第12話 宣言の檻
反撃しよう、という話になったとき。
最初に口を開いたのは黒瀬だった。
「場所は灰冠街区の中枢。交渉の形式は公開。相手に“正しさ”を語らせる」
言ってることは分かる。
分かるけど、相手が高槻だと分かった上でやるにはだいぶ胃が痛い。
「公開って、誰に」
と俺。
「候補者同士。あと、街区そのものに記録が残る形にする」
保科が顔をしかめた。
「巻き込むの?」
「見せるだけ。高槻は観衆が多いほど強いタイプ。でも逆に、見られていないと困るタイプでもある」
そこはたしかにそうだ。
あいつは“舞台”が似合いすぎる。
桜庭が腕を組んだまま言う。
「で、僕はどう動くんです?」
「あなたは餌」
黒瀬の言葉に一ミリの遠慮もない。
桜庭は苦笑した。
「覚悟はしてました」
作戦はこうだ。
桜庭が高槻側へ、「灰冠街区は成瀬の脱落で崩れている」と流す。
そのうえで、正式交渉ならユウを取り込めるかもしれないと匂わせる。
高槻は来る。
来ない理由がない。
問題は、来たあと何をさせるかだ。
「相手を倒す必要はない」
黒瀬は画面に文面を並べていく。
「必要なのは、“自分で自分を傷つける発言”をさせること」
俺は思わず笑った。
乾いたやつだ。
「それ、かなり性格悪いな」
「今さら」
否定できない。
保科が椅子に深く座りながら言う。
「私の役目は?」
「逃げ道を潰す」
「一番しんどいとこ回ってきた」
でも、やると言った。
成瀬がいなくなってから、保科は軽口のあとに必ず少しだけ目を伏せる。
あれを見るたび、こっちの胸も嫌になる。
俺の役目は単純だった。
高槻と椎名の発言を読む。
どこで濁ったか、どこで自分を正当化したか、その一点を逃さない。
能力は変わらない。
でも、使い方は少しだけ変わる。
夜の終わりに、桜庭が高槻へ送る文面を全員で確認した。
`神代ユウは揺れている`
`公開交渉なら取り込める可能性がある`
`灰冠街区中枢、明日十九時`
短い。
短いのに、嫌なほど効きそうだ。
桜庭が送信ボタンに指を置いたまま、俺を見る。
「本当に送りますよ」
「送れ」
「信用してるわけじゃないですよね」
「してない」
「ですよね」
それでも送る。
そのねじれが、今の俺たちだった。
数分後、返信が来る。
`出席する`
`椎名を同行させる`
`契約形式を提示せよ`
黒瀬が、そこで初めてほんの少しだけ口角を上げた。
「食いついた」
翌日。
灰冠街区の中心、使われていない大会議室。
俺の領域の中でも、いちばん言葉が通りやすい場所だとアプリは示していた。
机を片づけ、椅子を向かい合わせにする。
まるでまともな交渉の場みたいだ。
まともな交渉で人が消えなければ、なおよかった。
時計が十九時を回る。
扉が開く。
高槻蓮が入ってきた。
その後ろに、椎名。
高槻は会議室を見回し、俺たちを見て、きれいに笑った。
「いい舞台だ」
ぞっとした。
同時に、少しだけ思う。
なら、ここで落ちろ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
受け続けていた側が、やっと罠を仕掛けるところまで来ました。
うまくいってほしい気持ちと、たぶん簡単にはいかない予感の両方が残っていたら嬉しいです。
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次は、高槻との正面対決です。




