第12話 廃棄物処理工場――新たな出会い 兄弟と警察
乙たちが辿り着いたのは、錆び付いたフェンスに囲まれた廃棄物処理工場。
中では、スーツ姿の男たちがアタッシュケースを囲み、ひそひそと何かをやり取りしている。
猫を抱いたまま息を潜め、近くの影からその様子をうかがう。
隣には、追いかけてきた誠治もいた。
しかし、上丘誠治は乙が自分の後をつけてきたことが気に食わなかったようで、かなり怒っていた。
「何で、ここに、お前が居るんだ!」
「いいじゃないっすか!ちょっと気になっちゃって!」
「馬鹿か!素人の出る幕じゃない!」
「いや、俺、ヒーローなんで!」
「殺すぞ」
「こわっ!民間人に対して。暴力反対!」
とはいえ、ここで声を荒げれば、向こうに気づかれる。
すでに乙は現場のすぐ近くまで入り込んでしまっていた。
今さら追い返すために動かせば、かえって目立つ。
誠治は奥歯を噛みしめながら、乙の襟首をつかむようにして、物陰へ引き戻した。
だが、アタッシュケースが開けられそうになった瞬間。
今まで大人しかった、乙の腕の中の猫が、突然、暴れ出した。
「ふぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「わっ――!なっなに!?猫ちゃん!どうしたの!?」
毛を逆立て、一目散に逃げ出す。
「待って!」
「おい!」
誠治の制止も聞かず——
慌てて追いかける乙の姿が、男たちの視界に入ってしまった。
「見ろ!ガキがいるぞ!」
「なに!」
男の一人が、懐へ手を突っ込み、取り出したソレは——拳銃。
次の瞬間——
拳銃が、黒く鈍い光を放った。
死への片道切符。
その刹那、鋭い掛け声が工場に響く。
「警察だ!取り押さえろ!」
誠治のその声に、部下が一斉に飛び出し、スーツの男たちを取り囲む。
「撃て!!」
スーツの男の怒号と同時に、銃声が廃工場に炸裂した。
警官たちも即座に遮蔽物へ飛び込み、応射する。
だが、猫を追いかける乙には、そんなことお構いなしだった。
「だめだよ!危ないって!
そっちじゃないってば猫ちゃん!」
警察とスーツの男たちの間を、
乙は猫だけを追いかけて駆け回る。
銃弾が、乙のすぐ横の鉄柱を叩いた。
甲高い金属音が響き、火花が散る。
それでも乙の視線は、逃げる猫から離れない。
「待って! お願いだから止まって!
そっちはだめだってば、猫ちゃん!」
「お前が危ないんだよ!!」
誠治の怒号が飛ぶ。
「うわっ!待って待って!」
「にゃぁぁぁ!!」
「そっちはもっと危ないって!」
銃声の飛び交う中——
ついに乙は猫を捕まえ、優しく抱き上げた。
「ふぅ……捕まえた。
どうしちゃったの?……でも、もう大丈夫だよ」
ゴッ
「いッて!」
頭に衝撃を受けた乙は慌てて振り向く。
そこには、おでこに青筋を立てた、兄——螢の姿があった。
「あ……」
「“あ?”だぁ…?言うことはそれだけか?」
「……兄貴さまぁ……ごめんってぇ……」
冷汗をかきながら乾いた薄笑いを浮かべ、弟は必死に謝り始める。
というか、言い訳を始めた。
「ほら、俺、ヒーローじゃん?だから、警察をお手伝いしないとって!
それに、遊んでたわけじゃないよ、猫ちゃんも、ちゃんと捕まえてるし!ね♡」
真顔で自分をヒーローだと言い張り、
どや顔で猫を捕まえたことを自慢してくる弟。
そんな姿を見ていると、怒ること自体が馬鹿馬鹿しくなってくる。
これがそもそもいけないのだろうけれど、まあ、弟が無事だったならそれでいいじゃないか。
螢は思わず肩の力を抜いた。
―—やれやれ、今日も間違いなく弟は大馬鹿だ。だが、無事で何よりだ。
螢の足元には、ヴァンが褒めてほしくて頭を擦り付けている。
「賢いな」頭を撫でると、ヴァンは嬉しそうにしっぽを振った。
「ヴァンも、ありがとうな」
乙も、ヴァンを撫でた。
猫と、犬と、兄弟。そこに、上丘誠治が声をかける。
「おたくが、この迷惑な、《《でかぶつくん》》のお兄さん?
うわっもっとでかいし、名前は?」
「鷺ノ宮螢です。弟の乙がお世話になりました。
すみません」
「サングラスで、見てくれ輩だけど……
お兄さんは、さすが、まともね。
俺、上丘っていうの、上丘誠治」
「こういうの、外面っていうんだよ!刑事さん!」
だが、この和やかな空気は一瞬で崩れることになる。
螢、乙、誠治——三人の視線が、同じ一点で止まった。
光の届かない、廃棄物処理工場の奥。
そこから——
覆面をした二つの人影が、静かに現れたから。




