第13話 半分だけ本当
高槻蓮は、会議室に入った瞬間から空気を自分のものにしようとしていた。
それが自然に見えるのが、いちばん厄介だ。
「まず確認したい」
黒瀬が先手を取る。
「この場は公開交渉とする。虚偽告発、暴力、第三者攻撃誘導は禁止。発言は議事として記録される」
高槻は文面に目を通し、笑った。
「相変わらず抜け目がない」
「褒め言葉として受け取るわ」
椎名は一言も発しない。
その無言が妙に重い。
全員が承認を押したあと、会議室の空気が一段だけ張る。
領域内だからか、言葉が少し重くなったのが分かる。
高槻が俺を見る。
「では、神代くん。率直に話そう。君は今の仲間を信じているか?」
いきなりそこか。
でも、悪くない問いだ。
読まれやすいぶん、返しようもある。
「信じてる、とは言わない」
「正直だ」
「死にたくないからな」
高槻は満足そうに頷く。
「私は君たちを支配するつもりはない」
頭の中に数字が浮かぶ。
六一。
やっぱり、半分だけ本当だ。
「じゃあ聞く」
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
「支配するつもりがないなら、命令もしないって宣言できるか」
会議室が少しだけ静まる。
高槻はすぐには答えなかった。
代わりに椎名が、わずかに視線を上げる。
高槻は笑顔のまま言う。
「命令ではなく、秩序の提案なら?」
「言い換えだろ」
「政治は言い換えでできている」
頭の中の数字は、八八。
本気で言ってる。
だから気持ち悪い。
保科が小さく舌打ちした。
黒瀬は無表情のまま、文言をメモしている。
高槻は桜庭へ目を向けた。
「君もそう思わないか。秩序のない善意は、人を簡単に殺す」
桜庭の指先が、一瞬だけ強く握られる。
でも声は穏やかだった。
「そうですね。今日のところは」
いい返しだ。
濁して、でも切らない。
高槻は今度は保科を見た。
「医療者は、選別を嫌う。だが、全員を救うのは不可能だ」
「その台詞、自分が選ぶ側の人しか言わないよね」
保科の返しに、少しだけ空気が戻る。
でも高槻は崩れない。
「神代くん。君は誰を切った?」
その一言で、成瀬の手が脳裏に焼きついた。
最悪だ。
読んでる。
数字は九二。
こいつは、わざとそこを刺している。
答えかけた俺より先に、黒瀬が割って入る。
「論点をずらさないで」
「ずらしていない。王を決める話だ。誰を切れるかは核心だろう」
正しい。
最悪なくらい正しい。
そのとき、全員のスマホが一度だけ震えた。
`現在の生存者:93`
`消去済み:7`
誰も表情を変えない。
でも会議室の空気が一段冷えた。
いまこの瞬間も、別のどこかで誰かが消えている。
高槻は、その通知すら利用するように静かに言った。
「ほらね。待ってはくれない」
そこで、ようやく分かった。
高槻を直接落とすのは難しい。
この男は、自分の中で言葉の意味をずらすのがうますぎる。
崩すなら椎名だ。
ずっと黙っていた椎名は、高槻が言い換えるたび、ほんの少しだけ数字が揺れる。
七三、六八、六二。
高槻の論理を、全部は信じていない。
だったら。
崩れるのは、こっちじゃない。
向こうだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
言い負かされるわけじゃないのに、主導権を持っていかれる相手って本当に嫌だと思います。
その圧と、でもどこかに穴がある感じが残ったなら、次の話でやっとひっくり返せます。
続きを追ってもらえるなら、ブックマークや評価を置いてもらえると嬉しいです。
次は、相手に“嘘を言わせる”回です。




