16
魔犬は栽培室に植えられた、月下美人を尻尾を振って見ている。
通常ならすぐ萎んでしまうが、オーレリアの魔力のおかげで咲いたままである。
そんな魔犬を見ながら、オーレリアは心ここに在らずだった。
昨夜のことが脳裏に蘇る。
ものすごく恥ずかしかったのに、嫌だと思わなかった。自分が自分じゃないみたいだ。
「はぁ」
思わずため息が出てしまう。
「どうしたのですか?」
話しかけてきたのは、赤髪の小柄な姫、ルビーだ。
「いや、ちょっと考え事を……ルビー様はどうしてここに?」
栽培室に姫がいるのは珍しい。オーレリアを除いて。
「少し一人になりたくて、ここは静かなのでお邪魔してました」
俯くルビー。
「何かあったのですか?」
オーレリアが訊ねると、ルビーはちょっと迷って話した。
「昨日、ルイ様と外で星を見ていたんですけど、少し肌寒かったのに、私上着を持ってなくて……そしたらルイ様が、自分の上着を貸してくれたんです」
「優しいですね」
ルイも心を入れ替えて頑張っているようだ。
「はい。でも、ルビー様がそのせいで風邪をひいてしまったようで」
なるほど。だから元気がないのか。
「それはルビー様のせいではないですよ?」
オーレリアが話す。
「でも、わたしが上着を忘れたから!」
「いえ、ルイ様が弱かっただけです」
オーレリアが有無を言わさず伝える。
「ええ! そんな」
「ふふ、それは冗談ですが。次は上着を持って星を見たらいいんですよ」
「そうでしょうか?」
「はい。ルイ様は、ルビー様の笑ってる顔が好きだと思います」
「すっす……好き?」
ルビーが狼狽えている。同い年だが、小柄なせいか、かわいい妹のようだとオーレリアは思った。
「ルイ様の体調はそんなに悪いのですか?」
いちお、聞いてみる。
「少し熱がある、との事で」
「そうですか。それなら心配ないですね、明日になれば元気になりますよ」
オーレリアは微笑む。
ルビーにこんなに心配されて嬉しいだろう。今度ルイ様に教えてあげよう。
「オーレリア様は大丈夫ですか?」
「え? 私ですか?」
「先程、ため息をついていらしたので……」
オーレリアは昨日のキスを思い出す。
「はい……考えても仕方ない事なので、もう考えるのはやめます」
オーレリアはルビーに謎の宣言をする。
「それは! いいのですか?」
「いいのです」
魔犬が尻尾を振ってオーレリアに擦り寄ってきた。
「魔犬ですよね? 大きくて乗れそう……」
ルビーが呟く。
「それいいですね!」
ちょっと試してみるオーレリアである。
魔犬は伏せて乗せてくれた。
「わぁ乗れた!」
「オーレリア様すごい!」
嬉しそうな魔犬と、はしゃぐ二人であった。
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