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エイラとカイルは食堂の入り口にいた。
食堂は夕飯時の混雑のピークは過ぎ、人はまばらだ。
「やっときましたね!」
エイラがオーレリアを見つけて微笑む。
「待っててくれたんですか?」
オーレリアは驚いた。今までそんなことされた事がない。
「えぇ。一緒に食べようと思って……レックス様もご一緒にどうですか?」
「エイラ様とご一緒なんて、お邪魔じゃなければ」
レックスが王子っぽい話し方をしている。
エイラとは王子と王女の関係らしい。
「オーレリア様はレックス様と仲が良いんですね!」
カイルが屈託なく笑う。
「いや、まあ、成り行きというか……」
仲は良い訳じゃないが、悪い訳でもない。
「鍵閉めなきゃいけないのに、オーレリアが温室から出たがらないから大変だったんだ!」
レックスがカイルに説明している。この二人は顔見知りらしい。
オーレリアは静かに観察する。
「オーレリア様を呼び捨てに……」
エイラが何かぶつぶつ言っている。
「エイラ様、遅くなって申し訳ございません。参りましょう? 私お腹ペコペコで!」
オーレリアがエイラの手をとって進む。
「お腹ペコペコって!」
レックスがまた笑いを我慢しながら、後ろからカイルと着いてきた。
四人でテーブルを囲む。
「レックス様従者は?」
カイルが辺りを見廻す。
「それが初日に風邪ひいて、ずっと部屋で休んでるんだ」
それは従者失格では?
「そんな、大丈夫なのですか?」
エイラが心配している。この心配は従者ではなく、レックスへの心配である。
それはそうだ。ないと思うが、王族を襲おうとする輩もいないとは言い切れない。
「大丈夫です。従者も念の為ですし。自分の身は自分で守ります」
とても美しい言葉遣いである。
「そうですか。まあ、学園内は安心でしょう」
エイラが頷く横で、オーレリアは料理に夢中である。
やはりここの料理は美味しい。
今日はハンバーグだ! このジューシーな肉汁、付け合わせのポテトもホクホクである。
そして焼き立てのパン!
「オーレリア様は美味しそうに食べますね! 見ているだけで幸せになります」
カイルが斜め前から、こちらを見て微笑んでいる。
「え? そんなことは……!」
誰かと話しながら食べる事を、ほとんどしてこなかったオーレリアである。見られていたと思うと居心地が悪い。
「カイル、女性の食事をそんなに見つめるものではないわよ」
エイラが嗜める。
「すみません! ただ、あまりに美味しそうだったもので」
飼い主に怒られた子犬さながら、またカイルがしゅんとする。
「オーレリアは確かに美味しそうに食べるな。カイルが目を離せなくなるのも分かる」
レックスまでそんな事を言っている。
オーレリアはレックスを睨む。
「ふっ。そんな顔をするな」
「……ズルいですわ!」
エイラが突然、レックスを睨む。
「どっどうしました、エイラ様?」
カイルが驚いている。
「オーレリア様は私のお友達なのに、呼び捨てにするなんて!」
レックスはポカンである。
オーレリアは隣で怒るエイラを見つめる。
「エイラ様も、その、呼び捨てにすればいいのでは?」
カイルが最もな事を言う。
「え! そんな……いっいいのでしょうか?」
大きな目がコチラを向いている。
なんだかとても可愛い生き物である。
「はい! 喜んで!」
オーレリアはまたプロポーズを受けるような返事をしてしまう。
目の前でレックスが吹き出していた。
女子寮の前で、エイラが決心したのか話し出す。
「オ、オーレリア! あなたも私を呼び捨てにするのよ!」
とても辿々しい。恥ずかしいのかエイラは顔が赤い。
「分かりました」
「タメ口よ!」
「わっ分かった!」
「よろしい。じゃあおやすみ、オーレリア!」
「おやすみ、エイラ」
二人は手を振って別れた。
友達ってこんな感じなんだなぁと、心が温かくなるオーレリアだった。




