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41話 仲直りっていうのかな

(相変わらずだな……。)


テトラはフロント前のソファに腰を下ろして、その横にある窓から外の景色を眺めている。どちらかと言えば子供っぽい見た目をしている彼女は、このときだけは随分大人びて見える。


いつの間にやら俺やマコモとは話す仲になっていたが、テトラが俺達以外の人間と話している様子は見たことがない。

多重人格ゆえ他人と距離を置いて生きてきた彼女にとって、自分から友達を作るのは至難の業なのだろう。思い出してみれば、彼女は俺に友達の作り方について質問してきた少女だ。


テトラは怒りや苛立ちばかりを表に出すことが多く、実際のところ分からないことが多い。

彼女の強さとその未知数な部分に、俺は憧れたのかもしれない。


……もし彼女の全てを知ることが出来たとき、俺は彼女にどんな感情を抱くのだろうか。

まあ、そんなのは考えたって仕方のないことだが。




1分ほどして、俺は決意を固めた。

息を大きく吸って、扉に手を掛ける。

「ふう〜………」

玄関のガラス戸を引いて中に入り、ホテルのフロントの前を通った。


俺の足はテトラのいるロビー……を左に見ながら通過して、その先の通路で止まった。


誰もいないのを確認して俺は再び大きく息をついた。


「この臆病者《チキン》がっ………!」


ただ通りすぎただけなのに、口の中はカラカラだった。

俺の中の『振り逃げ王子』を憎んだ。ただ………今まで感じたどの緊張ともそれは違っていた。


「このままで……いいのかよ。」


昨日の感情をむき出しにしたテトラを思い出した。

悲しみや苦しみを全身に表した彼女は今までになく生き生きとしていた。それは他でもない、「テトラ自身」の感情によるものだった。

俺なんかが言えることではないが、彼女は少しずつ前に進んでいる。


(……俺も前に進まないとな。)


ジャージの襟を整えて、俺は踵を返した。


「ふー………テトラ。」

やや遠目から俺が声を掛けると、彼女は猫のようにびくっと跳ねてこちらを向いた。


「なに……?」


「えーとだな、えー……。」


「………。」

テトラを誘う口実を考え忘れていた……が、すぐに頭の中に良い案が浮かんだ。


「んっ…と……一緒に散歩しないか?」


「えっ?」

彼女は目を丸くして俺の顔を見た。


「私が……あんたと?」

そう言った後、彼女は視線を右往左往させながらもごもごと喋り始めた。

「ど、どうしてもっていうなら別に良いわよ………けどっ、あんまりくっついて歩かないでよ! 勘違いされるから!」


「よし、じゃあ行こう!」

俺はひとまず胸を撫で下ろした。だが何故彼女が顔を赤くしているのだろうか。

もしかしたら、「照れ臭い」のかもしれない。そう考えれば、先ほど俺が感じていた緊張もそんな気持ちに近かったような気がしてくる。



俺は彼女とともに、外に出た。

マコモは入り口のすぐ前まで来ていた。


「……お疲れヒーロー。」


「これで信じてもらえたか?……」


「……もちろん。おふこーす。」


「おっし!それじゃあジンも探しがてら散歩に………ん?」

振り向くと、ぽかんとしてその場に立ち尽くすテトラが目に映った。


「マコモも一緒……?」


「うん。あ、そう言えばマコモもいるって言ってなかったな。」


「そう。」

テトラはやや声を落としてそう言った。その顔は不機嫌そうだが、いつものあの表情とは少し違ったりどちらかと言うとふてくされているように見える。


「………嫌だった?」

俺はまた何かやらかしてしまった時のような気分になり、たまらず聞いた。


「…………。」

テトラはつま先でトントンと地面を蹴ったり手を後ろで組んだり視線を下に向けたり……いつもと様子が違う。


「……ご不満等ございましたら申し付けを、ヘクター。」


「えっ!?……べ…別に不満なんてないわ!行くならさっさと行きましょう!」

テトラは気色ばんでそう言うと、踵を返して肩を怒らせながら早足で歩いていってしまった。


「……ヘクター、そっちじゃない。こっち。」


マコモの声に反応したテトラは立ち止まり、再びくるりとこちらを向く。彼女の顔は、先ほどより一層紅潮していた。

恥ずかしさのあまりか身動きが取れなくなっているテトラに、マコモが駆け寄った。

そして彼女の手をぎゅっと握った。

「あっ……。」


「……行こう、ヘクター。」

おどおどするテトラの手を引いて、マコモが歩き始める。


俺がその様子をまじまじと見ていると、彼女はその視線に気づいたらしく慌てて弁解を始めた。

「ちっ、違うからエイユウ! 私はただマコモの厚意に甘えてるだけで……とにかくそっち方面の趣向はないから!」


俺が言葉を返すより早く、マコモが口を開く。

「……それは私も同じ。だから全く問題ない。じゃあ、出発。」


「うう………。」

テトラは恥ずかしそうにしていたが、マコモの手を振りほどこうとはしなかった。




1時間ほど山の中を散策したのち、俺たちは合宿所に戻った。

道中、ひとり白髪をたなびかせるジンを見つけたが………


「風が変わった……。」

どうやら中二心が風にくすぐられていたらしく、声を掛けようにも掛けられなかった。



**********



――散歩を終えたその夜は、8月とは思えないほど涼しかった。


(あれ……。)

中村先輩を中心にトランプで盛り上がっている男子部屋の隅で、俺は今日のことをぼんやりと振り返っていた。


(俺、普通にテトラと喋ってる……。)


今考えてみれば、不思議で仕方なかった。特に仲直りしようと切り出したわけでもないのに、いつの間にかすっかり修復されている。

今までの苦労は何だったんだというくらいあっさりしていて、仲直りをしたという実感がまったく湧いてこない。


(まあ、いっか。)


窓の外から見える夜空には、小さな月が力強く輝いている。


(テトラが元気なら……それで。)













ありがとうございました。

これからこのように更新頻度が落ちたりすることが多くなるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。

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