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入学

皇星学園入学前日。

俺は九兵衛の運転する車に乗って都内を周っていた。これはパトロールの一環だった。

時間は深夜から朝方にかけて都内をぐるぐると周る。こうしてれば影喰と出会う可能性は大いにある。

今日は朝日が昇って来たのでそろそろ終わりにしようとした時だった。

《黎夜》

「ああ、分かってる。九兵衛止めてくれ」

「はい」

車から降りて高架下の歩道に影喰の気配を感じた。

「この下か」

《ああ、気を付けろ》

「分かってる」

下を見ると今にも影喰に襲われそうになってる女の子が二人いた。

下までジャンプして影喰と女の子の前に降りる。

街灯の光も届きにくいその場所は、まるで夜の残滓だけが取り残されたような薄暗さだった。

女の子が二人。

高校生くらいだろうか。

怯えた表情で後退りしている。

その前に立つのは、人の形を保ちながらも人ではない異形。

黒い泥のような肉体。

裂けた口。

獣とも虫ともつかない赤い眼。

影喰だった。

「た、助け――」

少女が声を上げるより先に影喰が飛び出した。

「邪魔だ」

霧崎黎夜は腰の星刃を抜いた。

銀の軌跡が闇を裂く。

ザンッ!!

影喰の腕が宙を舞う。

黒い血が噴き出した。

だが影喰は止まらない。

喉の奥から不快な咆哮を響かせながら突進してくる。

「遅い」

一歩。

踏み込む。

二歩。

身体を捻る。

三歩目で首元へ斬撃を叩き込んだ。

ゴキリ。

首が半分ほど切断される。

だが影喰は死なない。

むしろ怒り狂ったように身体を膨張させた。

黒い肉塊が膨れ上がる。

高架下全体を覆うほどの大きさへ変貌する。

《下級影喰かと思ったが少し喰っているな》

アルヴァが呟く。

「みたいだな」

影喰の巨大な腕が振り下ろされた。

コンクリートが砕ける。

衝撃で破片が飛び散った。

少女たちの悲鳴。

黎夜は舌打ちした。

「面倒だ」

巨大な影が再び迫る。

だがその瞳に焦りはない。

ただ静かに剣を下ろした。

そして告げる。

「――召喚」

その瞬間。

空間が震えた。

黄金の霊子が周囲へ広がる。

大気が鳴動する。

まるで太陽が夜の中で目を開いたようだった。

眩い光が黎夜を包み込む。

無数の光粒子が集まり、鎧を形成していく。

黄金。

いや、それ以上の輝き。

神話に語られる英雄のような神威。

神威輝装・天煌。

百年の沈黙を破り現れた伝説の輝装。

少女たちは息を呑んだ。

言葉すら出ない。

《派手にやるなよ》

「善処する」

黎夜は肩を回した。

そして影喰を見る。

「終わりだ」

影喰が咆哮した。

巨大な身体ごと突進してくる。

高架下を埋め尽くす黒い奔流。

普通の天煌騎士なら数人がかりで相手をする規模だった。

だが。

黎夜は前へ出る。

ただ一歩。

次の瞬間には姿が消えていた。

轟ッ!!

衝撃音だけが響く。

影喰の身体に一本の黄金の線が走った。

黎夜は既に背後に立っていた。

剣を振り抜いた姿勢のまま。

静寂。

そして――

ズドォォォォォン!!

影喰の身体が縦に裂けた。

黒い肉塊が崩壊を始める。

断末魔。

絶叫。

苦悶。

それら全てが黄金の光に飲み込まれた。

「輝煌斬」

呟きと同時に光が爆ぜる。

夜明け前の高架下を黄金が埋め尽くした。

影喰は跡形もなく消滅した。

残ったのは静寂だけ。

やがて朝日が昇る。

黎夜は剣を納めると輝装を解除した。

少女たちは呆然と立ち尽くしている。

自分たちが助かったことすらまだ理解できていないようだった。

《さて》

アルヴァが愉快そうに笑う。

《皇星学園入学前日から随分と目立ったな》

「……面倒にならなきゃいいけどな」

黎夜はそう呟きながら、二人の少女へ歩み寄った。


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