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夏がやってきた。
空は青く、日差しが強い。
しかし、妖精の国の夏に比べると空気が軽く、カラッとしている。それに夕方になれば涼しい風が吹く。氷の国の夏は過ごしやすいのである。
対して隣の太陽の国は、外に出るのも憚られるほどの暑さになる。砂漠もあるこの国らしさである。避暑地へ避難する住民も多い。
太陽の国の魔法学園の生徒が、隣国の氷の国へ夏の間の短期留学に来るのは、毎年の恒例行事である。
「今年も夏の間の三ヶ月間、太陽の国の方が短期留学に来られます。このクラスには二名来られる予定なので、承知しておいてくださいね」
レース先生が説明する。
サン王子もこの学園に留学に来るとの事。
エイラはとても楽しみにしているようだ。
友のそんな姿に、オーレリアも幸せな気持ちになった。
サン王子は一つ年上なので、エイラの兄のノエル様と同じクラスだ。
◇
太陽の国の生徒がやってきた日。
留学生のルイが声をかけてきた。
「貴方がオーレリア様ですか? お噂は聞いていましたが、とても美しい方なのですね!」
健康的な肌色に、金髪の短髪、青い目の彼は正に王子的な見た目である。おまけに、彼は本当の王族。太陽の国の第二王子だ。
「ありがとうございます」
オーレリアは無難に返答する。褒められる事は未だに慣れない。
「よろしければ食堂まで、ご一緒にいかがですか?」
ルイはオーレリアの手を取り、エスコートしようとしているようだ。
「えっと」
推しに弱いという弱点があるオーレリア、
手を取られながら迷っている。
どうしよう……断ってもいいものか?
「あの、ルイ様……」
「ルイ君? 彼女にちょっかい出すのはやめてくれないか?」
レックスが横から颯爽と現れる。
「レックス君! 久しぶり! 相変わらずカッコいい!」
「いえいえ、ルイ君も相変わらず軽い!」
「なんでオーレリア様を誘っちゃいけないのさ?」
「俺の婚約者だからね!」
レックスの笑顔が怖い。目が笑っていない。
「それは知らなかった。でも、綺麗な人を口説かないなんて失礼だと思うよ」
ルイも中々引かない。手も中々離さない。
「あの、二人はお知り合い?」
オーレリアが話題を変えようと、話しかけてみた。
「まぁ、毎年留学に来るからね、知り合いになっただけだよ」
ルイが答える。
「そう言う事。オーレリア行こう! じゃあ後でね、ルイ君」
レックスはオーレリアの手をルイから取り上げる。そしてそのまま歩き出す。
「え? レックス?」
戸惑うオーレリアも一緒に歩き出す。
ルイは驚いた顔をして二人を見送っていた。
生徒が少ない教室から離れた所で、レックスは止まった。
「急にどうしたの?」
いつも王子らしく振る舞っているレックスには珍しく、何か焦っているようだ。
オーレリアは息を切らしている。レックスの早歩きは、オーレリアの小走りだ。
「悪い。ルイ君は女の子が好きなんだ。前の留学の時も何人も口説いてた……オーレリアを標的にされたくなかった」
レックスが下を向いている。
「そんな心配しなくても、私は大丈夫だよ?」
その言葉にレックスの目が光る。
「もう口説かれてたじゃん? オーレリアは綺麗だし、可愛いし、面白い。ルイ君がほっとくわけないだろ? いい加減自覚してくれ……」
レックスは片手で頭を抱える。ちなみに、もう片方は手を繋いだままだ。
「そっ! なっ!」
オーレリアは赤くなっている。
「すぐ照れる所もかわいいし……」
レックスの手がオーレリアの髪に触れる。
「!」
レックスがオーレリアの瞳を覗き込む。
距離が近い!
「ええと、そうじゃなくて……私はその、何を言われても、その方を好きになったりはしないって意味の心配しなくてもいいよ、です!」
なぜか敬語になるオーレリア。
「そうなの?」
レックスが驚いている。
「そうなの。私お腹空いちゃった」
「わかったよ。食堂行こう」
手は繋いだまま、二人は食堂へと歩き出すのであった。
◇
魔法学園にも一ヶ月ほど夏休みがある。
寮から帰省する者がほとんどである。
だが、オーレリアは帰れないので、寮にいようと思っていたが……無理になった。
学園内の全ての防御を確認して、強化するらしい。また生徒が攫われたりしないように、である。その為、学園へは夏休み中、寮も含めて生徒は立ち入れない。
どうしよう……
帰る所のないオーレリアは困った。
まさか野宿するわけにもいかない。しばらくホテル暮らしか?
「オーレリアは城へ来ればいい」
レックスが、さも当たり前のように言う。
「ありがとう……けど、お城の生活か」
以前お世話になった事を思い出し、息が詰まる。
「問題あるか?」
れっきとした王子であるレックスには分からないであろう。気ままな一人暮らしが、いかに楽しいかなど。
「緊張するな〜って思って」
伝え方を考えるオーレリアである。
「まぁ、慣れてもらわないといけないが。それならどこか出かけるか?」
「出かける?」
「少しの間なら大丈夫だ。護衛はある程度付くだろうが、緊張するほどじゃない」
「出かけたい!」
オーレリアは楽しみのために、誰かと出かける事をした事がない。
今から夏休みが、とても楽しみになったのであった。
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