表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『勇者リリアと魔王のフィアンセ』Eden Force StoriesⅣ(第四部)  作者: 瀬尾 碧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/27

『第三話・2 忘れられた刃』


しかし、谷に走るざわめきはそれだけでは終わらなかった。

兵士の一人がかすれ声を漏らす。


「二人……。どうして、リリア様が、二人……いるんだ……?」


その言葉に、皆が息を呑む。祈るように首を振る者もいたが、否応なく事実は突きつけられていた。

黄金の光から還った“勇者リリア”。

そして、仮面の中から歩み出た黒髪の“リリア”。

ここに、黄金と黒、二人のリリアが並び立っていた。


(……誰だ?こいつ?)


(ん……? 待てよ……あれ、そういや昔、俺……分身術の実験とかしてたことあったな?)


(しかも“わかりやすいように黒髪”っていう安直な設定でしてたような……)


(……完全に忘れてた。

やばい。俺の無責任案件すぎるだろ、これ……)


黒髪リリアは、颯太の心の声に答えるはずもなく、ただ無機質に谷の冷気をまとい、剣を握っていた。

沈黙だけが、冷たく落ちた。


「……あなた……わたしの分身……」


「どうやって……今まで生き延びてきたの?

……ずっと、気にかけていたのよ。」


(まるっきり存在忘れたなんて、言えない雰囲気だぞ?これ。

完全に俺が悪者ポジじゃねえか。……いや待て、普通に殺気出てね?)


黒髪のリリアは、嗤った。


「どうやって? 笑わせんなよ。本体様が好き放題やって、敵ばっか残して消えやがったせいで……俺は毎晩、刃の気配を枕にして生き延びたんだ!」


「……てめえは、覚えてねえだろうけどな。本体様」


――その瞬間。

セラフィーの指先が、かすかに強張った。


「……本体……様……?」


呟きは、ほとんど息に溶けるほど小さい。


金の瞳が、ゆっくりと――だが確実に、目の前の“勇者リリア”へと揺れた。

それは、主従の敬意ではない。

喉の奥に刺さった棘の名を、恐る恐るなぞるような響きだった。


(……違う。

あの目は――分身が本体に向けるものじゃない……)


セラフィーは、無意識に唇を噛んだ。

指に込めた力が、わずかに白く浮く。

黒髪のリリアが向けるそれは、明らかに、主へ向けるそれではなかった。

——むしろ、刃を測る者の目だ。

握りしめた剣の切っ先が、わずかに揺れた。

だが、その動揺に気づく者は、まだ誰もいない。


黒リリアは続けた。


「食うものがなくて、魔獣の血をすすった。

死んだ仲間の影に潜んで、朝を待った。

……それが三年だ。」


「皮肉なもんだ……そんな俺が、最近じゃこの国の近衛に採用されてよ。

“勇者を継ぐ者”なんて持ち上げられながら、毎日剣を振るってる。

笑えるだろ、本体様に忘れられた分身が、国に仕えてんだぜ」


(完全な男言葉かよ。俺そのものじゃねえか! なんで分身の方が“素”出してんだよ!)


低く荒んだ声が、氷を踏み砕くように響いた。


「分身? 笑わせんなよ。最初の俺は、てめえの十分の一も力がなくて、ただの抜け殻みたいなもんだった。

何も持たず、敵だけ押しつけられて……その地獄で生き残るしかなかった。だから、生きるために何でもやった」


「――あの時、てめえは俺を“見捨てた”んだよ。本体様」


黒リリアの瞳が、まるで凍てついた刃のように細められる。

周囲では、兵士たちが完全に思考を置き去りにされた顔で固まっていた。


「……え、分身?」


「本体って、どういう……」


誰一人として、この異様な会話に追いつけていない。


リリアは息を呑んだ。


(いやいやいや……お前、本当は“百分の一以下”。

深爪した時に落ちた爪で、たまたま作ったやつなんだけど!?)


(……無理だ。これは絶対に言えねえ。

真実は――墓まで持っていくしかねえ!!)


黒リリアは剣を突きつけるように構え、言葉を叩きつける。


「もう“分身”じゃねえ。俺は俺だ。てめえに忘れられても、てめえの代わりにこの世界で生き続けた、俺自身の生き様がある」


そのやり取りを、黒い霧の向こうからレオが静かに見下ろしていた。

魔王の息子は口元だけで薄く笑う。


「……くく。勇者が二人とは。

ずいぶんと都合のいい内輪揉めだな」


レオの指先に、黒い雷光が一瞬だけ弾けては消える。

愉悦を含んだ声が、戦場の空気をさらに冷やした。


谷を満たす空気が、さらに鋭く張り詰める。

黄金と黒、二人のリリアの視線が激突し、仲間たちの喉がごくりと鳴った。


(……うん。

やっぱり俺の人生、“深爪から始まる世界崩壊”で確定だわ……)


──満ちた殺気の中。

場違いな軽口だけが、颯太の胸の内で乾いた音を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ