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妖精の国の姫、氷の国へ留学する  作者: 紙絵
第一部

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8/23

8

 薬草学の授業で、今日初めて『温室』へ行く。オーレリアはウキウキである。


 氷の国へ来て、ほとんど自分が育てた植物しか見ていない。この国の植物を見られる、初めての機会である。


 妖精の国は、一年を通して暖かい気候だった。よって、温室はあまり一般的ではなく、南の島の植物や、果物用に用いられていたくらいだ。


 学園の温室はドーム型でガラス張り、とても広々としている。

 足を踏み入れると暖かい。少し故郷が懐かしい気持ちになった。大きな木が植っている。畑も幾つかある。鉢に入った植物、プランターも沢山。上からも蔦がはっている。


「おぉー!」

 沢山ある! 植物が! 見た事ない物も!


 無意識に声が出ているオーレリアを見て、レックスがまた笑っている。


「オーレリアさん、話聞いてますか?」

 先生が感嘆の声をあげているオーレリアに注意する。

 我にかえる。

「はい。すみません、つい……」


 あ、昨日職員室から会議室へ案内してくれた先生だ。

 植物しか目に入っていなかった。


 授業で使う植物を採取する。

 その間も、オーレリアの目はこの国の植物に釘付けだ。


 あの一番大きい木は桜かな? 蕾がなってる。あれは苺の花だ。もしかして、実がなったら食べられるのだろうか? 向こうにあるのはサボテン! しかも花が生えてるじゃないか! あっちの花は紫陽花だ。あんな白と青と桃色の花見た事ないぞ!


「オーレリア様、落ち着いて」

 エイラとカイルが隣で苦笑している。

「エイラ様! だって初めて見る植物も沢山あって、私ドキドキが止まりません」

 オーレリアは興奮とこの暖かさで、赤面している。さながら恋する乙女である。

「植物が好きなのはすごく伝わってくるわ」

 エイラが頷いている。

 温室授業は大興奮で終わった。


 もっとここに入り浸りたい。先生に相談してみようか……


 オーレリアは先生を探すが、相変わらず足が速い。もういない。

「オーレリア様、私図書室へ行きたいので先に行きます。後で食堂でね!」

 エイラはそう言うとカイルと出て行った。


 ちょっとだけ、あっちの方も……


 オーレリアは温室をくまなく散策する。歩いてはしゃがみ、歩いては上を見上げ、全く帰る気配がない。


「オーレリア、帰るぞ?」

 レックスに声を掛けられた。

「はい! どうぞお先に」

 足元の花に夢中なオーレリアは、レックスを見ていない。

「違う! 一緒に出るぞ。ここの鍵を預かっている」

「もう少しだけ……」

「だめだ。もう二十分我慢した」

 レックスは腰に手を当てて、オーレリアの前に立ち塞がった。

「なんでレックスが鍵預かってるの?」


 なぜ私じゃないのだ! 鍵があれば入り放題ではないか!


「クラス長だから。朝決めただろ?」

 そういえば、そうだった。

 立候補はいなかったから、他薦でレックスに決まったのだ。


「ほら、出た出た」

 オーレリアは外に追い出される。

「あぁ、天国がぁ!」

「ふふ。大袈裟だなあ」

 笑いながら鍵を閉めるレックス。その後ろで落ち込むオーレリア。


 次はいつ温室の授業あるのかなぁ?

 こっちの植物もっと観察したい……


 妖精の国では、自分の家の植物を育てまくっていたし、邪魔する人もいなかったので、朝から晩まで観察できた。


「そんな落ち込むなよ。また授業あるし」

 レックスがオーレリアの肩に手を置く。

「うん。まぁ、そうだよね」

 外の寒さでちょっと落ち着いたオーレリア。火照りも取れてきた。

 レックスが先に立って歩き出す。


「昨日の件だけど……」

「きのう?」

 聞き返すオーレリア。

「国王陛下が来ただろ?」


 なんで皆んな知っている!


「今週末、話があるって言われてる。オーレリアなんだか知ってるか?」

 レックスが見下ろしている。

「さ……さあ? 私は何も存じ上げなくて」

 多分、あの話題だろう。

 レックスは太陽の国に縁がある王子だ。

「絶対知ってるな」


 なぜバレる?


 王族というものは嘘を見抜ける力でも備わっているのか?

「口止めされてるので!」

 こういう時は逃げるに限る。

「まて、また迷子になるぞ!」


 うるさい王子である。私を何歳だと思ってるんだ。


 成り行きで二人で鍵を返しに歩いていると、何だか視線を感じた。

「妖精の国の留学生よ! なんでレックス様と?」「氷の妖精王を召喚したんですって」「レックス様かっこいい〜」


「……オーレリア、気にするな」

 レックスが気を遣ってくれたようだが、コソコソ噂話をされるのは慣れている。

「私は慣れてるから大丈夫。レックスこそ」

「俺も慣れている。賞賛も軽蔑も」

「軽蔑?」

 王子の彼が、賞賛されても軽蔑される事なんてあるのだろうか?

「俺の母親の出身は太陽の国だからな。よく思わない輩もいるんだよ」

「へぇ〜。王子も色々大変なんだ」

「ふっ、なんだその感想」

 レックスがオーレリアを見て笑う。


「笑った!」「きゃー! かっこいい」

 周りから悲鳴があがった。

 男女関係なく、レックスの笑顔に心臓を撃ち抜かれたらしい。


 オーレリアは何故笑われたのか分からず、首を傾けた。

 レックスの笑いのツボが分からない。

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