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カレーは醤油 ~インドの記憶~   作者: そらら
醤油はカレー

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1887/1899

2023年6月13日(火) 羊羹をカレーに入れる

6月13日(火)


「ちょっと。私がオーダーしたチーズオムレツがまだ来ないんだけど。どうなってんのよ。私、ここの常連だって知らないの?」


 ブレックファスト会場が終了する10時ギリギリにテーブルに着いたものだから、スタッフたちは既に手じまいモードで、せわしなく動き回っている。


 しかし、そんなことを一切無視し、杏奈はゆっくりと紅茶を飲み、優雅にチーズオムレツをオーダーしたものだから、それが忘れられてしまっていたようだ。


「あたしってね、必ず朝にチーズオムレツ食べるの。そうしないと、なんて言うのかな……潤滑油が欠けたエンジンみたく、身体と心の動きがぎくしゃくしちゃうのよ」


「分かる。私の場合、ヤクルトなの。これを飲まないと、身体の細胞が起きないんだよね」


 そんなこんなで盛り上がってしまい、結局私たちはそのままランチタイムまで居座ってしまったのだが、その時、私たちのスマホが同時にメッセージを着信したのです。


 - みなさま。昨晩は大変ご迷惑をおかけしました。バンガロールからチェンナイへ向かうフライトを有料ですが優先的にご案内させていただきます。お詫びにみなさまにはナッツを無料でご用意しますので、もしよろしければご利用ください。 インディゴ航空 -


「「は!? ウケるんだけど」」


 昨日の代償がナッツのみ、且つ、フライトが有料というのがいかにもインドらしいとふたりで大爆笑しながら、お詫びのナッツがどんなものか見てみたいよねと、予約することにした。


「夕方17時のフライトまでまだ時間があるから、もしよかったらちょっと付き合わない?」


「ん? 別にいいけど、どこ行くの?」


「IT企業大手のウィプロ。インドって車で通勤する人が多いけど、実技を習わずに申請するだけで簡単に運転免許を取れちゃうから、事故って大変なことになっちゃう社員も多いのよ。すると属人的にシステム開発してるプロジェクトが遅延し、会社としても大きな金銭的被害を被っちゃうの。だからウィプロは福利厚生の一環として社員に安全運転とドライビングテクを無料で教えてるんだけど、その教官のひとりが私なんだ。そんな教官ヘッドのディーパックから日本でお土産買ってきてって頼まれたものがあるから、それをサクッと届けたいの」


 もちろんノーチョイスでスウィフトに乗り込むと、昨晩のモンスーンによってなぎ倒された木々、水没車によって大渋滞した道路を、まるでミニカーを操るかのように杏奈はスイスイ運転してゆく。


 割り込もうとするバイクに対しても轢き殺さんばかりの勢いで迫るので、いつしか道路は完全に杏奈の支配下になった。


「バイク轢いちゃったら大変じゃないの?」


「へーき。あんなの邪魔だし、気使ってたら、いつまで経っても前に進めないわ。それにしても水溜り、すっごいわね。これ、バンガロールの土地開発が絶対影響してる。かつてはこの町に400の池があり、それが貯水池代わりになってたんだけど、その半分を埋め立ててマンションにしちゃってるんだから。結果として直ぐに道路が冠水して大渋滞。それに不動産の価格も高騰しちゃって、平均的な2ベッドルームの月額家賃が15,000ルピー※からここ数年で50,000ルピーになっちゃってんのよ」(※1ルピー≒1.7円)



 そうこうしている内に、あっという間にバンガロール市内の南東に位置するウィプロへ到着。


 受付のセキュリティスタッフたちに軽く挨拶し、いざキャンパス内へ入ると、素敵な芝生の上で本を読んでいたり、オシャレカフェで歓談したりと、それはもうアメリカの大学そのものだった。


「本当に大学みたいだよね。大学生って社会人と違って希望と発想力に満ちてるでしょ? その思いを失ってほしくないからって、大学の雰囲気を再現してるんだ。しかも本社のことをキャンパスって呼んだりしたりね。あ、知ってる? インド人って大学時代にベジからノンべジになる人が一番多いんだよ。それに、そこら中でナッツが売ってるけど、あれってべジの人が食にありつけなかった場合の非常食を兼ねてるんだよ」


 杏奈って、さすがに旦那(元旦那になるのかな?)がインド人だけあって、すっごい物知り。


 これからも仲良くさせてもらい、たまには私のユーチューブにゲスト参加してもらいたいな。


「दीपक जी, बहुत दिनों बाद मिल रहे हैं। यह आपका तोहफ़ा है — जापानी 'यो-कान'(ディーパックさん、ご無沙汰してます。これがお土産の羊羹です)」


「अगर आप करी में 'यो-कान' डालकर खाएँ, तो बहुत स्वादिष्ट लगेगा(羊羹をカレーに入れて食べると、美味いんじゃぞ)」


 え? 


 羊羹をカレーに入れちゃうの? 


 私も相当カレー好きだけど、まだまだカレーの奥行きと深みを知る必要があると感じた瞬間、言葉通り、杏奈はサクッとディーパックに別れを告げた。



 バンガロール空港まで向かい、駐車場に車を停めたはいいが、インディゴ航空は予想通り2時間遅延することが判明。


 そこで、空港駅前にあるチキン料理店のバッファローウイングでビールでも飲みながら時間を潰すことにした。


 ここに来たのは初めてだったが、辛さ選べるという割に、ノーマル以外の辛さは選べなかった。


 お店のスタッフによれば、昨日のモンスーンにより、必要な調味料が届いてないんだとか。


 しかしメインはビールだったので、全く問題ありませんが。



 いよいよ機体に搭乗し、あとはしばし睡眠と思いきや、隣に座るインド人によって異次元の世界へと誘われてしまった。


 凄かったんです。


 体臭が。


 体重はおそらく120㎏以上あり、万年汗かき状態であるのに、なぜかタンクトップなんです。


 そして脇汗が気になるらしく、頻繁に腕を上げるものだから、その度に殺人臭が周囲に放たれるのです。


 最初はしかめっ面をする余裕もあったが、終いには半ば気を失ってしまったのです。


 気が付けばチェンナイに到着しており、楽しみにしていた特典のナッツをもらい忘れてしまいました……


 でも、杏奈という知人ができたことは、間違いなくナッツ以上の収穫です。


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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