〜回想 魔犬〜
回想です。
前のご主人は、妖精の国の森に住む管理人だった。
城の近く、この森の湖のほとりには、十頭程の魔犬の群れが住んでいた。
年老いた犬に、大きな犬、小さな犬。そんな群れの中に、産まれたばかりの子犬がいた。
魔犬はどんどん数が減っている。いずれいなくなるのだろう。そんな事を知りもしない、子犬は母犬の胸の中で寝息を立てている。
「ワン!」
一頭の魔犬が吠える。それに気付いた魔犬が次々と走って行く。
「おー! 元気だな」
一人の男が湖に現れた。
そんな騒ぎに気付いて、子犬も顔をあげる。
人間が、じゃれついてくる魔犬を撫でている。
魔犬は夜行性だ。しかし人間が来るときは、皆起き出して撫でてもらいに行くのだ。
人間は、この森の中をウロウロ歩き回っては木や草花、土、湖の様子を見ているようだ。
そのうち子犬も撫でられたくて、男が来ると走っていくようになった。
しばらくすると男は、一人の少年を連れてきた。
「ワン!」
少年も優しかった。子犬が走って行くと撫でてくれたし、一緒に走り回って遊んだ。
一度、少年が夜に来たことがある。湖のほとりに座って一人で泣いていた。
子犬はそばに行ってみた。
少年は悲しそうな顔をして、子犬を撫でた。
「クゥーン」
なぜか自分も悲しい気持ちになる子犬だった。
「君も一緒に悲しんでくれるの? 優しいね……」
少年の足下に、白い花が咲いていた。いい香りに子犬が気付くと、少年もその花を見つけた。
「わぁ! これ月下美人だよ! 咲いた所、初めて見た!」
少年は泣くのをやめて、花を見て楽しそうな声を上げた。子犬は、楽しそうに何か話す少年に嬉しくなった。
それから、昼間に来る時も少年だけになった。そしてその内、少年は大人になり、腰が曲がっていった。
「ワン!」
一緒に走り回ってくれた、あの少年はもういない。
腰が曲がった男は、優しく魔犬達を撫でてくれた。そして、それからは誰も来なくなった。
魔犬の仲間も次々にいなくなった。そして、住んでいるのは自分だけになった。
子犬は仲間にも会いたかったが、一番は、一緒に遊んでくれた、あの少年に会いたかった。
そんな時、人が沢山やってきて、自分は檻に入れられ何処かへ運ばれた。
ここは暑い。家に帰りたい。一人は寂しい。
だんだん子犬は、何も考えられなくなった。
ただ白い花を見た事は、ずっと心の奥底にあった。
それを見つけたら、あの少年は笑ってくれる……
暗闇を歩いているような時間は、とてつもなく長く感じた。自分は生きているのか? 死んでいるのか? 全てが曖昧な中、突然輝く光が見えた。
「一緒に探すから、私の召喚獣になってくれる?」
子犬は返事をしていた。
力がみなぎる。自分は生きていたのだと分かった。
ーーーー
「魔犬おいで!」
主人は自分を撫でてくれる。ここには優しい人間が沢山いる。そして明るいこの時間でも行動できる。
「ワン!」
魔犬はオーレリアの元へ、元気よく走っていった。
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