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カレーは醤油 ~インドの記憶~   作者: そらら
醤油はカレー

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1889/1899

2023年6月15日(木) こんな流れで良いんでしょ? ~後編~

6月15日(木)


「それでは、これからこのシンシアリーが醤油を使ったオリジナルカクテルを、みなさまに振舞わせていただきます」


 昨日、私が日本からのお土産として渡したカレーに合う醤油の数々。


 そのままカレーに混ぜてもいいが、醤油が苦手な私にとって、それはまた苦行でもある。


 でも、さち江さんから頂いた醤油をずっと手付かずにしてしまえば、消費期限の問題もあるだろう。


 そこでカクテルのしてみたらどうかなと淡い期待を込めて渡したところ、シンシアリーが本当に素敵なカクテルを作ってくれたんです。


「では早速作ってまいりますが、醤油を使ったカクテルは正直、とても珍しいです。醤油として飲用するというより、醤油をなにかの代わりに数滴加えることで旨味と塩味をプラスし、料理とのペアリングに適した和風カクテルにするようなレシピがメインになります」


・ソイマルガリータ


「テキーラ、ライム、トリプルセックを合わせたベースに、塩の代わりに醤油をほんの数滴加えます。爽やかなライムの味わいに、うっすらなのにしっかりとした塩味と旨味が生まれます。これは、いつも淡々としていながら、実はしっかり者の友美様をイメージしました」


・ソイブラッディマリー


「ウォッカ、トマトジュース、スパイスを混ぜたベースに、ウスターソースの代替として醤油を加えます。ねっとりと力強い風味は、シゲ様にぴったりだと思います」


・ソイマティー


「ジンとドライベルモットに醤油を少量加え、オリーブの代わりに昆布や海苔を添えます。全身を颯爽と駆け抜けるこの和のマティーニは、杏奈様のために作りました」


 想像を超えるシンシアリーの独創性にみんな驚いたのは当然だが、これらのカクテルが本当に美味しかったのです。


「シンシアリーって、マジで天才なんじゃね?」


 上機嫌なシゲ。


「実はしっかり者だなんて、ちゃんと分かってるわね、シンシアリー」


 恥ずかしそうに面々の笑みを浮かべる友美。


「颯爽と走り抜ける。まさにそれは私のことよ」


 その言葉通り、颯爽とグラスを一気してしまった杏奈。


 みんな本当に幸せそう。


 そして、いよいよ次は私の番。


「シンシアリー。私にはどんなカクテルを作ってくれるの?」


 すると、シンシアリーはテキーラのショットグラスを取り出すと、そこに醤油を並々と注いだのです。


「プリヤンカ様。あなたに必要なことは、純粋な醤油と向き合うことです。さぁ、心を無にして、醤油そのものの風味を感じてください」


 さっと私の前に差し出された醤油だけのショットグラス。


 私は反射的にそれを一気する。


 すると、醤油の匂いが口に広がり、その瞬間、胸の奥で複雑な感情がざわめいた。


 懐かしさと嫌悪感が同時に押し寄せる。


 はやし家でカレーの醤油和えが人気裏メニューにあったけど、結局カレーの強い風味が勝ってしまい、醤油の存在は不要に思えた。


 だからこそ、今こうして醤油を口にすると、カレーの醤油和えを食べる人々が幸せそうにしている記憶が蘇るのに、同時に、やっぱり好きになれないという拒絶が心を締めつける。


 懐かしいのに、受け入れられない。


 必要だと思えないのに、確かにそこにあった味。


 私の中で、過去と現在の記憶が絡み合い、醤油はただの調味料ではなく、矛盾そのものを映す鏡のように感じられる。


 私はその苦味と塩辛さの中に、記憶と違和感を同時に抱え込んでいるんだろう。


「プリヤンカ様。こうやって醤油と向き合うことで、あなたの中にある過去と矛盾が、少しずつ見えてくるのではないでしょうか。いや、見えてますよ。だって、あなたの右の瞳、まるで醤油のように素敵な黒に染まってますから。でも、しょっぱすぎるから、さすがにチェイサー飲んだ方がいいですよ」


 と言いながら、大き目のビールジョッキに氷水をたっぷり入れ、私に差し出してくれた。


「俺も、学生時代に合コンとかで醤油一気とかよくやってたぞ」


「「うわー、キモ」」


 勝手に盛り上がる3人をよそに、シンシアリーがこっそりと私だけにささやいたのです。


 - こんな流れで良いんでしょ? -


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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