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薬草学の授業で、今日初めて『温室』へ行く。オーレリアはウキウキである。
氷の国へ来て、ほとんど自分が育てた植物しか見ていない。この国の植物を見られる、初めての機会である。
妖精の国は、一年を通して暖かい気候だった。よって、温室はあまり一般的ではなく、南の島の植物や、果物用に用いられていたくらいだ。
学園の温室はドーム型でガラス張り、とても広々としている。
足を踏み入れると暖かい。少し故郷が懐かしい気持ちになった。大きな木が植っている。畑も幾つかある。鉢に入った植物、プランターも沢山。上からも蔦がはっている。
「おぉー!」
沢山ある! 植物が! 見た事ない物も!
無意識に声が出ているオーレリアを見て、レックスがまた笑っている。
「オーレリアさん、話聞いてますか?」
先生が感嘆の声をあげているオーレリアに注意する。
我にかえる。
「はい。すみません、つい……」
あ、昨日職員室から会議室へ案内してくれた先生だ。
植物しか目に入っていなかった。
授業で使う植物を採取する。
その間も、オーレリアの目はこの国の植物に釘付けだ。
あの一番大きい木は桜かな? 蕾がなってる。あれは苺の花だ。もしかして、実がなったら食べられるのだろうか? 向こうにあるのはサボテン! しかも花が生えてるじゃないか! あっちの花は紫陽花だ。あんな白と青と桃色の花見た事ないぞ!
「オーレリア様、落ち着いて」
エイラとカイルが隣で苦笑している。
「エイラ様! だって初めて見る植物も沢山あって、私ドキドキが止まりません」
オーレリアは興奮とこの暖かさで、赤面している。さながら恋する乙女である。
「植物が好きなのはすごく伝わってくるわ」
エイラが頷いている。
温室授業は大興奮で終わった。
もっとここに入り浸りたい。先生に相談してみようか……
オーレリアは先生を探すが、相変わらず足が速い。もういない。
「オーレリア様、私図書室へ行きたいので先に行きます。後で食堂でね!」
エイラはそう言うとカイルと出て行った。
ちょっとだけ、あっちの方も……
オーレリアは温室をくまなく散策する。歩いてはしゃがみ、歩いては上を見上げ、全く帰る気配がない。
「オーレリア、帰るぞ?」
レックスに声を掛けられた。
「はい! どうぞお先に」
足元の花に夢中なオーレリアは、レックスを見ていない。
「違う! 一緒に出るぞ。ここの鍵を預かっている」
「もう少しだけ……」
「だめだ。もう二十分我慢した」
レックスは腰に手を当てて、オーレリアの前に立ち塞がった。
「なんでレックスが鍵預かってるの?」
なぜ私じゃないのだ! 鍵があれば入り放題ではないか!
「クラス長だから。朝決めただろ?」
そういえば、そうだった。
立候補はいなかったから、他薦でレックスに決まったのだ。
「ほら、出た出た」
オーレリアは外に追い出される。
「あぁ、天国がぁ!」
「ふふ。大袈裟だなあ」
笑いながら鍵を閉めるレックス。その後ろで落ち込むオーレリア。
次はいつ温室の授業あるのかなぁ?
こっちの植物もっと観察したい……
妖精の国では、自分の家の植物を育てまくっていたし、邪魔する人もいなかったので、朝から晩まで観察できた。
「そんな落ち込むなよ。また授業あるし」
レックスがオーレリアの肩に手を置く。
「うん。まぁ、そうだよね」
外の寒さでちょっと落ち着いたオーレリア。火照りも取れてきた。
レックスが先に立って歩き出す。
「昨日の件だけど……」
「きのう?」
聞き返すオーレリア。
「国王陛下が来ただろ?」
なんで皆んな知っている!
「今週末、話があるって言われてる。オーレリアなんだか知ってるか?」
レックスが見下ろしている。
「さ……さあ? 私は何も存じ上げなくて」
多分、あの話題だろう。
レックスは太陽の国に縁がある王子だ。
「絶対知ってるな」
なぜバレる?
王族というものは嘘を見抜ける力でも備わっているのか?
「口止めされてるので!」
こういう時は逃げるに限る。
「まて、また迷子になるぞ!」
うるさい王子である。私を何歳だと思ってるんだ。
成り行きで二人で鍵を返しに歩いていると、何だか視線を感じた。
「妖精の国の留学生よ! なんでレックス様と?」「氷の妖精王を召喚したんですって」「レックス様かっこいい〜」
「……オーレリア、気にするな」
レックスが気を遣ってくれたようだが、コソコソ噂話をされるのは慣れている。
「私は慣れてるから大丈夫。レックスこそ」
「俺も慣れている。賞賛も軽蔑も」
「軽蔑?」
王子の彼が、賞賛されても軽蔑される事なんてあるのだろうか?
「俺の母親の出身は太陽の国だからな。よく思わない輩もいるんだよ」
「へぇ〜。王子も色々大変なんだ」
「ふっ、なんだその感想」
レックスがオーレリアを見て笑う。
「笑った!」「きゃー! かっこいい」
周りから悲鳴があがった。
男女関係なく、レックスの笑顔に心臓を撃ち抜かれたらしい。
オーレリアは何故笑われたのか分からず、首を傾けた。
レックスの笑いのツボが分からない。




