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第三話「地区予選サバイバル-後編」

 サマータイム地区予選は、一戦で終わらない。


 最初のサバイバル戦を勝ち抜いた機体だけが、地区代表を決める決勝進出戦へ進む。

 勝った機体は、壊れたまま次へ進む。


 エントリー後のパーツ換装は自由。

 壊れた腕を替えても、脚部を組み替えてもいい。


 ただし、それができるのはパーツを持っているチームだけだ。


 チームサンデイには、メーカー支援の整備班も、潤沢な予備パーツもない。

 あるのは、センジの工具と、キョウの端末と、ファイアの未完成な補助制御。

 そして、昨日アスカの無茶な操縦に耐えた、傷だらけの赤い機体だけだった。


 初戦でプロチーム“ラン&ガン”の谷町カクトを倒したことは、奇跡に近かった。


 だが、奇跡でも勝利は勝利だ。 


 勝った。


 勝ってしまった。


 サンデイのコックピットの中で、アスカはしばらくその事実を飲み込めずにいた。


 目の前には、ドライグが倒れている。

 プロチーム“ラン&ガン”所属、谷町カクトの駆る中遠距離型カスタムM.R.V。


 その機体を、寄せ集めのジャンク機体が倒した。


 サンデイが、倒した。


「……勝ったんだよね?」


 アスカがもう一度つぶやく。


「勝ったよ。間違いなく」


 通信越しに、キョウの声が返ってくる。


 いつも冷静なキョウの声にも、わずかな震えが混じっていた。


「勝者表示も出てる。地区予選サバイバル第一ブロック、勝者はサンデイだ」


「うおおおおおっ!」


 少し遅れて、センジの歓声が爆発した。


「勝った! 勝ったぞアスカ! サンデイが勝った!」


「っしゃあ!」


 アスカは両手を突き上げようとして、操縦桿に手をぶつけた。


「いたっ」


『警告。操縦席内での不用意な動作は推奨されません』


「ファイアまで冷静!」


 ゴーグルの端で、小さな赤いタマムシのアイコンが明滅している。


 その点滅が、さっきより少しだけ速い気がした。


 興奮している、というわけではないのだろう。

 けれど、まるで何かを考えているみたいだった。


『記録。高温化した武装は戦闘継続能力を低下させる。熱源観測は、敵機の弱点検出に有効』


「おー...さすが積層型電脳...学んでる学んでる」


 アスカは笑った。


「やっぱファイア、すごいじゃん」


『評価。私は戦闘用途には最適化されていません』


「でも勝った」


『はい』


 少しの間が空いて。


『勝利に寄与しました』


 その言い方が、なんだか誇らしげに聞こえて、アスカはまた笑った。


 だが、喜びに浸っていられたのは、ほんの少しだけだった。


 観戦ドローンは勝利した機体だけを映す。


 けれど、勝った機体がどれだけ壊れているかまでは、画面の外にいる観客には伝わらない。


 勝利表示の下で、サンデイは立っていた。

 だが、その赤い装甲はすでに傷だらけだった。


「アスカ、浮かれるのはそこまでだぞ」


 キョウの声が硬くなる。


「機体状態を確認する。センジ」


「わかってるって」


 センジが端末を操作する音が通信越しに聞こえる。


「左肩外装、大破。右腕のジャンクアーム、関節温度上昇。左腕レンチユニット、フレームに歪み。脚部変形機構、ギアに負荷痕あり。あと――」


「あと?」


「全体的に、負荷と摩耗がひどい...」


「ざっくり!」


「ざっくり言うしかないくらい、ひどいんだよ!」


 センジの悲鳴に近い声が響く。


「特に脚部! アスカ、あの姿勢で車輪モードに入れただろ!」


「うん」


「うんじゃない! あのな、ギアにテンションかかった状態で変形させると噛むんだよ! 噛んだら戻らない! 戻らなかったら歩けない! 歩けなかったら負ける!」


「でも戻ったじゃん」


「結果論!」


 センジは本気で怒っていた。

 アスカは首をすくめる。


「ごめん」


「……まあ、勝ったからいいけどさ」


「いいんだ」


「よくないけど、いい!」


 キョウがため息をつく。


「二人とも。問題は次だ」


 観戦用ARに、次の試合形式が表示される。


 地区予選決勝トーナメント。

 形式、()()()


()()()()ってこと?」


 アスカが目を丸くする。


「そう。ここからはバトルロワイアルじゃない。さっきのように相手は消耗もしてないし注意を引いてくれる奴もいない。最初から最後まで、こっちだけにフォーカスしてくる。」


「さっきみたいに、相手が勝手に武器を焼き付かせたりはしないってことだ.。」


 センジの声も低い。


 アスカは、倒れたドライグを見た。


 さっきの勝利は、間違いなく勝利だった。

 けれど、条件が揃っていたことも確かだ。


 ドライグは、サンデイを除いた八機を相手にして消耗していた。

 そして焼き付いた銃身をファイアが熱を見抜いた。

 アスカが突っ込んだ。


 すべてが噛み合ったから、勝てた。


 じゃあ次は?


「……面白いじゃん」


 アスカは笑った。


「こっちの方が、ちゃんと勝ったって感じする」


「その前向きさ、ちょっと怖いよ」


 キョウが言った。


 それから数試合。


 サンデイは、意外にも勝ち進んだ。


 もちろん、楽ではなかった。


 決勝トーナメント初戦の相手は、キャタピラ型の重量機(ヘビーウェイト)だった。

 正面から受ければサンデイの腕ごと潰される相手だったが、アスカは廃コンテナの隙間に誘い込み、旋回の遅さを突いて背後へ回り込んだ。


 ファイアが、履帯内部の異常発熱を検知する。


『左側駆動部、温度上昇。負荷集中』


「そこ!」


 アスカはレンチユニットを叩き込み、相手の足を止めてなんと降伏をもぎ取る。


 準決勝の相手は、小型の高機動機(ハイモビリティ)だった。

 サンデイよりずっと速く、アスカの視界の端を何度もすり抜けた。


 だが、ファイアは熱を見ていた。


『対象機、急加速直後に膝部サーボ温度上昇。反復動作に偏りがあります』


「つまり、次も同じ動きするってこと?」


『可能性があります』


「十分!」


 アスカはわざと空振りし、相手を誘った。

 そして二度目の急加速に合わせ、ジャンクフィストを置くように振り抜いた。


 当たった、というより、相手がそこへ飛び込んだ。


 勝つたびに、サンデイは壊れていった。


 右腕の指の一本は動きが鈍くなり、左腕のレンチは噛み合わせがわずかにズレた。

 脚部のホイールは片側だけ嫌な音を立てるようになった。


 それでも、サンデイは立っていた。


 そして、地区予選決勝。


 夕方に近づいたH市の空は、少しだけ赤みを帯び始めていた。


 廃ビルの影が長く伸び、壊れた道路の上に黒い線を引いている。


 決勝フィールドは、半壊した商業区画だった。


 崩れかけたビル。

 割れたガラス。

 傾いた歩道橋。

 空洞になった地下入口。


 サンデイは、その中央で待機していた。


「機体状態は?」


 アスカが聞く。


「最悪より少し上、半壊以上、全壊未満ってとこ」


 センジが即答する。


「あーはははは!無問題(モーマンタイ)!アタシたち最強!」


「おい、キョウ...こいつ調子乗ってるなんてレベルじゃないぞ」


「大丈夫大丈夫、次も確実に勝てる!」


「トホホ...泣きそうだよ、せめて話聞いてくれよ...」


 キョウが静かに言う。


「アスカ。次の相手が出たぞ」


 ゴーグルに対戦情報が表示される。


 ラン&ガン所属。

 木見サクロウ。

 機体名、ドライグMk2。


「ラン&ガン……」


 アスカは眉を上げた。


「さっきの人の仲間?」


「それどころか、リーダーだ」


 キョウの声が重い。


「木見サクロウ。中距離戦の制圧力と、相手の癖を読む能力が高い。機体はドライグの後継機、ドライグMk2...昨シーズンはトーキョープロリーグで20位っていう実力者だぞ」


「つまり、さっきの強いやつのもっと強いやつ」


「だいたい合ってる」


 センジが小さくうなる。


「Mk2はブースターユニット付きだ。ドライグより機動力がある。タイマンでは銃身が焼き尽くまで撃たれたらこっちはハチの巣だ、ファイアの熱検知だけで同じ手は使えない」


『対象機情報を検索中』


 ファイアが言う。


『外部ネットワーク接続権限がありません。詳細情報を取得できません』


「ずこーっ....」


 アスカは笑った。


「じゃあ、見てから考えよう」


「お前のその場でどうにかする精神、もう少しだけ薄められないか?」


「無理!」


 その時、前方のビル影から一機のM.R.Vが現れた。


 ドライグMk2。


 細長い胴体はより洗練され、装甲も無駄なく整っている。

 肩部火器(ショルダーウェポン)はコンパクト化され、両腕には高精度の連射武装。

 背部には、一気に敵へと詰め寄るための小型ブースターユニットが二基。


 ドライグよりも速く、ドライグよりも安定し、ドライグよりも冷静に見えた。


 通信が開く。


『聞こえるか、ジャンク機』


 低い声。


 木見サクロウだ。


『うちのカクトを落としたのは、お前たちか』


「そうだけど?」


 アスカは即答した。


『運が良かったな』


「運も実力のうちって言うじゃん」


『違うな』


 サクロウの声には、怒りよりも冷たさがあった。


『機体性能、整備精度、戦術、経験。そのすべてに劣る君たちがよもや決勝にまで上がってくるとは...豪運だな。」


「へえ」


『子供たちが、ジャンクでMRVを組んだことと度胸は認めてやるが...子供の自由工作を破壊して泣かせる趣味はない、棄権したまえ。』


 その言葉に、センジの声が低くなった。


「……好き勝手言ってくれるな」


「誰が泣くかーっ!」


 吠えるアスカをよそに、サクロウは続ける。


『...子供の工作を壊す趣味はない、もう一度言う棄権したまえ。』


 アスカは、一瞬だけ黙った。


 サンデイのコックピットの中で、操縦桿を握る手に力が入る。


「おじさん、棄権はしない...」


 アスカは言った。


「逃げるくらいなら壊れて負けるよ。」


 通信の向こうで、サクロウが鼻で笑う。


『フッ...見上げた度胸だ、学生パイロット...では全力で応えよう。』


 ブザーが鳴った。


 決勝開始。


 ドライグMk2が動いた。


 速い。


 地面を蹴ると同時に、背部ブースターが短く噴射する。

 滑るように横へ移動しながら、銃口がサンデイを捉えた。


「アスカ、左!」


 キョウが叫ぶ。


 サンデイが動く。

 だが、ドライグMk2の射撃は先回りしていた。


 弾丸がサンデイの足元を叩く。

 火花が散り、脚部の動きが乱れる。


『警告。右脚部外装損傷』


「くっ!」


「速いぞ、こいつ!」


 センジが叫ぶ。


 ドライグMk2は距離を保ったまま、サンデイの周囲を回り込む。

 近づかせない。

 視線を切らせない。

 常に一定の距離で撃ち続ける。


 それは、サンデイが一番苦手な戦い方だった。


 殴れない距離。

 レンチが届かない間合い。

 近づけば、足を撃たれる。


「アスカ、無理に追うな!」


 キョウが言う。


「相手はこっちの突進を誘ってる!」


「でも追わなきゃ届かない!」


「だから今は――」


 弾丸がコックピット近くの外装をかすめた。


 警告音。


『損傷。胴体前面外装』


「っ……!」


 アスカは歯を食いしばる。


 視界の端で、ファイアのアイコンが明滅している。


『対象機、背部ブースター使用時に一時的な高温反応』


「ブースター?」


『はい。ただし冷却速度が速く、故障兆候はありません』


「ずこーっ....じゃあ弱点じゃないじゃん」


『はい』


「でも熱いんだよね?」


『はい』


 アスカは前方を見る。


 ドライグMk2がまた横へ滑る。

 その瞬間、背部ブースターが白く熱を帯びる。


 速い。

 でも、その速さはブースターが作っている。


 キョウが言った。


「ビルに入れ」


「え?」


「開けた場所じゃ勝てない。相手の機動力を殺す」


「でも隠れたら撃たれない?」


「撃たれる。けど、外にいるよりマシだ。それに...少し考えがある」


「了解!」


 アスカはサンデイを廃ビルの中へ走らせた。


 崩れかけた商業ビル。

 一階部分は吹き抜けになっており、かつて店舗だった空間が瓦礫だらけで広がっている。


 サンデイが中へ飛び込むと、すぐに銃弾が壁を削った。


 コンクリート片が降る。


「うわっ!」


『粉塵濃度上昇。視界不良』


「ファイア、熱は見える?」


『はい。熱源追跡可能』


「じゃあ案内して!」


『了解』


 ゴーグルに、ドライグMk2の熱源が赤い輪郭で浮かび上がる。


 壁の向こう。

 柱の隙間。

 ブースターの高温反応。


 ファイアの視界は、人間の目とは違っていた。


 炎を見るための目。

 危険を見つけるための目。


 その目が、今は敵を追っている。


『対象、右方向へ移動。速度低下。遮蔽物回避中』


「キョウ!」


「聞いてる。アスカ、左の柱を見ろ」


 ゴーグルに、キョウが送った簡易図面が重なる。


 赤く表示された支柱。


「そこを壊せ、レンチユニットなら支柱を砕けるはずだ」


「え、壊していいの?」


「いいわけない。でも勝つならそこだ」


 センジが叫ぶ。


「使え! レンチで挟んで、捻れ!」


「了解!」


 サンデイが左腕を振り上げる。


 巨大なレンチが柱を挟み込む。

 アスカは操縦桿をひねった。


 金属が軋み、コンクリートが砕ける。


 柱に亀裂が走った。


 だが、ドライグMk2はすぐに反応した。


『おいおい...無茶がすぎるぞ学生!!』


 サクロウは焦り声を荒げる。


 ドライグMk2がビルの外周を回り込み、別角度から射撃を行う。


 銃弾がサンデイの背部を叩いた。


『損傷。通信アンテナ右側、機能低下』


「アンテナやられた!」


 センジが叫ぶ。


「通信、ノイズ出てる!」


 キョウの声が少し乱れる。


「アスカ、聞こえるか?」


「聞こえる! ちょっとガリガリしてるけど!」


『警告。通信品質低下』


「ファイア、キョウの声拾える?」


『一部不明瞭。補正します』


 ファイアのアイコンが点滅する。


『音声パターン補完。通信補助を開始』


「そんなこともできるの?」


『校内放送設備との同調経験があります』


「学校AIOS、便利!」


『私は火災報知AIOSです』


「はいはい!」


 アスカはもう一度、柱へレンチを噛ませた。


「ファイア、出力最大!」


『注意、フレームに過度の負荷がかかります。損壊の恐れあり。』


「もたせて!」


『注意、フレームに過度の負荷がかかります。損壊の恐れあり。』


「ファイア、アンタとサンデイならできる!」


 アスカが操縦桿を握りこみ、一気に捻る。


最大油圧稼働(フルパワー)、最小時間で負荷を抑えます。』


 サンデイの左腕が唸った。


 柱が砕ける。


 天井が鳴った。


 ビル全体が、わずかに傾く。


「アスカ、下がれ!」


 キョウが叫ぶ。


「今すぐ!」


 アスカはペダルを一気に踏み込み、サンデイが後退しようとする。


 その瞬間、ドライグMk2が突っ込んできた。


 サンデイが柱を壊した意味を理解したのだろう。

 崩落が起きる前に決着をつけるつもりだった。


『ここで終わりだ』


 ドライグMk2の銃口が、サンデイの胴体を狙う。


 近い。


 けれど、まだレンチは届かない。


『警告。射線に入っています』


 ファイアの声。


 その直後、天井が落ちた。


 崩れたのは、サンデイの上ではない。


 ドライグMk2の背後。


 砕けたコンクリート片が、背部ブースターユニットを直撃した。


 爆発ではない。

 だが、確かな破損音が響いた。


『対象機、背部高温反応拡大。ブースターユニット損傷』


「よし!」


 キョウの声が弾む。


「機動力が落ちた!」


 ドライグMk2が姿勢を崩す。


 ブースターが片側だけ噴射し、機体が横へ流れた。


 アスカはその瞬間を見逃さなかった。


「今度はこっちの番!」


 サンデイが前に出る。


 脚部が軋む。

 ホイールが嫌な音を立てる。

 右腕の関節温度は危険域。


 それでも、前へ。


『警告。機体負荷上昇』


「知ってる!」


『左腕フレーム限界接近』


「知ってる!」


『右腕駆動部、過熱』


「それも知ってる!」


『では、なぜ前進するのですか』


 アスカは笑った。


「勝つため!」


 サンデイのレンチが、ドライグMk2の胴体を挟んだ。


 ガチン、と重い音。


「掴んだ!」


「アスカ、右腕!」


 センジが叫ぶ。


「ジャンクアーム、もう一発いけるぞ!叩き込め!」


「オッケー!」


 サクロウの声が乱れる。


『そんな機体で……!』


「そんな機体じゃない!」


 アスカは叫んだ。


「これがサンデイだ!」


 右腕が振り上がる。


 歪な四本指が握られる。

 鉄塊のような拳になる。


 けれど、殴るだけでは終わらない。


 アスカは、レンチで挟んだドライグMk2の胴体を固定したまま、右腕を叩きつけた。


 衝撃。


 そして、ひねる。


 ジャンクアームのパワーと、レンチユニットの固定力。

 センジが組み上げた歪な腕。

 キョウが読んだ崩落のタイミング。

 ファイアが見つけた熱の乱れ。


 三人と一機の全部が、そこに乗った。


 ドライグMk2の胴体フレームが歪む。


 警告灯が明滅し、機体が力を失った。


 ドライグMk2、沈黙。


 数秒間、何も聞こえなかった。


 粉塵が舞っていた。


 壊れかけたビルの中で、二機のM.R.Vが止まっている。


 やがて、ドローンがビル内部へ入り込んだ。


 観戦用ARが揺らぎ、勝者表示が浮かび上がる。


 勝者――サンデイ。


「……」


 アスカは声が出なかった。


 今度は、さっきのようにすぐ叫べなかった。


 胸の奥が熱い。

 手が震えている。

 操縦桿を握る指が、少し痛い。


「勝った……?」


 通信の向こうで、センジが息を吐いた。


「勝った。勝ったよ、アスカ」


 キョウの声も聞こえる。


「地区予選、突破だ」


 その言葉で、ようやく実感が追いついた。


 アスカは大きく息を吸う。


「っ――」


 叫ぼうとして。


 けれど、声は少しだけ詰まった。


 ビルの割れた窓の向こうに、夕焼けが見えた。


 夏の空が赤く染まっている。

 その色が、なぜか少しだけ寂しく見えた。


 この夏は、始まったばかりなのに。


 もう、少しずつ終わりへ向かっている。


 そんなことを、アスカは一瞬だけ思った。


 でも。


「……やった」


 小さくつぶやいてから、アスカは笑った。


「やったぁぁぁぁぁっ!」


 今度こそ、声が爆発した。


 サンデイの一眼カメラアイが、夕焼けの中で光る。


 壊れたアンテナ。

 歪んだレンチ。

 熱を持ったジャンクアーム。

 傷だらけの赤い機体。


 それでも、サンデイは立っていた。


『記録』


 ファイアの声がした。


『壊れた機体は、必ずしも敗北機体ではありません』


 アスカは目を丸くした。


「お、いいこと言うじゃん」


『ただし、継続戦闘には整備が必要です』


「そこは真面目!」


 キョウが笑った。

 センジも笑った。


 その笑い声が、ノイズ混じりの通信の中で重なる。


 観戦ドローンが空へ昇っていく。


 H市の廃墟に、地区予選結果が表示された。


 トーキョー西部第一エリア代表。


 チームサンデイ。


 昨日アスカ。

 明日キョウ。

 今日センジ。

 そして、火災報知機だったAIOS、ファイア。


 三人と一機の夏は、次の場所へ進む。


 壊れながら。


 笑いながら。


 それでも、まだ立っている。


 夕焼けのトーキョーに、蝉の声が響いていた。


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