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カレーは醤油 ~インドの記憶~   作者: そらら
醤油はカレー

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1886/1899

2023年6月12日(月) インドのカオスに飲み込まれる

6月12日(月)


 インドに戻るや否や、インドのカオスに飲み込まれてしまった。


 というのも、デリーから私のマンションがあるチェンナイに向けて飛び立ったビスタラ航空であったが、突如発生したモンスーンの暴風と雷霆により、エンジントラブルが発生。


 急遽バンガロール空港へ緊急着陸をする羽目になってしまったのです。


 しかも時刻は夜の23時半だというのに、ここで全員飛行機から降ろされ、あとはご自由にどうぞと言うではありませんか。


「まじ最悪なんだけど」


 しかし、周りのインド人たちは一斉にビスタラ航空のスタッフに詰め寄り、まるで餌を求める雛鳥のようにピーピー騒ぎ始めた。


「こんな時間にどうしろっていうんだ!」


「こんなモンスーン如きに屈するのは、インド人としての恥! 気合を入れれば飛べるぞ」


 なんとも逞しいインド人たちであるが、無理なものは無理。


 私はそんな集団を置き去り、バゲージクレームでスーツケースを受け取ると、あてもなく出口方面へ向かった。


「やっぱ、いないよね……」


 ひょっとしたらチェンナイ空港でピックアップをお願いしていたガンガーがよく分からない特殊能力を発揮してバンガロール空港にいるのではないかと期待したが、そんなことはなかった。


 そして、あまりに激しいモンスーンなので、タクシーは1台も待機していなかった。


 途方に暮れ、さぁ困ったとタクシー乗り場でペタンと座り込んでいたら、私の目の前に赤い小さな車が爆音を上げながら停車したのです。


 すると、助手性の窓がススーっと開き、予想もしなかった言葉を耳にしたのです。


「ひょっとして、プリヤンカだよね? 私、あなたのファンで、お気に入り登録させてもらってるの。この天気じゃ、タクシー来ないよ。送ってくから、早く乗りな」


 そう話しかけてきたのは、杏奈と名乗る日本人女性だった。


「え? いいんですか?」


 私にはノーチョイスだったし、杏奈の好意に甘えさせてもらうことにした。


「杏奈さん、本当にありがとうございます。私、杏奈さんからお声がけしてくれなかったら、あのタクシー乗り場で一夜を過ごしてたと思います」


「いーのよ。気にしないで。それに、こう見えても、あたし、プリヤンカと同い年の26歳なの。だから、敬語じゃなく、タメ語にして」


「うん。分かった。じゃあ、そうさせてもらうね。で、杏奈はバンガロールに住んでるの?」


「違うよ。プリヤンカと同じチェンナイ。私、今から4年前、大学の卒業旅行でチェンナイを訪れた時に出会ったとっても優しいインド人に一目惚れして、その1ヶ月後に国際結婚したの。就職が決まってた富士山電機の内定も断ったし、親からも勘当されたけど、その彼と一緒なら魅惑のインドでなんでもできると思ったの。でも、結婚して2年目を過ぎた辺りから、彼の感情が一変したんだ。『お前はなんで料理に醤油なんか使うんだ』『カーストの苦しみを知らない者が、インドを知ったかぶりすんじゃない』『お前の日本人としての目つきは、インド人の俺をどこかで馬鹿にしてる』って怒声を上げながら、何度も殴られたんだ。でも、今は感情が整理できてないだけと信じ、なんとかそこから1年は耐えたんだ。だけど、彼に思いっ切り子宮辺りを蹴られ、あそこから血が流血した時、こんな人に私が子孫を残す権利を抹殺されるのは勘弁と、離婚を申し立てたの。そしたらもっと発狂してね。なので、しばらく日本の実家に戻ってたんだ。でも、そろそろ離婚調停の結審が出るからって、チェンナイに戻ろうとしたら、こんなことになってね。私、実は趣味でカーレースやってて、そのコースがバンガロール空港の近くにあるから、実はずーっと車を空港の駐車場に止めてんのよ。それがこの愛車。あ、違法駐車とかじゃなくて、スポンサーが駐車場代払ってるからね」


 言われてみれば、車高は一般車両より低いし、ウィングもあるし、軽量化を目指すために余計な内装がこの車にはなされていない。


 そして、そんな機能性を有した小さな赤い車は、モンスーンなんか眼中にないように暴風雨のバンガロールの町中を疾していった。


「ところで、どこまで送ればいい? やっぱりチェンナイ?」


「うん……だけど、こっからだと普通に8時間かかるし、今日だったら10時間……いや、途中の道が冠水して到着できないかも。だからその辺のホテルでいいよ」


「じゃあ、私がルネッサンスホテルのダブルベッドルームを予約してるから、泊まってきなよ。別にひとりでもふたりでも値段は一緒なんだし」


 というわけで、さっき会ったばかりの杏奈と一夜を供に過ごすことになったのです。


「「お疲れ様~」」


 ホテルにチェックインし、メイクを落とし、ようやく晩酌の体制が整った頃には、夜中の25時を回っていた。


 なのに、部屋の冷蔵庫からビールを取り出し、そして絶対に胃がもたれるでしょという私の助言を無視してまで、杏奈はココナツライスと、それになぜかベビーフードをルームサービスでオーダーした。


「知ってる? ココナツライスを食べてからお酒を飲むと、二日酔いにならないんだよ」


 そうなの? 


 まるで知りませんでした。


「でも、ベビーフードってなんなのよ? ギャグのつもり?」


「違うよ。ベビーフードを食べるとぐっすり寝れるって、知らないの? 古代ローマ帝国のカエサルが始めたんだよ。ほら、騙されたと思って食べてみなよ。あーん」


 インドに戻った初日からこんなカオスに遭遇するとは……


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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