13
エイラは太陽の国が誇る船の前に立っていた。
「大きい〜!」
国王と王妃が微笑んでいる。
海に浮かぶ船のような形だが、プロペラが沢山付いている。民家が三つは余裕で入ってしまうであろう大きさだ。
「この船が空を飛ぶんですね!」
カイルも感嘆の声をあげ、見上げている。
「動力源は何なのですか?」
エイラが質問する。
「太陽の光です。光を溜めて飛べる、この国らしいエネルギーですよ」
船の乗組員らしき人物が教えてくれる。
「それは素晴らしいですわ」
「エイラ姫、今回は息子が申し訳ございませんでした」
王妃がコソッと謝る。
「いえ、私は視察ですので……」
「公にはそうですけど、あなたも分かっていたでしょう? でも、気を悪くしないでくださいね、婚約が嫌なわけではないみたいだから……」
「嫌じゃない?」
「王妃、それくらいで……」
従者が王妃を促す。
「分かったわ」
「エイラ様、参りますよ」
カイルが振り向いて呼んでいる。
エイラは国王と王妃に一礼し、船に乗り込んだ。
船は外が見える甲板。中には操縦室、客室と別れていた。
「エイラ様、どうせなら甲板でいい景色を見ましょうよ」
カイルがはしゃいでいる。
三メートル近い木から飛び降りる男だ。高い所が怖いなんて発想はない。
「……そうね、皆さん見送ってくださってるし、少しだけなら」
プロペラが一斉に回る。
船が高度を上げ始める。
国王や王妃、兵達が地上で手を振っている。演奏も何やらしてくれているようだが、高所恐怖症のエイラは何も耳に入らない。
笑顔を貼り付けて手を振る。手すりに捕まった左手は、これでもかと強く握られている。
冷や汗が出てきた。
地上の人物が豆粒くらいになった所で、後ろを向く。
「カイル、私中に入るわ」
周りに気付かれないよう、声が震えないよう気をつける。
「分かりました! 部屋は……」
「エイラ様、私がお部屋へご案内致しましょう」
背の高い兵が跪く。
「あなたは、昨日の」
庭を案内してくれた兵だ。
「さぁ、お手を」
ナチュラルな動作はとても紳士的である。自然に手を出してエスコートされる。
「ありがとうございます」
微笑むエイラ。顔がこわばらないように意識する。
「こちらがお部屋です」
船の中に入ると、エイラはそっと息をつく。
部屋は船の奥の、おそらく一番豪華な部屋だ。
「分かりました。ご案内ありがとうございました」
エイラが優雅に一礼する。
すると、兵は後ろ手にドアを閉め、兜を脱いだ。銀色の短髪が現れる。こちらを見る瞳は赤である。
「エイラ様、申し遅れました。私、太陽の国王子、サン・アンリオと申します」
礼をしてエイラに近付くと、手を取る。
「こちらにお掛けください。先程から顔色が悪いですよ? もしかして高い所が怖いのでは?」
急に婚約者だと名乗られ、高所が怖かったのを見破られ、エイラは驚きで声も出ない。言われるがまま椅子へと座る。
「急にすみません。大勢の前で怖がっているのを指摘するのは良くないでしょうし、でも、あなたが無理しているのを黙って見ている事もできず」
「……いえ、ご心配ありがとうございます」
エイラは頭を下げる。
王族がこの船を怖がる事は、体裁上よくない。この婚約者は私の事を考えて動いてくれたのだ。
エイラが考えている間に、水を持ってきてくれた。
「お水です。今私も同じ水差しから飲みましたが、問題ないようです」
毒味までしてくれたらしい。
「ありがとうございます」
エイラは水を飲む。少し落ち着いた。
「大丈夫ですか?」
サンがエイラの顔を覗き込む。心配そうな顔をしている。
「ええ、落ち着きました。バレないように振る舞っていたつもりだったんですが……」
下を向くエイラ。
「私以外は気付いていないと思います」
サンは頷く。
「そうですか?」
「はい。私は貴方を見ていましたので、気付いただけですよ」
「え?」
「あ、いや! ごほんっ。とにかく、落ち着いて良かったです」
サンが笑う。昨日と同じ優しい笑顔だった。
エイラの顔が赤くなる。
「サン様はどうして兵に紛れていたんですか?」
エイラは意地悪く聞いてみた。
「本当に失礼を。申し訳ございませんでした。婚約者が来ると聞いて、自分に結婚などまだ早いと……逃げておりました。しかし、エイラ様が船から逃げずにいたのを見て、自分の子どもっぽさが恥ずかしくなりました」
下を向くサン。
「いいです。気持ちは分かります。結婚は私もまだ想像できません」
エイラが微笑む。下を向いて続ける。
「私からお父様へ、婚約のお断りを進言致します」
何故だか少し胸が痛くなった。
「それはなりません!」
サンがエイラの両手を握る。
「へ?」
エイラが顔を上げると、真剣な表情でサンがこちらを見ている。
「私は、貴方様に惚れたのです。婚約解消など、断じてお断りします!」
呆然とするエイラ。
意味がわかり、顔がまた赤くなる。
サンも耳が赤い。
「えっと……」
サンはエイラに跪く、
「私と正式に婚約していただけますか?」
二人は見つめ合う。
「……はい」
遅れて来たカイルが見たのは、手を繋いで笑い合う二人だった。
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