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第6話 最初の外敵

聞かれていた。


その一言だけで、さっきまでの疑いが一段深くなった。

裏切り者がいるかもしれない、じゃない。少なくとも外は、俺たちの会話に手を伸ばせる。


「盗聴?」


保科が言う。


「物理ならまだましね」

と黒瀬。

「このゲームで“言葉を拾う能力”とか言われたほうが嫌」


否定できないのがきつい。


そのとき、店外の歩道を誰かが横切った。

黒いコート。


俺は反射で立ち上がる。


「結城だ」


シャッターの隙間から見えた男は、駅前で俺を見ていたのと同じ顔だった。

三十代半ば。余裕ぶった笑い方まで同じだ。


その隣に、細身の男がもうひとりいる。

傘を差し、こちらを見もしない。無表情で、存在感が薄いくせに嫌に記憶に残る顔だった。


黒瀬が短く言う。


「出るわよ」

「は?」

「隠れても主導権を取られるだけ」


いや理屈は分かる。

分かるけど、さっきまで“契約の内容が漏れた”直後なんだが。


店の外に出ると、結城は待ってましたとばかりに片手を上げた。


「こんばんは、灰冠街区のみなさん」

「近所迷惑だからその呼び方やめてくれ」

「近所付き合いは大事だろ」


軽い。

でも、軽いままで人を刺せるタイプの声だ。


黒瀬が前に出る。


「用件」

「交渉だよ。うちは無駄な消耗を好まない」


うち、という言い方に引っかかった。

こいつ単独じゃない。


隣の細身の男が、そこで初めて口を開いた。


「結城、長い」


短い一言なのに、妙に空気が冷えた。

結城は肩をすくめる。


「はいはい。じゃあ本題。おまえらの中に売ってるやつがいる」


保科が半歩だけ前に出た。


「それ、さっきも見た」

「そりゃよかった。復習は大事だからな」


俺は結城の言葉に集中する。

頭の中に数字が浮かぶ。


七九。


高い。

むかつくくらい高い。


完全な断定じゃない。でも、こいつは少なくとも“ただ揺さぶりで言ってるわけじゃない”。


黒瀬もそれを読み取ったみたいに、ほんのわずか眉を寄せた。


「証拠は」

「今出すほど親切じゃない」

「じゃあ話にならない」

「なるさ。取引だからな」


結城は俺たち五人を順に見た。

値踏みだ。あからさまなくせに、堂々としている。


「裏切り者を差し出せ。そいつ一人で済む」


成瀬が息を呑む音がした。

隣の細身の男だけが、無言のままスマホ画面を見ている。


「断ったら?」

と黒瀬。

「外から削る。街区の端から、じわじわな」


「雑だな脅しが」

と俺。

「初心者には分かりやすいほうがいいだろ」


ほんとに腹が立つ。


結城は続ける。


「うちの代表は寛大だ。使える人間は拾う。神代ユウ、おまえもな」


「名指しかよ」

「見る目があるやつは好きなんだよ。使い道が多い」


頭の中の数字は、八三。


それもたぶん本当だ。

こいつが俺を欲しいと思っているのも、その“代表”がいるのも。


黒瀬が一歩割り込む。


「勧誘は要らない」

「君、法務っぽいな」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

「こっちは本気で言ってる」


細身の男が、ようやく俺たちを見た。


視線が合った瞬間、背中が粟立つ。

こいつは喋らないぶん、余計に読めない。


「椎名」


結城が呼ぶ。

椎名と呼ばれた男は、一枚の名刺サイズの紙を俺たちへ差し出した。

受け取ったのは黒瀬だ。


そこに印字されていたのは、場所と時間。


`明日 18:00`

`神泉高架下`

`代表との面談を許可する`


許可って何だ。

面接官か。


「来なくてもいい」

と結城。

「その場合は、“この中の誰かがもう売ってる”前提で次に進むだけだ」


最後に、結城は俺にだけ笑った。


「ああ、そうだ。ひとつだけサービスだ」


喉を指でなぞる。

駅前と同じ仕草。


「次に聞くべきは、“誰が裏切ったか”じゃない。“いつから売ってたか”だ」


二人はそのまま雨の向こうへ消えた。


しばらく誰も動かない。


最初に沈黙を破ったのは、俺だった。


「……あいつ、たぶんそこそこ本当のことを言ってる」


保科が顔をしかめる。


「最悪」


成瀬は俯いたまま、か細い声で言った。


「じゃあ、僕たちの中に本当に……」


黒瀬は名刺サイズの紙を折りたたみながら、低く言う。


「ええ。問題はもう、いるかどうかじゃない」


そこで一拍置いて、俺を見る。


「神代。誰から順に、数字が崩れた?」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


外に敵がいるだけなら、まだ分かりやすい。

でも外の言葉のほうが内側より信じられそうに見えるとき、人は一気にしんどくなる気がします。


続きを追ってもらえるなら、ブックマークや評価を置いてもらえると嬉しいです。

次は、疑いを少しだけ“証拠”に近づけます。

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