第11話 俺の使命は――見えてきた自分の道
あの日から数日後。
鷺ノ宮乙は、依頼を受けて一匹の迷い猫を探していた。
細い路地裏で見つけたその猫は、少し警戒しながらも、
乙の差し出す手に鼻先を寄せてくる。
「よしよし……大丈夫だよ」
胸に抱きかかえ、柔らかな温もりを感じながら兄の到着を待つ。
ほんの少し、自分が“ヒーロー”になった気がしていた。
――あの日、通りすがりの少年から言われた言葉。
『お兄ちゃんは、ヒーローだよ!』
その響きが、まだ心に残っている。
思い出すたびに乙の表情は自然に緩んでしまう。
そのときだった。
耳に飛び込んできたのは、パトカーのけたたましいサイレン。
そして、視線の先を、大急ぎで走り抜けていく一人の刑事の姿があった。
――上丘 誠治。
あの親子を助けた日、シンジュクゼロ地区で出会った刑事だ。
ヒーローが必要な匂いがする!
気づけば乙は、その背中を追いかけていた。
******
兄の螢は父親から預かっている犬・ヴァンを引き連れて、
弟の好きなコーヒーを片手に、待ち合わせ場所に向かっていた。
「猫を見つけたって連絡が来たからな。
まあ、このくらいのご褒美はいいだろう」
なんだかんだで、この兄も弟には甘い。依頼なのだから、見つけて当然なのだが。
猫探しの依頼完了くらいで、好物を差し入れていたら、父からの独立など、
いつになることやらと思うのだが、そうせずにはいられないというように
飲み物を持って待ち合わせ場所に向かう。
「乙~おーい。お前の好きなコーヒー持ってきてやったぞ。
感謝しろ」
待ち合わせ場所に着いた螢は、そう言いながら、辺りを見渡すが、
そこに乙の姿はない。
並木道のずっと先に真っ赤なライトがくるくると回っている。
パトカーのライトだ。
「………」
嫌な予感がする。
「ヴァン、乙の匂いを追え!」
螢の言葉に、ヴァンは任せろと言わんばかりに鼻を鳴らし、並木道を駆ける。
パトカーが何台も、せわしなく螢たちを追い越していく。
「あのバカ……調子に乗ってなきゃいいけどな」
螢はサングラスを押し上げて、走り出した。




