふざけるな。


ったく……こちらエル。片付いた」





(……こいつ、エル、って名前なのか)





 (おと)は、何も語らぬこの謎のSWAT風の筋肉男を必死に観察していた。


 


――こちとら、命を懸けたんだ。


――闘い損なんて思いたくない。




自分のことを彼に教えた『いち』なる人物が何者なのかも気になる。


だが、肝心のエルは無言。


スカウトするわけでもなく、試すだけ試して終わったような空気が漂っている。




声をかけようとしたその時――。


廃工場の外からサイレンと怒号が重なり、タイヤの摩擦音が近づいてきた。


鉄扉が弾けるように開き、誠治(せいじ)(けい)が駆け込んでくる。





「乙っ!」




 


兄の叫びに振り返ると、工場内のどこからか戻ってきた猫が、乙の頭上に軽やかに飛び乗った。


小さな爪が髪をつかみ、甲高く鳴く。




「お帰り! 待たせてごめんな、猫ちゃん!」




抱きしめた瞬間、張り詰めていたものが胸の奥でほどけていく。


猫好きの乙は、もう完全に骨抜きだった。




問いただそうとしていたことすら忘れてしまう。


猫に頬をすり寄せる弟を見て、螢は深く息をついた。




その横で、誠治も


「弟が無事で何よりだ」と声をかけ、


螢の肩に手を置いた。




我に返った乙が


「そうだ! SWATみたいな奴で……エルって奴と一緒に戦ったんだ!」




と、振り向いた先には——




もう彼の姿は無かった。


スーツの連中が取引していた、例のアタッシュケースも全て一緒に消えていた。





「……あの軽口の男もいない」





螢が付け足す。


誠治は何も言わず、ただ静かに肩を落とした。





残されたのは、気を失ったスーツ姿の男たちだけ。


暴徒化していた面影は消え、静けさが漂っている。





――緑の光は破壊ではなく、解放のために放たれていた。





乙はあの閃光を思い出す。


形はサバイバルゲームで使う銃のようだが、放たれたのは、命を奪う弾丸ではなく、人を救う光。


だが、その矛盾は美しく――彼の理解を超えていた。





「全員、拘束しろ」





誠治は気絶して転がる男たちを見下ろし、無線で後続の警官隊を呼び寄せた。


部下が駆け寄る中、誠治はふと兄弟の方を振り返る。


その瞳には安堵と、どこか言いようのない不穏さが混じっていた。





「……もしかしたら、俺が思っている以上に……


 まずいことが起きているのかもしれないな」





短くそう言い残し、彼は現場の指揮へと戻っていった。

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