表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カレーは醤油 ~インドの記憶~   作者: そらら
醤油はカレー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1879/1899

2023年6月5日(月) 帝釈天

6月5日(月)


「私、なんだか頭がおかしくなってるんだわ」


 部屋の格子窓から差し込む朝日の光に、昨日、私を打ち抜いた雷霆らいていを思い出す。


「帝釈天の本堂から雷が放たれるなんて、あり得るわけないじゃない。もしこれが事実だったら、私は丸焦げになって即死してるし!(笑) それに、あの声が本当に聞こえたんだったら、周囲の人だって聞こえなとおかしいでしょ? となると、考えられる理由はただ1つしかないわ。そう、私の頭がおかしくなって、幻聴を聞き、幻覚を見てるってことよ。きゃー」


 自分で冷静に言っておきながら、その結論があまりに衝撃的なので、私は叫ぶしかなかった。


 叫ぶだけじゃない。


 まるでおもちゃを欲しがる子供のように布団の上で手足をバタバタとさせたのです。


「きゃー、きゃー。私は頭のおかしいプリヤンカ~きゃー!!!」


 すると、ギーギー階段を軋ませながら、さち江さんが現れたのです。


「プリヤンカ! あんたいい加減にしなさい! 下のお店でお食事されていらっしゃるお客様に迷惑でしょ!」


 そして、私の頬をぴしゃりと平手打ちしたのです。


 優しいさち江さんから受けた愛の鞭で、ようやく私は素に戻ることができた。


「さち江さん、すいません。なんだか、昨日、柴又帝釈天に行って、変な体験をしたんです。しかも私だけにしか起きない、不思議な内容だったんです。柴又帝釈天って、なにを祀ってるお寺なんですか?」


「私こそ手を上げたりしてごめんなさい。でもお客様あってのはやし家だから、それは分かってちょうだい。昨日はあまり詳しく聞かなかったけど、やっぱりあなた、嫌なことがあったのね。そしたら今ちょうど柴又帝釈天のご住職であられる亨貞院日敬様がお食事されてるから、帝釈天のことについて直接お話してみたら?」


 さち江さんに促されるように下へ降りると、ちょうと亨貞院日敬が箸でカレーの醤油和えを食べているところだった。


 その箸捌きは人間国宝レベルで、まるでインド人が手で食事を終えたかの如く。


 箸を置いた時には、テーブルの上にピカピカのお皿があるのみだった。


「おはようございます」


「やあ、プリヤンカ。すっごい久しぶりじゃないか。さち江さんから聞いたぞ。お主、今はインドにいるらしいじゃないか。以前はちょくちょくお寺にも来てくれてたから、うちの若い住職たちが寂しがって仕方ないぞ」


 やっぱり、以前のプリヤンカはちょくちょく柴又帝釈天に行って、みんなとお話なんかもしてたんだ。


 今の私には、目の前にいる亨貞院日敬自体が初めての存在なんだけど、そんなことも言ってられない。


 ここはユーチューバーとして鍛え上げたコミュニケーション能力を発揮して、上手く話を合わせないと。


「そうなんですか。っていう私も、寂しかったんだから、おあいこですよ。ところで、亨貞院日敬様。私、インドに住み始めて、改めて日本の古き良きものの素晴らしさをもっと知りたいと思ったんです。もしよかったら、改めて柴又帝釈天について教えていただけません? 例えば、どんな神様を祀っているのかとか」


「プリヤンカ。お主、あれだけ通っていたくせに、お祀りしている帝釈天のことを知らなかったのか? こりゃ呆れたわい。まぁ、よい。それではちょいと長くなるが、しばし聞くがよい。帝釈天は仏教における守護神の一尊で、天空神の中でも特に重要な存在であるが、元々はインド神話の『マハーバーラタ』や『リグ・ヴェーダ』に登場するインドラ神が仏教に取り入れられた姿なんじゃ。梵天と並び、二大護法善神ともされている。帝釈天は世界の中心にある須弥山の頂上、忉利天とうりてんに住むとされ、白象に乗り、手に金剛杵こんごうしょという武器を持つと信じられている。実際、我が本堂で祀られている帝釈天像はゾウの上で胡坐をかかれていらっしゃるよ。でな、その帝釈天の特徴は主に2つある。1つは、雷じゃよ。先ほどの金剛杵は雷を象徴する武器とされ、強烈な雷をドーンと放ち、敵をなぎ倒す。その強さは類稀で、四天王などを従え、阿修羅との戦いに勝利したほどなんじゃ。その強さゆえ、仏教では釈迦如来を守護する存在とされておるのじゃよ」


「雷をドーンと放つの?」


「あぁ、そうだとも。そんなものを人が喰らったなら、まぁ、間違いなく肉体的には一瞬でこの世から消え去るだろうよ。でも、あくまで伝説の話じゃ。だから、精神的におかしくなって、きゃーきゃー騒ぐだけかもしれんしな」


 そ、それ、後者の方! と言いたくなったが、もちろん黙っていた。


「それと、もう1つの特徴は……」


 この時、ガラガラとはやし家の扉が開き、柴又帝釈天の住職が現れたのです。


「亨貞院日敬様。もうそろそろ定例読経会が始まります。みんなもう揃っておりますので、お早めにお寺へお戻りください」


「あぁ、そうじゃったな。分かった今すぐ行く」


 急いで身支度を整える亨貞院日敬。


「プリヤンカ。話の続きはまた後日じゃ。もしよかったら、今度は帝釈天の本堂で話さんか? その方が雰囲気も出るしな。お主が来たい時に来ればいいさ。それじゃ」


 そう言いながら、やはりガラガラと扉を開けて、はやし家を出て行った。



 - インドラの世界をボートで漂流した記憶のない女性がいるって、本当ですか? -


 ()()()()


 柴又帝釈天に重要なヒントがあることは、間違いない。


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ