13話 クラス交流戦3 〜2日目の放課後〜
テトラの多重人格設定はまた後々の話で出てきます。
テトラの監視を任されていることもあり、クラス交流戦2日目の放課後、俺はテトラを探していた。
「どこ行ったんだろ……厄介なこと起こしてなければ良いけど。」
俺は彼女の1日の行動……特に授業以外での行動を放課後ギリギリまで観察し、校長に報告しなければならない。
理事長から軽く請けてしまったが、中々面倒な仕事である。
「言ったでしょ?騒動起こすつもりは無いって。」
「分かってるけど、退学にも関わってくるからサボる訳には……ってうおおっ!?」
背後からの声の主はテトラだった。
緑色の瞳を冷淡にこちらに向けて、不満げな表情をしている。
「驚きすぎ。よくそんな精神力で『剣士』になろうと思ったわね。」
「なっ………!」
クラス交流戦初日の怒りが蘇ってきたが、今日、A組トップのジン・アラバスターに精神力の強さを見せつけられた事もあり、何も言い返すことができなかった。
「強くなるために撮影するのも良いけど、あんた自身の戦績はどうなの?」
カメラの持ち込みが彼女に知られていたことはさておき、俺は正直に答えた。
「……全敗だよ。」
「…悔しくないの?『ペンタグラム』に出たくないの?」
「悔しい……けど今は研究して練習して学ぶしかない。それに、まだ『振り逃げ』もしてないしな。」
自分の中では『振り逃げ』せずに試合をやりきれているだけで、十分な成果であった。
「俺はテトラみたいに才能もない。それにまだ1年生だ。焦らなくても来年の『ペンタグラム』が…ぐぅっ!?」
テトラが俺の胸ぐらを掴んだ。その彼女の瞳には、教室で見たときよりも更に強い怒りが浮かんでいた。
「っ……何を……」
「…来なさい。私があんたに剣術を叩き込んであげるわ!」
そう言って彼女は、俺をそのままどこかに引きずっていった。
着いた場所は、背の高い雑草が生い茂る空き地のような場所だった。曇天のせいで、廃墟のような不気味さが際立っている。
「学園内にこんなところがあったとはな……。」
「入るわよ。」
そう言って彼女と俺は、草を掻き分けて空き地へと入っていった。
そして彼女は俺に対するような位置に立つと、剣を抜いた。
「ちょっ!ええっ!?」
「さあ……あんたも剣を抜いて。大丈夫、最悪三枚におろす程度だから。」
「何か前にも聞いたぞそのフレーズ!っていうか」
俺の言葉を最後まで待つことなく、彼女は斬りかかってきた。
何とか剣の柄を掴み、彼女の剣を間一髪のタイミングで防いだ。
「剣を抜きなさい……って言ったよね?」
「俺の剣の能力知った上で言ってんのか……俺は『振り逃げ』しかできないんだぞ!」
強気で言い返したつもりだが、俺の腕は恐怖で震えていた。
彼女がもう一度強振すると、俺の手から剣が吹き飛んだ。
「俺に何させるつもりだよ……」
「……能力をコントロール出来るようにさせるわ。あんたのその瞬間的に逃げる能力、移動距離を調整できればきっと「あんただけの剣術」ができる……。」
俺は唖然としてしまった。この学園一の少女は一体何を考えているのだろうか?
「……気持ちは嬉しいけど、俺にに時間を割くだけ無駄だ。テトラには『ペンタグラム』が」
「あんたの為じゃないっ!その自虐的な性根が腹立つから叩き直してやりたいのよ!」
テトラは激昂した。怒りの理由は自己中心的極まりなかったが、彼女の表情からは清々しくまっすぐな意志が伝わってきた。
「さあ…剣を拾って抜刀するのよ!」
完全に怖じ気づいた俺は、彼女の言うことに従う他はなかった。
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始まってから2〜3時間以上経っていたが、彼女の特訓はまだ終わらなかった。
「はあ………はあ………。」
振り逃げしてはここに戻って、また振り逃げしてはここに戻っての繰り返しで、もう体力の限界の限界だった。
「……もう一回よ!」
テトラも相当息が切れている。振り逃げした俺を毎回追って探していたのだから当然である。しかし止めようとする気配はない。
「はあああああっ!」
再び斬りかかってくる。疲労のあまり俺は、彼女の攻撃に対してほとんど無感情になっていた。
これが何回目かは分からなかったが、彼女が振りかざした剣に対し無意識で自分の剣を当てたその時だった。
「…………あれ?」
一瞬で自分のいる場所が変わったのは分かった。しかし今俺のいる場所からは、紅色の髪をした少女がしっかり見えていた。
「まさか………。」
やや遠いながらも、彼女と目がしっかり合った。
俺は今までの疲れも忘れて、一目散にテトラのもとへ駆け出した。
俺の『振り逃げ』が、相手を視認できる場所まで狭まったのだ。
「テトラっ……俺……まさかここまでできるなんて!」
俺の頬を熱いものが伝っていった。
恐らく誰も俺の感動になんか共感できないだろう。しかし自分が感じ取ったこの「成長」は、今までのどんな感動よりも勝っていた。
テトラはそんな俺に対して、意外な質問をした。
「エイユウ、水星館のコートの広さは?」
「へっ?…………えっと……20メートル四方だったっけ?」
「あんたが今振り逃げして移動した距離は、少なく見積もっても40メートルくらい。ルール上は、コートから出た方が負け。」
「……つまり俺はまだ勝てない……って事が言いたいのか?」
テトラはこくりと頷いた。
厳しい。この少女は自分にも他人にもストイックなのか。
一瞬がっくりきた。しかし、
「でも……頑張ったんじゃない?」
そう言ってテトラは微笑んだ。
「ッ!……………。」
「今日はもう帰りましょ。寮の門限ギリギリだから。」
テトラは振り返り、空き地のようなこのグランドから出ていった。
「でも……頑張ったんじゃない?」
テトラがその言葉と同時に見せたあの微笑みを、俺は忘れられなかった。
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