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カレーは醤油 ~インドの記憶~   作者: そらら
醤油はカレー

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1897/1899

2023年6月23日(金) アゲーチー

6月23日(金)


「み・な・さ・ん。こんにちは。輪廻転生もほどほどに~でお馴染み、異国のユーチューバーこと、プリヤンカです。今日は特別なゲストをお呼びしてて、プリヤンカちょっと緊張してます」


「ははは、私なんかに緊張しないでくださいよ」


「あ、ちょっと! 前振りしてから画面の前に登場頂くよう、さっき打ち合わせしたじゃないですか!」


 私の言葉と段取りを一切無視し、62歳とは思えない元気なステップで画面の前に現れ、ピースサインをするのは、在チェンナイ日本領事館のトップである田辺総領事。


 そんな重鎮にもかかわらず、積極的にチェンナイの日本料理店を飲み歩き、そしてチェンナイに住む日本人やインド人たちと公私に渡って交流を深めている。


 そして偶然というより必然に近い形で私も田辺総領事と知り合い、そして私のユーチューブ番組に出演頂いたのです。


「まー、そんな硬いこと言わず、気楽にいこうや」


 こちらの心配なんかアリの溜息以下とも感じさせない天真爛漫ぶりは、まるで日本の国旗のようにあっぱれの一言。


 そして「今日は公休日を頂いたからね」と言う通り、手には既に日本酒が入った升が握られていた。


プリヤンカ: 田辺総領事。本日はお休みもかかわらず、私のユーチューブにご出演頂きまして誠にありがとうございます。


田辺: いや、逆に休みじゃない時に出演したら、今時は大変だよ。「きゃー、あの人、国民の税金使って、ユーチューブで遊んでる」ってね。ユーチューブは今や重要な情報発信源。積極的に活用するべきなのに、日本人は真面目すぎて意外と柔軟性に欠けるから。


 うぃーと声を上げながら、升酒を口に含み、悦に入る。


プリヤンカ: ホント、その通りですよね。田辺総領事みたいに庶民的な感覚を持っている人が役人になれば、日本はもっと変わると思っちゃいます。


田辺: と思うでしょ? でも俺みたいな異端児は異端児なりに組織の端っこでヤジを飛ばすぐらいがちょうど良いんだよ。永田町の連中なんかホント頑固で融通利かないけど、でも実際に頭は良いし、誰かが割り込めないくらいに入念な下準備と根回しをする。これが日本の美徳と価値観の根底を築いているんだよ。


プリヤンカ: 入念な下準備と根回しですか。ひょっとすると、田辺総領事が今飲んでいらっしゃるお酒にも、なにか意味が込められているとか?


田辺: その通り! そうなんだよ。これ。日本を代表する神聖なる水、日本酒。最近お酒文化が広まりつつあるインドにおいて、日本の歴史と食文化を学ぶとても良い仲介役になろうって時に、日本酒に賦課されるインドの関税がアンフェイバーに働くことになったんだ。ホントに永田町のやつらは一体なにをやってるんだって。この怒りを鎮めるためには、日本酒飲むしかないでしょ。


プリヤンカ: 田辺総領事のお気持ちは分かりますが、あまりお酒を飲みすぎると、お体に障りますよ。


田辺: ありがとう。でもね、単にアル中みたくお酒を飲んでるだけじゃないんだ。どうすればこの状況を改善できるか、自分なりに作戦を考えた。そして、それをどこかでタミルナド州の方々に伝えたいと思ってたんだ。タミルの個の力を集結し、モディ首相率いる国の体制と戦う。だから、プリヤンカさんにユーチューブ出演しませんか? って声をかけられた時、これだ! って実は思ってたんです。


プリヤンカ: そうだったんですか! それで、田辺総領事が考えられた作戦って、どういうものなんですか?


田辺: タミルの神々を巻き込むことだよ。インドで広く信仰されているヒンズー教はなんでもかんでも地元神を取り組んでいった結果、今や3億柱も神がいらっしゃるとされている。モディ首相率いるBJPは北の神々を信仰する政党で、インド創生にも深いかかわりを持つラーマ神がその中心にいる。しかし、インド元来のドラヴィダ族が多く属するタミルにおいては、「はぁ? その神、誰なの?」って感じなんだよ。その逆も然りで、タミルで人気を誇るノンべジの神……いや、3億柱もいると、こんな種類の神もいるんだが、アマン神は北では「はぁ?」ってなるんだ。でも、モディ首相はこのように神の認識がインドで大きく異なることが、やがてはインドを分裂させるのではないかと懸念していて、あらゆる地元神を相互に尊敬すべきというお達しを秘密裏に出したんだ


プリヤンカ: 秘密裏に?


田辺: あぁ。そうしないと、イスラム教やシーク教など、他の神様はどうなんだって議論が沸き起こり、まるで収集が付かなくなるからね。それで、私はこのお達しに目を付けたんだ。というのも、タミルにはサーラーヤムという酒とたばこの地元神がいる。その神が日本酒好きということにし、日本酒への関税を軽減もしくは撤廃しなければ、それはタミル神へ対する冒涜とモディ首相に迫るんだよ。


プリヤンカ: かなり凄い作戦ですね。


田辺: タミル人の理解を得るまでに、相当の時間が必要だともちろん覚悟している。でも、始めなければいつまでも経っても状況は変わらない。だから、私は常日頃から升酒を持ち歩き、日本酒を美味しそうにする姿を見せ続けているのだよ。


プリヤンカ: 素敵です! 田辺総領事。私にもなにかできることありますか?


田辺: あるよ。本当は一緒に日本酒を飲んでって言いたいけど、それじゃアルハラになっちゃう。今の時代、色々とうるさいからね。だから、プリヤンカさんには「アゲーチー」って言葉を広めてほしいんです。


プリヤンカ: アゲーチー?


田辺: タミル語で「乾杯」って意味です。乾杯することを広めれば、それはお酒、つまり日本酒が広まることに繋がるからね。それじゃ、一緒にいくよ。


プリヤンカ: はい!


「「アゲーチー!」」



「ここまで見てくれて、みんなありがとう! いいなって思ったら、ちゃんと良いねボタンを押すんだぞ~。それじゃ、輪廻転生もほどほどに~」


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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