第14話 信徒・導きとノット――導きはない
乾いた破裂音――ガリッ。
噛み砕かれたカプセルの中身が、瞬時に彼らの血に溶け込んでいく。
その直後、スーツの男たちの体は痙攣し、筋肉が異様な速さで膨れ上がった。
顔の血管が浮き出し、白目が赤く染まる。口からは泡と、理解不能な叫びがほとばしった。
「我らの導きのために!」
「我らの導きのために!」
同じ言葉を、まるで呪詛のように繰り返す。
それは人の声でありながら、獣の咆哮にも似ていた。
次の瞬間、工場の中は地獄に変わる。
拘束されていたはずの男たちが、鎖を断ち切るように警官たちを吹き飛ばした。
骨の軋む音、床に転がる装備品、火薬と血の匂いが入り混じる。
警官たちの悲鳴。
部下を心配する誠治の叫び。
「おいおい、派手にやってくれるねぇ」
キーアが舌打ちする。
その声の裏で、エルは一歩も引かずに前に出た。
「……やっぱり、あいつの読み通りか」
筋肉質の男――エルの視線が、一瞬だけ乙を射抜く。
乙の心臓が跳ねた。
自分に向けられたその目は、敵意でも好奇心でもない。
何かを確かめようとする――試すような、重たい光だった。
螢が弟の腕を掴もうとした瞬間、キーアが素早く割り込む。
「ほらほら、こっから先は危険度、増し増しなんでね。
君たちは、お外へご案内~♪」
「ふざけるな!弟を置いていけるか!」螢が叫ぶ。
「異議は聞きませ〜ん」
軽口と同時に、二丁拳銃から弾丸が火花を散らした。
それは狙いすました警告弾。
壁や床を跳ね、まるで見えない糸で操られるように、螢と誠治、警官たちの足を
出口へと追いやる。
「兄貴!」
乙の声が響く。
それを遮るように、エルが低く言い放った。
「お前は――俺と来い」
理由は告げない。ただ、その声音には逆らえぬ力があった。
ドアが閉まる音と同時に、処理工場に残されたのは、
ノットへと変異した男たち、乙、そして、バディの片割れ——エル。
外の喧騒が遠ざかるにつれ、
乙の耳には自分の心臓の鼓動がやけに大きく響いていた。
唇を噛み、抱えていた猫をそっと床の端に置いた。
「少し待ってて、すぐ戻るから。
ヒーローってのは、強いんじゃなくて――」
静かに立ち上がる。そして――
「逃げないやつのことだろ?」
震える両手を握りしめ、乙は、エルの横に立ち、胸の前で拳を打つ。
エルはその姿を横目で見て、口元をわずかに吊り上げる。
「……あいつが言っていた通りなのか、お手並み拝見といこうか」
ここには、導きなど存在しない。
あるのは、抗う者だけ――
そして、その意思は今、試されようとしていた。




