14話 クラス交流戦4 〜番狂わせの少女〜
収穫を得て寮に戻った俺は、興奮が冷めやまぬうちに、さっきの「成長」の要因は何だったのか思い出すことにした。
「……と言っても無意識に剣を振っただけだからなあ。」
皆目見当がつかない。
このままでは話が進まないので、とりあえず昨日撮影したテトラ・ヘクターvsエリック・トンプソンの試合を見返すことにした。
「あのシーン」を見直したいな――
電源を入れ、画面にテトラの姿が映る。
早送りして「あのシーン」が起こった原因を調べたかったが、試合開始直後からテトラの妙技連発だったので、思わずじっくり見入ってしまった。
試合の流れの中で、「あのシーン」は突然訪れた。
「おっと、巻き戻し巻き戻し………よし、ここだ。」
俺は小さな画面に目を凝らした。
トンプソンが大きく振りかぶり、剣を振り下ろす。
テトラは姿勢を低くして攻撃に対して構えた。
……が、トンプソンはそのまま前によろけてしまった。
俺は一時停止ボタンを押した。
「あいつ、しっかり踏み込んでたのにな……」
俺はこのシーンに強い違和感を感じていた。トンプソンは細身ではあったが、テトラを上から押さえ込むパワーがあった。
何故あんなところで転んでしまったのか……
数分悩んだが、その疑問はすぐに解消された。
「おっ?……なーんだ、スロー再生できるのか。」
早速今のシーンをスローにして、ゆっくりじっくり原因を探った。
そして見直すこと数回目………
「ッ!……これか!」
ついにその原因を見つけた。そして同時に、ある考えが頭に浮かんだ。
「これならもしかして……俺でもいけるかも……?」
**********
クラス交流戦3日目――今日は俺の試合は入っていなかったので、撮影に集中することに決めていた。
昨日のテトラの行動についての報告を忘れていたため、今朝校長に「退学勧告……かな?」と脅され少し不安になったが、平常心を保って水星館に入った。
水星館の中は騒がしい。ただ、今日の騒がしさは昨日や一昨日とは何か違っていた。
館内を見渡すと、ある場所に人だかりができていた。
「何だろな………。」
覗くように人込みの中心を確認してみる。
そこにいたのはテトラと、銀色がかった短髪がよく目立つ小柄な少女だった。
「……何やってんだ…!?」
俺は人込みの間を縫って、騒ぎの中心に近づいた。
どうやら喧嘩……とまではいかないが、ちょっとした口論になっているようである。
「へぇ、もう一回その言葉言える?」
テトラが喧嘩腰で少女に言う。すると、
「………倒す。ヘクターを倒す。」
テトラよりさらに一回りほど小さな体から放たれた言葉に、群衆が再びどよめく。
「宣戦布告?悪いことは言わないわ。今すぐ撤回した方が良いわよ。」
「………しない。マコモに二言はない。」
「その様子だと、相当自信があるみたいね。それならこっちも、それなりにやらせてもらうわ。」
「………楽しみにしてる。」
そう言うと二人は、群衆を押し退けるようにしてその場から去っていった。
「………「マコモ」って言ってたな。」
確かそんな名前がテトラと同じのリーグの中にいたような気がしたので、俺は連絡用端末で試合表を確認してみた。そして驚愕した。
「真宮真菰……A組35人中29位!?」
29位。それは俺ほどではないものの、間違いなく下位だ。テトラに宣戦布告する人間がいる地点で驚きなのに、まさか29位がそんな事をするなんて。
とりあえずあの子の情報を集めるため、周囲の話を盗み聞きしてみた。
「……テトラさんって最近よく喋るな。」
「にしてもあの銀髪の子、身長の割にすげぇ胸でかくね?」
「テトラさんにもあのくらいあったら最高なのにな〜。」
「馬鹿野郎!控えめだから良いんだろうが!」
大いに共感できる部分もあるが、俺が今知りたいのはそういうことじゃない。
他を当たって(盗み聞きして)みる。
「お前、あのちっちゃい子と同じクラス?」
「うん。でも真宮か……あいつ剣術訓練のとき何回か見てたけど、結局能力はよく分からなかったなあ。負けるかな?って思った奴に勝ったり、これは勝てるだろ、って奴に負けたり………印象としてはそんなくらいだな。」
「秘策でもあるんじゃないか?例えばこの日のために能力をつかってなかったとか………」
結局、彼女についての情報は曖昧なものばかりだった。
しかし、あの眠そうな瞳の銀髪少女が絶対王者に対してどう戦うのか……。
先程の宣戦布告はハッタリか、それとも……
何にしろ、面白くなりそうだ。
彼女らの口論が騒ぎになったこともあり、Aコートには多くの生徒が集まった。
コートに現れた例の二人は、すでに視線で牽制し合っている。
そして、勝負が始まった。
『始め』
「はああああっ!抜刀!」
審判の合図とともに、テトラは電光石火の如く先制を仕掛けた。
カキイィンッと、金属がぶつかりあう音が響く。
「おおっ!」
「反応してるぞ!」
真菰というあの少女は、鞘に入ったままの剣でテトラの一撃を防いでいる。宣戦布告するだけはあるな、と一瞬思ったが……
「はっ!」
掛け声とともにテトラが薙ぎ払うと、そのままコートギリギリまで吹っ飛ばされてしまった。
よく見ると、マコモは既に息切れしている。
(えええええー!?宣戦布告しといてそれかよ!?)
所詮29位か、と思ったその瞬間だった。
「………抜刀。」
彼女が剣を抜いた。するとその剣はみるみるうちに巨大化し、最終的には彼女の身長ほどの大きさになった。
(巨大化……ディミトリと同じタイプか?)
マコモは静かに言った。
「………ここから本番。」
「そうこなくっちゃね。」
テトラはいつになく楽しそうな表情をしていた。
**********
まだ試合は続いていたが、会場は静まり返っていた。
誰もが予想だにしない展開となっていたからである。
「はあ……はあ……このっ!」
テトラが剣を舞うように振ると、爆炎が龍のごとくマコモに襲いかかる。
「………えいっ。」
しかしその火炎龍は、マコモが大剣をバットのようにスイングすると、霧のように散った。
(おいおい嘘だろ………!)
炎、氷雪………テトラの攻撃はことごとく粉砕されていた。
「はああああっ!」
テトラがこの試合何度目かの接近戦を試みる。しかし、
「………よっ、えいっ、とうっ。」
テトラの神速の剣技はすべて防がれている。
(あいつ……テトラと同じくらい立ち回りが上手い…!)
まさかテトラと同じステップを踏める人間がもう一人この学園にいたとは。しかもあの大剣を持ったまま……!
再びテトラが後ろに飛び退き間合いをとる。
「ハア……ハア……何で……」
テトラ自身も、今起こっている事実が信じられないといった様子だった。
「………そろそろ決着。」
そう言うと、マコモがテトラに向かって猛スピードで突進した。
それに対しテトラは剣を振るい突風を発生させる。
「くっ!」
苦し紛れに放たれた突風はマコモに当たった……かのように見えた。しかし突風はマコモの剣に当たると、そのままテトラの方に跳ね返っていった。
「………ジャストミート。」
「きゃああっ!………うう……。」
テトラは水星館の壁に叩きつけられ、地面に落ちた。
審判の教師は一時唖然としていたが、すぐに決着のコールを行った。
『……そこまでっ。勝者、真宮真菰!』
会場から歓声はあがらなかった。俺を含めここにいる全ての人間が、彼女に対して恐れ戦いていたのだ。
マコモは試合が終わっても、その場から一歩も動かなかった。
(……勝利の余韻にでも浸ってんのか……?)
しばらくすると彼女は、骨を抜かれたようにへたっと倒れてしまった。
「……お、おい!?」
「大丈夫か!?二人とも!」
ようやく群衆が動き出し、二人の救助に向かったその時だった。
「待て。」
突然、聞き覚えのある声が場の空気を制した。
そこに現れたのはA組1位、中二病のジンだった。
ご拝読ありがとうございました。
次回の投稿はやや遅れるかもしれません。




