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カレーは醤油 ~インドの記憶~   作者: そらら
醤油はカレー

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1898/1899

2023年6月24日(土) 焼きそば

6月24日(土)


 今日は土曜日。


 しかし、平和な週末を迎えるべき今日なのに、朝っぱらから鳴りやまないスマホのブルブル着信音で目が覚めた。


 電話の主は、友美だった。


「プリヤンカ! 大変なことが起きたのよ!」


「な、なに? どうしたの?」


 スマホの時間を見ると、まだ朝の5時。


「タミルナド州には現在アルコール専売公社タスマックが5,329ヶ所あるけど、その内500ヶ所を閉鎖することになったの。州政府与党のDMKが選挙公約で掲げたアルコールとの決別が未だに進捗していないと反対野党のPKMが異論を唱え、それに呼応する形でこうなったんだけど、高額酒税納税者の私たちのへの配慮の欠片もないわよね? そこで、今から反対決起集会をサマセットホテルの屋上ですることにしたから、今直ぐに来て! じゃあ」


 一方的に電話を切られてしまった。


 着信履歴を改めて確認すると、確かに友美から電話がかかってきたのは間違いないが、話の内容が上手く理解できない。


 ひょっとすると夢だったんじゃないか。


 そう信じ込んでベッドの中に潜ろうとした時、再び友美から着信があったのです。


「あ、ごめん。さっき言い忘れたけど、ソース持ってきて」


 また一方的に電話を切られてしまった。


 こうなると意味不明の先にある真実を確かめたくなってしまうのが人の性。


 仕方なく身支度をし、メイドのヴィーナにソースを用意させ、家からたった500mしか離れていないサマセットホテルへガンガーの運転するランボルギーニで向かった。


 ホテルのベルボーイが私の姿に気付くと、周囲を警戒しながら「こちらです」と、裏口へ案内し、そこから屋上へ通じるVIP専用エレベーターへ乗せてくれた。


 ますます意味が分からない。


 そして屋上に降り立つと、目の前に広がるインフィニティプールの横で、見知らぬ男性ふたりと友美が、私を待ち構えていた。


 ファンクと名乗る日本人男性はモヒカン姿で、日本の自衛隊の制服を着用し、ファイサルと名乗るインド人男性はボディビルで鍛え上げた鋼の肉体を白いタンクトップで辛うじて隠しながら、ボンレスハム顔負けの極太葉巻を豪快に吸っていた。


「遅かったじゃないか。早くこのミッションをコンプリートしなければ、500なんかじゃ済まない。もっと多くのタスマックが閉鎖されるぞ」


 ファイサルが吸っていた葉巻をプールの中へ投げ捨てると、それが合図と言わんばかりに、ファンクが鉄板に火を入れた。


 て、鉄板!?


 私は一歩も動けずにいる。


 しかし、友美が手際良く油を鉄板に垂らすと、ファンクが両手に持ったヘラでそれを平らに伸ばし、その上にファイサルが刻み野菜を投げた。


 ジューという音と共に湧きあがる白い湯気。


 でも、見とれているのは私だけ。


 友美が塩胡椒をパパっとかけると、ファンクがヘラで器用にさらに小さく刻んでゆく。


 そして、それらの野菜が鉄板中に均等に散りばめられたと思ったら、そこにファイサルが麺を乗せたのです。


「プリヤンカ! なにしてる! 早くソースをかけろ!」


 事態を理解できてないけど、ファンクが鬼の形相で怒鳴るものだから、身体が勝手に反応し、私は持参したソースをかけていた。


「ほほぉ、お多福か。ブルドックとはまた違った風味が楽しめるな」


 ファンクの口元に笑みが浮かんだ瞬間、私はこう尋ねていた。


「ねぇ、焼きそば作ってるでしょ? 焼きそばとタスマックの閉鎖と、どんな関係があるのよ?」


 すると、焼きそばが蒸し過程になったところでファンクはヘラを置き、ファイザルから葉巻をもらうと、鉄板の炎で着火させ、まるで魂が離脱したのかのように巨大な煙を吐いたのです。


「俺は、いつも焼きそばを食べる度に濃いソースの香りが喉を渇かせ、ビールを欲する衝動に胸を突かれるんだ。でも、今般、突如として閉鎖を言い渡されたタスマックの店主たちが動揺する姿を見て、奇妙な理屈が頭をよぎった。人々が焼きそばを食べ続ける限り、酒を求める声は絶えない。タスマックはその渇きを潤し、希望と勇気を与える。つまり、焼きそばがタスマックを救うのだと。これこそが焼きそばに秘められた力なんだよ」


 すると、ファンクも吸いかけの葉巻をプールに放り投げると、「仕上げにかかるとするか。良い子のみんなは真似しちゃダメだぜ」と言いながら、茶色の湯気を上げながらヘラで麺を豪快に混ぜ焼き、そして、紙皿に焼きそばを装った。


 と同時に、友美が青のりと紅生姜を添え、「はい、どうぞ」と私に渡してくれた。


「頬っぺたが落ちても、責任取らないからな」


 あっけに取られている私と、手の上で美味しそうな湯気を放つ焼きそば。


「なにをそんなにびっくりしてるの? これがインドでしょ? インドが理屈で説明できない国だって、しばらく日本に行ってて忘れちゃったんじゃないの? そんなんじゃ、自分の記憶、取り戻せないよ。あ、ファンクさん、私も食べる~」


 そう言いながら美味しそうに焼きそばを頬張る友美。


 ちょうどその時、インフィニティプールの向こう側から、素敵な朝日が顔を覗かせた。


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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